第4話 俺の頑張りを……褒めてくれ!!!

 遼一と相談して決めたことを実行し始めて早数日。既に俺は限界を迎えていた。「誰でもいい。俺を褒めてくれ!」と今にも叫びながら走りたいくらいだ。

 ヒューイとユーゴは、仲良く過ごしながらあちこちのグループを渡り歩いていた。アルバートたちとばかり過ごしていたからか、彼らの食いつきも良い。

 あ、これ……アルバートのパートナーに相応しいかどうかも確かめられるな。なんていう考えすら浮かぶくらい、最初は余裕があった――んだけどさぁ。


「なぁ……おかしくないか?」

「何が?」


 ユーゴが首を小さく傾ける。その角度、可愛すぎる。平凡な感じがするのに可愛い。これがレピペタ主人公の良さなんだよなぁ。

 それはそれとして。


「何でユーゴよりも俺の方がモテてるんだ?」


 そうなんだ。不思議と話しかけられるのは俺の方。だから必然的に俺が彼らとコミュニケーションをとるしかない。

 コミュ弱、っていうかコミュ下手? な俺からすれば、もうメンタルがゴリゴリやられていくんだよ。


「家柄とポジションだろ」

「は? 主人公補正は!?」


 俺の驚きに、ユーゴがあからさまに「お前、馬鹿か?」って顔をした。いや、だってここはレピペタの世界だし、そしたらユーゴが主人公だし、主人公には主人公補正がつきものじゃないか。

 少なくとも俺には……ん? 俺は、別にユーゴに対してそういう強制的な何かを感じたことないな。あれ? もしかして、主人公補正は存在しない?

 …………マジで?


「主人公補正がしっかり効いていたら、今頃お前は俺の手中に落ちてるはずだな」


 くい、と二本指で顎を上げさせられる。まぁ、俺の方が身長高いからすこーし見下ろす感じになるんだけど。

 そこから見る景色は、さっきまでとはちょっと違っていた。

 うーん……可愛いはずなのに、かっこいい。

 これ、主人公補正じゃないか?


「今、ちょっとだけユーゴがかっこよく見える……」

「俺に惚れても良いぞ」

「ぶふっ」

「きったないなぁ!」


 決め顔してくるユーゴを見て、俺は吹き出した。おもしろすぎるだろ。うん、さっきのアレは気のせいだな。主人公補正なんて存在しなかった。

 顔をしかめて俺から少し離れたユーゴは「あぁもう!」と叫んでいる。


「ユーゴが俺を笑わせたのが悪い。自業自得だろ」

「は? お前ね、昔からそうだけど自分が悪いとは思わないのか?」


 自分が悪い? 俺は少しだけ考えた。今までの俺の行動を振り返る。好き勝手はしてきたけど、誰かが嫌がるようなことはしてない。むしろ、誰かがやりたがらないことを代わりにやったりしたくらいだ。

 コミュニケーションがうまく取れない部分に関しては、悪いなとは思うけど。


「んー……あんまり。そもそも俺の影響力って小さいじゃん?」

「お前、そんな風に思ってたのか」


 なぜかユーゴに驚かれた。いやでも、俺の影響力はそんなに大きくない。元々庶民だし、前世ではゲームを作っていたのが評価されて就職できたと言っても、大手のゲーム制作会社じゃないし。

 たまたま同人ゲームのランキングに乗っただけだし。きっと、前世で俺がどうにかなってしまった時も、両親と数少ない友人、そして会社の人間の何人かが悲しんだだけだろう。

 そんな俺より、遼一の方が絶対色んな人に惜しまれたに違いない。仕事もできるし、シナリオだって限られた尺でしっかり魅せてくるし、俺なんかにも優しくて、周囲からも頼られていた気がする。


「ユーゴの方が、昔からすごかっただろ。いつも俺の憧れ」


 最後の言葉は顔を近づけてひっそりと。内緒話をするみたいに囁けば、ユーゴは目をぱちぱちと大袈裟に瞬かせた。

 そして、はぁ……と追加のため息。でも、その口元はさっきと違ってゆるく笑みを作っている。


「……そういえば、お前は意外と自己評価が低いんだったな。お前が思っているほど、評価は低くない。

 少なくとも、俺はお前を評価してる。憧れの評価、もちろん信用するよな?」


 あ、ちょっと照れてる。目尻をほんのりと赤らめて笑うユーゴに免じ、ひとまず頷いておく俺だった。

 が、そうしたところで状況が変わるでもなく。


「あっ、ヒューイ! おはよう! 今日は僕たちのとこにおいでよ」

「えー!? 今日は俺たちのグループで良いだろ?」


 アルバートのパートナーになりたいからなのか、アルバートを諦めて次点的な感じで俺に粉をかけておきたいのか、数グループが挨拶がてらに揉めている。

 仲良くしろよな……そういうとこ、減点だぞお前ら。


「なんかあいつらが立ちんぼの人に見えてきた……」

「おい、口を慎め」


 俺の失言にユーゴが窘める。なんだろう、この光景。夜の歌舞伎町っていうか、新宿っていうか……うん。

 ただの友情を求めている人間ってこの中に何割くらいいるんだろう。少なくとも、目の前の集団にはいなさそう。


「幼稚園児だと思え」

「な、なるほど……?」


 まだ俺たちと誰が仲良くするかで揉めてる集団を見て、そういう見方もあるかと納得する。「やぁだぁ! ぼく、○○ちゃんと遊ぶぅー!」と駄々をこねる子供。……確かに、こういうの見たことあるな。

 そっか、俺と同年代に見えるけど、中身は幼稚園児か。こっちは中身おっさんだよ。人生二周目だからな。

 自分で言って悲しくなってきた。


「全員で、遊ぶか? 追いかけっことか、隠れんぼとかの体動かす遊びなら、この人数でもできるしな。もしくは……ディベート?」

「どうしてそこでディベートが出るんだよ」


 揉めていた集団の視線が俺に集中する。ついでにユーゴの呆れた視線も。いや、もうこの人数でできる運動じゃないものって、これくらいしか思いつかないよ。

 お茶会にしたらまた揉めるじゃんか。


「勝ち抜きトーナメントで俺と模擬戦、とかでも良いけどさ、苦手なやつもいるだろ? だから、簡単なやつで、誰でも楽しめそうな遊びを考えただけなんだけどな。どうだ? やるか?

 やるなら手を上げてくれ」


 揉めてる姿を見続けるよりはよほど良い。俺は手を上げて笑顔で彼らを見回した。少しの間、俺の提案に固まっていた彼らはおずおずと手を上げ始める。

 少しずつ増えていく挙手。俺はユーゴに視線を向けて「これでどうだ」と口元を歪ませた。俺の仕草に気づいたユーゴは鼻で笑う。

 えっ、浅知恵すぎる?


「……お前らしくて、良いんじゃないか?」

「ユーゴ、馬鹿にしてるな?」

「まぁな。本当に幼稚園児向けで、面白いよ。頑張って、保育士さん」


 幼稚園児扱いされなかっただけ、マシだな!

 俺はそう思うことにした。本当に、誰か。俺の頑張りを褒めてくれ。

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