第13話 悪役貴族、ガン見する




「あの、父様。俺はてっきり王城務めの官僚の方にゴブリンキングのことを話すだけだと思っていたのですが……」


「そうだな」


「どうして女王陛下へ謁見することになっちゃったんですか? しかも絶対に俺を連れてこいって。俺、何かしました?」


「……」



 アスランは口を噤む。


 昨日の夜。

 王城でレノと別れる際、アスランは王城で働く知り合いの官僚に会うための手続きをした。


 流石にいきなり王城で働く偉い人に会うのは難しいだろうからな。


 アポを取るのは大切なことだ。


 しかし、何故か昨日の夜に急ぎの使者が俺たちの泊まる宿までやって来た。

 その使者によると、俺も一緒に登城して欲しいとのこと。


 アスランが娼館で美女とズッコンバッコンしてる間の出来事である。



「しかも、どう見ても木っ端の男爵とその息子を迎えるような面子じゃないです。宰相どころか財務大臣や軍務大臣、法務大臣まで。騎士団長や四大公爵家の当主も……」


「お前、仮にも親を木っ端呼びは……」



 謁見室の扉を少し開いて、中の様子を見ながら小声で話す。


 集まっているのはガルダナキア王国の未来を背負う者達ばかりだ。


 これ程の顔ぶれがゴブリンキングの報告を聞きに集まっただけとは到底思えない。



「あの、そろそろ皆様がお待ちですので、入室していただけるとありがたいのですが……」


「仕方ない。覚悟を決めろ、クノウ」


「えー?」


「こら、えーとか言わない」



 若手の騎士がとても申し訳なさそうに言ってくるので、俺とアスランは謁見室に入った。


 騎士の人が俺たちの入室を謁見室にいた人たちへ知らせる。



「ドラーナ男爵とご子息です」



 視線が一斉にこちらに向いた。


 一応、俺は子爵家出身のカリーナからそれなりの教育を受けているため、マナーについては問題無いはず。


 でも相手は高位貴族だし、下手な真似はしないようアスランの後ろで黙っておこう。



「よく来たな、アスラン」


「女王陛下に置かれましてはご壮健そうで何よりです」



 高価そうな椅子に座って脚を組む女王に対し、アスランが片膝を着いて頭を垂れた。


 俺もアスランを真似て女王に頭を下げる。


 こういう時、相手の許しがあるまで頭を上げてはならない。

 カリーナから教わったマナーに従い、しばしアスランと女王の会話に耳を傾ける。



「くっくっくっ、そなたの敬語は気味が悪いな。よい、楽にせよ」


「……承知しました」



 女王が親しげにアスランへ話しかける。


 一国の女王と仲が良さそうって、やっぱりアスランは凄い男なのだろうか。


 いや、仮にアスランが凄くても下半身がだらしないから減点だな。うむ。



「ところで、そなたの後ろにいるのが息子か。どれ、顔を上げるが良い」



 ゲッ、こっちに声をかけてくるのか。


 内心で緊張しながらも許しを貰ったので、俺はゆっくりと顔を上げて女王を見た。




 うおっ、でっか!!




 女王はめちゃくちゃ美人だった。


 人形のように顔立ちが恐ろしく整っている絶世の美女である。


 あと胸部の装甲がとにかくデカかった。

 カリーナがメロンだとしたら、女王は大玉スイカだろう。


 軽く身体をよじっただけで激しく上下する様は圧巻の一言に尽きる。


 髪は薄い金髪をしており、瞳は綺麗なアズール色をしていた。

 真紅色のドレスが見事にマッチしており、ただでさえ美女なのに更に数ランクは美女具合がアップしている。


 ……あれ? 誰かと似ているような……。


 女王の髪色や瞳の色、顔立ちとよく似た人物と最近どこかで会った気がする。


 いや、その前に。



「余はフレイヤ・イース・フォン・ガルダナキア。ガルダナキア王国の女王である」



 そうか、この女の人がフレイヤか。


 出番は少ないものの、実は女王フレイヤは『幻想物語』の本編にも登場していた。


 フレイヤには幼い娘が一人いたのだが、その娘を魔王の手先となった裏切り者の騎士に連れ去られてしまうのだ。


 フレイヤは娘を取り戻そうと躍起になり、無茶が祟って体調を崩す。


 しかし、執念によって娘が魔王の住まう城、魔王城にいるという情報を得たフレイヤは、少数精鋭による救出部隊を結成した。


 それがプレイヤーことゲームの主人公ら、勇者パーティーだ。


 ちなみにゴブリンキングの件で処刑寸前だったクノウを、フェルシィやウェンディの勇者パーティー加入を条件に助けてくれた人物でもある。


 まあ、本編に登場したと言っても、ゲーム画面には一度も出てきていない。


 本人は既に体調を崩して病床に伏せっているし、人前に出られる状態ではなかったというのが正しいかも知れないが……。


 まさかここまでスタイルの良い美女だとは思いもしなかった。



「くっくっくっ、流石はアスランの息子だな。自己紹介もせず余の胸ばかり見るとは」


「あっ、も、申し訳ありません」



 どうやら俺はフレイヤの胸をガン見したまま思考していたらしい。

 慌ててフレイヤの胸から視線を逸らし、自己紹介をする。



「クノウ・ドラーナと申します」


「……ふむ。余の胸ばかりジロジロ見るのでアスラン似かと思ったが、そなたはカリーナ似だな。父親と違って所作に美しさがある」



 一応、その評価は褒め言葉として受け取っても良いのだろうか。 


 というかこの女王、カリーナとも知り合いみたいだな。


 女王と顔見知りって普通に凄い。



「そなたとは話したいことが色々あるが……。まずはドラーナ領で出たというゴブリンキングの話を聞こうか」


「はっ」



 アスランがゴブリンキングについて報告すると、女王は何度も頷いた。



「……そうか。よくぞゴブリンキングを討ち取った。放置しておけば、王国は多大な被害を被っていただろう。ドラーナ男爵の忠義と献身、嬉しく思うぞ。あとで褒美を取らせよう」


「ありがたき幸せ」


「さて、ようやく本題に移れるな。クノウ、前に出るが良い」


「? はい」



 俺が本題ってどういうことだ?


 と、内心で首を傾げながら、言われるがまま俺はフレイヤの前に出る。



「そなたには礼を言わねばならん」


「礼、ですか? ……申し訳ありません。心当たりがありませんが」


「ふっ、そうであろうな。エレノア!! 入ってくるが良い!!」



 フレイヤがそう言うと、見覚えのある少女が謁見室に入ってきた。


 昨日、拐われる寸前だった少女レノである。



「昨日は助けていただき、本当にありがとうございました、クノウ様」


「レノ?」


「それはお忍びで城下へ遊びに行く時の仮の身分の名前でして。わたくしの本当の名は、エレノア・フォン・ガルダナキア。ガルダナキア王国の第一王女ですわ」


「……」



 なんてこったい。


 いや、言動からして高貴な身分であることは確信していたが、予想より大分高貴だった。



「昨日、余の娘を護衛していた騎士が裏切ってな。他国へ引き渡そうとしたのか、あるいは別の目的があったのか。エレノアを拐ったのだ。城の宝物庫から王国の秘宝である古代魔導具『転移輪』を盗み出してな」



 ああ、そういうことか。


 どうやら俺はゲームのシナリオ通りに拐われる寸前だったフレイヤの娘、王女エレノアを救出してしまったらしい。


 やっちまったな!! もう笑うしかない。


 誤って轢き殺してしまった相手が勇者パーティー結成の切っ掛けとなる誘拐事件の犯人とか、もう色々と分からん。


 困惑する俺を無視して、フレイヤは話を続ける。



「エレノアの話によると、ケルベク――元護衛の騎士は魔王がどうたらと言っていたそうだが、そんな昔話のような存在が実在するとは思えん」



 いえ、魔王は存在しますよ。


 でも成る程。

 俺がエレノアを助けちゃったからフレイヤは血眼になって魔王を探さなくなってしまったのか。


 もしかしたら勇者パーティー云々の流れすら消えてしまうかも知れない。


 あれ?

 もしかして俺、シナリオをめちゃくちゃにしてしまったのでは?


 ……よし、気にしない方針で行こう。


 どのみち魔王が台頭し始めたら、嫌でも王国は対応せざるを得ないだろう。

 勇者パーティーの結成はその時に行われるだろうし、大丈夫だ。多分。



「クノウ、礼を言う。お陰で余の娘が助かった」


「いえ、まあ、それほどのことでは――」



 次の瞬間、フレイヤは驚きの行動に出た。


 王座から立ち上がり、コツコツという足音と共に近づいてきて、俺を力強く抱きしめたのだ。


 あ、大きくて柔らかい……。


 それが何の感触であるのか理解するまで、数秒の時を要した。



「じょ、女王陛下……?」


「ありがとう。そなたは余の何よりも大切な宝を、娘を取り戻してくれた。言葉では言い尽くせない程の感謝を。本当に、ありがとう」



 う、うーむ。


 たしかにゲームのフレイヤは娘を取り戻そうとかなり必死っぽかったし。


 ここまで感謝されるのは納得、かな。



「……お、お母様、長いです!!」


「む?」


「だ、だから、その、クノウ様に抱きつくのははしたないと思います!!」


「ふっ、ははは!! たしかにそうだな。許せ、クノウ」


「いえ、お気になさらず」



 俺は視線を逸らしながら気にしてないと言う。


 本当はもう少し、あの大きくて柔らかいものを堪能していたかったのだが……。


 黙っておこう。



「さて、クノウ。そなたには褒美をやろう」


「褒美ですか? そんな、恐れ多――」


「気にするな。先ほども言ったが、そなたには感謝してもし足りん。余なりの礼と思ってくれ。まさか、余の礼を断る臣下がおるまいな?」


「……ありがたく頂戴します」



 無言の圧力を感じて、思わず頷いてしまった。


 フレイヤは嬉しそうにニコニコ笑顔を浮かべると、衝撃の褒美を口にする。



「ではクノウ、そなたに準男爵の地位を授ける」


「……ふぁ?」


「今後も余と王国のために励むが良い」



 準男爵。


 一代限りではあるが、男爵と同じだけの権力を持つ貴族のことだ。



「女王陛下!! いくら何でも、こんな子供に爵位を与えるとは正気ですかな!?」



 成り行きを見守っていた重鎮の一人が思わずといった様子で叫ぶ。


 もっと言ってやって!!


 子供の身で準男爵になるのは荷が重いよ!! 絶対に嫌だよ!!


 と、その瞬間だった。



「……ほう。そなたは余の娘が準男爵という爵位より大切ではないと言うつもりか」


「!?」



 フレイヤが謁見室の温度が氷点下になったかのような、冷たい殺気と圧を放ち始めた。






―――――――――――――――――――――

あとがき

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今のところ作中最胸。


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