第12話 悪役貴族、王都に到着する







「ヒャッハー!! 風が気持ち良いぜー!!」


「父様、一旦ストップ。揺れでレノ嬢がゲロる寸前です」


「すみません、限界です、おろろろ――」



 王都へ向かう途中。


 バイクが道を疾走しながら、荷台に乗るレノが虹色の液体を撒き散らす。



「王都まであと少しですよ、頑張ってください」


「無理です……死にそうです……おぇ、おろろろろろろろ」


「父様、少しスピードを緩めてください」


「うん? なんだって? 風でよく聞こえん!! 取り敢えずもっと飛ばすぞ!!」



 揺れが更に激しくなり、レノが若干涙目になってきた。


 可哀想に。



「……もう、駄目……お嫁に行けません……」


「レノ嬢は可愛いですし、きっと引く手あまたですよ」


「か、かわいい……」


「息子よ、お前はそこで『俺が嫁に貰ってやる』って言えないからダメなんだ」


「聞こえてるじゃないですか。母様に言いつけますね」


「ごめん。待って。お願いだからやめて」



 まったく、この男は。


 俺はレノの背中を擦りながら、出来るだけ優しく声をかける。



「大丈夫ですか、レノ嬢」


「……は、はい、大丈夫です。……あの、私、可愛いですか?」


「? ええ、とても」



 俺の好みではないが。



「っ、そ、そうですか……うぷっ」


「うちの息子は罪な男だ」


「? どういう意味です、父様?」



 何故か急に耳まで赤くなるレノと何故かうんうんと頷くアスラン。


 よく分からんな。



「うぅ、吐いたらスッキリしました……」


「それは良かったです。水をどうぞ、口の中をすすいでください」


「ありがとうございます……。ところでクノウ様、こちらの『ばいく』は大丈夫なのですか?」


「? 大丈夫とは?」


「いえ、その、独りでに動く乗り物など初めて見ましたから。てっきり秘密の技術でも使われているのでは、と」


「あー、秘匿しなくて良いのかってことですか。大丈夫ですよ。特段、秘匿することでもないですし」



 漢字については夢で見た文字をそのまま使っていると言えば問題は無いだろう。


 仕組みとしてはかなり簡単だし、車軸に書いた魔力文字に関しても所詮は『超高速回転』の五文字だけだ。


 漢字ではなくとも同じ意味の言葉はこの世界には山程ある。


 秘匿するほどのものではない。


 ……こういうものを作る発想がないだけで、似たものがあっても不思議ではないしね。



「むしろ広めた方が何かと発展するんじゃないですか? あ、でも特許は取りたいかも。……この世界に特許の概念ってあるのかな?」


「トッキョ……?」


「あー、気にすんな。うちの息子はたまに難しいことを言うんだ」



 どうせなら世界で初めて自走する乗り物を作った偉人的な扱いでボロ儲けしたい。


 俺の求める理想の生活には金がかかる。


 なんせ前世の便利アイテムを魔導具として再現しようとしているのだ。


 資金が多くあって困ることはない。



「っと、ここから歩きだな。バイクのスピードで王都前まで行ったら、魔物と間違われて兵隊に囲まれそうだし。嬢ちゃんは荷台に乗ってても良いぞ」


「お言葉に甘えさせていただきます。まだ歩けそうにないので……」



 アスランがバイクを押し、レノは荷台の空いたスペースに座る。


 ぱっと見では珍しい形の荷車だからな。


 道で何度か商人や冒険者とすれ違ったものの、あまり視線は集めなかった。


 いや、どう見てもお嬢様なレノと田舎から出てきた男と幼い少年というグループを奇異な目で見る者は多かったけども。


 必要以上に目立つことは無く、順調に王都へと近づいていた。


 しかし、ここで問題が発生。


 俺はアスランの負担を軽くするため、後ろから荷台を押していたのだが……。

 そうすると、ちょうど俺の目の前にレノがいるわけで。



「クノウ様、どうかなさいましたか?」


「……いえ、何でも」



 パンツ見えてんだよなー。


 レノの着ているドレスの裾が捲れて純黒の下着が見え隠れしている。


 角度的に俺にしか見えていないだろうから、レノが大勢の前で恥を掻く心配は無い。


 見えているのは俺だけであり、ここで俺が知らないフリをすれば、レノは何も知らずに王都まで辿り着ける。


 でもこのまま彼女の下着を見続けるのは俺の中の良心が全力で拒否している。


 というか、こういうのって普通ドレスの下に見られても良いやつとか履いてるんじゃないの? 知らんけど。


 それにしても……。



「……大人だな」


「?」



 俺は思わず呟いてしまった。


 黒のレースがふんだんに使われている、少し大人なデザインの下着。


 うっすらとした薄めの生地で、その向こう側が見えそうだった。


 ……はあ。


 レノがもう少し年上の女性だったら、心臓がドキドキして危なかったかも知れない。



「――ッ!!!!」



 と、そこで俺が何を見て呟いたのか察したらしいレノが顔を真っ赤にする。


 しかし、特に怒るわけでもなく……。



「み、見ましたか……?」


「いえ、何も」


「な、なら、良いです」



 耳で顔を赤くするレノは、普通に可愛かった。


 王都前に到着し、軽い検査を受けてから巨大な門を潜って王都の中に入る。



「本当に家まで送って行かなくて大丈夫か?」


「は、はい!! お母様がお城で働いていますから」


「そうか。もう拐われないようになー」


「はい!! ありがとうございました!!」



 王都の中心にある大きな城、その前でレノは荷台から降りた。


 王城で働いているということは、やはり高位貴族の令嬢なのだろう。



「……ああっ!! 思い出した!!」



 レノと別れて手頃な宿を探していた時、アスランが何かを思い出して手を叩く。


 なんだ? 前世の記憶でも思い出したか?



「どうしたのです、父様?」


「いや、あの嬢ちゃんをどこかで見たことあると思ったらあの女と似てるんだ!! まさか、あの女の娘だったのか……?」


「父様、レノ嬢の母君とお知り合いなので?」


「おう!! あの薄めの金髪といい顔立ちといい、そっくりだ」



 そうか、アスランはレノの母親と知り合いなのか。



「お礼をたんまりもらえたら嬉しいですね。可能なら現金が良いです」


「十歳の息子が現金が良いとか言い始めた親の気持ちを考えろ……。しかし、現金ならまだマシだな」


「? 現金ならまだマシとは?」


「……なんでもない。さっさと宿を見つけて、明日は王城に行くぞ。王都観光はその後だ」


「あ、はい。分かりました」



 それから俺たちは少しお高めの宿を取り、その日は休むことにした。

 馬車を停められる宿だったので、バイクはそこに停めておく。


 なお、アスランは俺の目を盗み、宿をこっそり抜け出して娼館に行ってしまった。


 王都観光は後とか言ってたくせに。


 これは事の顛末をしっかりカリーナに報告しないといけないな。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントカリーナに報告後

アスランはまた埋められた。


「開幕ゲロインで笑った」「レノの母は誰やろな(すっとぼけ)」「アスラン懲りてなくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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