第17話 悪役貴族、森を伐り開く






 我が愛しのドラーナ領に帰ってきた。


 突然だが、ドラーナ領は思っているよりも遥かに広い。

 ともすれば一介の男爵が賜るには広すぎると言っても過言ではないだろう。


 では何故そのドラーナ領を、アスランが王国から賜ったのか。


 ドラーナ領の属するガルダナキア王国は、国力で周辺諸国よりも頭一つ優れている。

 そのせいか、侵略戦争を繰り返すお隣のアトラルタ帝国から弱国を守るための盾のように扱われているのだ。


 王国は常に帝国とバチバチに睨み合っている。


 だからガルダナキア王国は、国力の強化を否が応でもせねばならない。


 ドラーナ領は領地の九割近くを森林や川が占めている大自然で溢れる地。

 専門家の推測では鉱山資源が豊富で、その開拓が急務となっている。


 しかし、開拓は簡単ではない。


 アホみたいに広い森を切り拓いて、川の周囲に堤防を築き、人が活動できる拠点として作り変える。


 それには長大な時間と労力が必須だ。



「兄様、それは何を作っているのです?」


「テレテレッテレー、電動ノコギリぃ」


「?」



 ウェンディにドラえ◯んは通じない。


 子供なら誰もが一度は友達になりたい青だぬきネタが通じないのは軽くショックだ。



「デンドウ? 普通のノコギリとは何が違うのです?」


「すまない、ウェンディ。正確には魔力で動くから魔動ノコギリだな。魔力を流すとぶるぶる震える。やってみて」


「だ、大丈夫なのですか? その、急に爆発したりは……?」


「大丈夫大丈夫。……多分」


「怖いのです!!」



 魔動ノコギリよりもぶるぶる震えるウェンディ。かわいいな。


 しかし、嫌がる妹に無理強いするのは気が引けるので、俺が自らの手で魔動ノコギリに魔力を流してみる。



「おお、凄い振動だ。……ふむ」



 俺はふと思ってしまう。


 なんかこの魔導具、これと言って深い理由は無いが、なんか卑猥だな。


 本当に深い理由は無いけども。



「に、兄様!! 手、手!!」


「……おっと。考え事に集中しすぎたな」



 どうやら手をスパッとやってしまったらしい。


 いや、スパッというより、グチャッて表現の方が正しいかも知れない。


 めっちゃ痛い。



「ああっ、まったくもう!! クノウくんったら!!」


「やっぱり兄様にはお義母様の監視が必須なのです」



 ウェンディに呼ばれてやって来たフェルシィが治癒魔法で千切れかけの俺の指をくっつける。


 最近のフェルシィは凄い。


 カリーナから魔法を教わっているからか、『幻想物語』の中盤くらいに扱う魔法を使えるようになっていた。


 あ、何ならウェンディも凄いよ。


 最近は激強婆さんことマーサさんに才能を見抜かれて鍛えられており、森に出るような弱い魔物ならワンパンできるようになっている。


 流石は人気ヒロインたちである。


 指がくっついた俺は、フェルシィに頭を下げて謝罪した。



「すみませんでした。次からは気を付けるので母様には内緒にしてください。最近やっと監視が無くなったばかりですし」



 俺は作るものが毎回爆発するため、最近までカリーナに大人の目が無い場所での魔導具の作成を禁止されていた。


 しかし、近頃は大人しくしていたので、その禁止がつい先日解かれたのである。


 また禁止になったら嫌だ。

 なのでフェルシィにカリーナにだけは言わないで欲しいと懇願する。



「……もう作業中に余所見しない?」


「しません。神に誓っても良いです」


「……分かったわ。お義母様には言わない。ウェンディも黙っててあげてね」


「姉様、兄様に甘過ぎるのです」



 やりたいことができなくなる俺への同情からか、フェルシィが黙認してくれた。


 俺は魔動ノコギリの調整に入る。


 すると、俺の作業する様子を興味深そうにウェンディが横から覗いてきた。



「ところで兄様、ノコギリが振動すると何か変わるのです?」


「どうだろう? バイブレーションソードとかあるし、ノコギリでやったらめっちゃ早く木を伐採できないかなって思って」



 というわけでやって来たのは、ドラーナ領のやたらと広大な森。


 今日はドラーナ領の領民が総出で森の木を伐採する日だ。

 領土拡大のために定期的に開催している森林伐採大会である。


 しかし、俺はちょっぴり反対だった。


 無闇やたらな森林の伐採は土砂崩れを起こしかねない上、満ち溢れているドラーナ領の大自然の魔力を損なってしまう。


 そうなったら最後、俺の作る魔導具はその大半が使えなくなる。


 宮廷魔導具師のガレオス曰く、俺の魔導具は大気中の魔力を自動で吸収して稼働しているらしいからな。


 自然を減らすということは、自然の魔力も減ってしまうということ。


 必要なのは自然との完全なる調和だ。


 だからアスランとカリーナに進言し、今後の領地開拓案を提案した。



「つーわけで、お前ら!! うちのクノウが作った魔導具を使いたいなら計画的な森林伐採をしなきゃならん!! 分かったな!!」


「「「「おおー!!」」」」



 アスランの大声に森の入り口に集まった領民たちが反応する。

 その様子を俺の隣で見ていたカリーナが、満足そうに頷いて微笑む。



「皆、クノウの作った『三輪自動車』の利便性を忘れられないようですね。……爆発の危険性は別として」


「大丈夫です。魔力の過度な吸収を防ぐ方法の基礎をガレオスさんから教わって改良済みなので!!」


「……私の記憶が確かなら、その手のものは開発にかなり時間がかかると思うのだけれど……」


「意外とイケました」



 王都での滞在中、俺はガレオスから魔力効率の改善法や大気中の魔力の過剰吸収を防ぐ機能の仕組みを教わった。


 あ、詳しい仕組みとかはナイショな。いわゆる守秘義務ってヤツである。


 魔力効率の改善は使用をドラーナ領内に限定するなら関係無いからな。

 暴走を防ぐために大気中の魔力を過剰吸収しない機能を搭載するだけなら難しくなかった。



「クノウくん!! この魔動ノコギリ凄いわ!!」


「力の弱い女の子でも木をどんどん伐れるのです!!」


「それは良かったです」



 フェルシィとウェンディが嬉しそうに言う。


 二人は俺の作った魔動ノコギリを片手に持ち、ガタイの領民たちに混じって木を伐っていた。

 どうやら魔動ノコギリは不具合無く使えているようだ。


 今まで体力の問題で木の伐採を手伝えなかった領内の女性数人に持たせてあるため、効率が凄いことになっている。


 女たちのその様子を見て、斧で頑張っている男たちも過去最速の早さで木を伐り倒してるし。


 ホントに凄いよね。



「カリーナ!! そろそろ頼むー!!」


「母様、出番ですよ」


「分かりました。皆、少し離れてなさい」



 俺たちは伐り倒した木から離れて、カリーナが一歩前に出る。


 そして、カリーナは魔法を発動した。



「アースコントロール」



 その瞬間、伐採した木の切り株が盛り出て引っこ抜かれる。


 魔法が存在するが故のやり方だな。


 ……それにしても。



「今日は暑いなあ」



 最近は晴れが続いており、やたらと気温が高い。

 まだまだ夏は先だと言うのに、この暑さはやめて欲しいな。


 こういう日は温かいお風呂に入って汗を流したくなる。


 かといって人が肩まで浸かれる程の湯船を作るのは難しい。

 本職の木工職人なら木で作るのも容易だろうが、少なくとも俺にはできない。


 俺に作れないものを作るためにスカウトしたテオが、王都からドラーナ領に引っ越してくるのはまだ先だしなあ。


 どうしたものか。


 と、その時。離れたところで何かの作業をアスランがカリーナの方に駆け寄ってくる。



「おーい、カリーナ!!」


「どうしました、あなた?」


「実は井戸を作ろうと思って何人かで地面を掘ってたんだが、変な匂いのする熱湯が吹き出てきてな。変な味だし、飲めたもんじゃないから魔法で埋めて欲しいんだ」



 え、変な匂いのするお湯……?


 ま、まさか!!



「ストップ!! 埋めちゃダメです!!」



 俺は大慌てでアスランとカリーナを止めるのであった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント魔動ノコギリ

触ったら指がすぱすぱ切れる。


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