第7話 悪役貴族、自動三輪車モドキを作る





「今日中に全部の作物を収穫するぞー!! ゴブリン共をぶち殺すのはその後だ!! 急げー!!」


「「「「おおおおーっ!!!!」」」」



 アスランが領民に指示し、農作物を収穫。


 そして、収穫したものを俺が逃走用に作った三輪自動車の荷台に乗せ、防衛拠点となるドラーナ家の屋敷まで運ぶ。


 領民の各家にあった荷車を改造し、合計で十数台となった三輪自動車による運搬だ。


 作業効率が違う。



「凄いですね、クノウ!! 貴方の作ったものですから最初は爆発するか心配でしたが、この魔導具は便利すぎます!!」


「仕組み自体は簡単ですから、爆発はしないですよ。母様は俺の作ったものをなんだと思ってるんですか」



 まったく、カリーナは酷い女である。



「この調子なら今日中には農作物の収穫が終わりそうですね」


「……はい。そしたら、あとはゴブリンを倒すだけです」



 ゴブリン。ゴブリンキング。


 クノウが作中で悪役となる原因を作った、憎き魔物である。


 彼らはゴブリンを討伐しに森に向かったクノウの父、つまりはアスラン率いる討伐部隊を卑怯な作戦で全滅させた。


 この世界のゴブリンは、女を犯して男の血肉を食らう魔物だ。


 カリーナはゴブリンに捕まるくらいならと、フェルシィやウェンディ、クノウを含めた領民が逃げるための時間を稼ぐために魔法で全力の抵抗をする。


 そして最後には自害するのだ。


 しかし、カリーナのその頑張りも虚しく一部の領民がゴブリンに捕まってしまい、人質となってしまう。


 森にいたゴブリンをやっとの思いで始末して戻ってきたアスランは、領民を人質に取られ、何も出来ずに殺される。


 討伐隊は全滅、カリーナは自害、残されたのは戦う力を持たない弱者のみ。


 その中で、唯一ゴブリンキングと交渉しようとする者がいた。


 それが悪役貴族、クノウ・ドラーナ。


 彼はフェルシィやウェンディを守るために、最低で最悪な契約をゴブリンキングに持ちかける。



『月に一度、十人の女を用意する。だから領民には手を出さないで欲しい。お望みなら食料や武器も譲る』



 と、土下座で懇願した。


 隣町で女の奴隷を買い、それをゴブリンキングたちに引き渡すのだ。

 奴隷を買う資金はアスランの貯蓄や領内の整備に使う税金から捻出した。


 しかし、この世界では奴隷にも人権がある。


 クノウの異常なまでの女の奴隷の購入に違和感を覚えた隣町の領主が王都の官僚に報告し、王国軍が派遣されてくるまでゴブリンキングの支配は続いた。


 その間、ゴブリンキングによって出た死者の数はおよそ三十人。


 クノウ・ドラーナは領民を、フェルシィやウェンディを人質に取られて逆らえなかったとは言え、大量殺人に手を貸したも同然。


 クノウが弱小領地の悪役となる過程は、ざっとそんな感じだ。


 そこからフェルシィやウェンディが俺の助命を嘆願、二人が魔王討伐隊こと勇者パーティーに加わるという流れだな。



「上手く行くかな……」



 失敗したら目も当てられない。


 しかし、誰もゴブリンキングの存在を知らなかった『幻想物語』の本編に対し、今回はそれがいることを前提に作戦を立てている。


 大丈夫だ。きっと、きっと上手く行くはず。



「心配する必要はありませんよ、クノウ」


「母様?」


「貴方の父はどうしようもないところもありますが、こと戦争においては一晩で五十人の敵国の兵と将軍を討ち取った英雄。ゴブリンに負けることはありません」


「……母様はなんだかんだ言って、父様が好きなんですねぇ」


「結婚とは良いものですよ。クノウもそろそろ婚約者を見繕った方が良いかしら」



 婚約者、か。



「どうせなら年上の美人な人が良いです。どなたか紹介してください」


「考えておきます。ところでクノウ、それは何を作っているのですか?」


「てれてれってれー、大型二輪〜♪ ……です」



 ドラえ◯ん風に言ってみたが、当然カリーナには通じなかった。


 俺は誤魔化すように話を続ける。



「いざという時、こいつでゴブリンを轢き殺そうかと」


「そ、そう……」


「……冗談です。三輪自動車を作った時の廃材からもう一台くらい乗り物を作れないかなと思いまして」



 今は一台でも農作物を運べる乗り物があった方が良いだろうからな。


 材料が木やロープのような、有り合わせのもので作った代物だから耐久性は期待できないが。


 轢き殺そうというのは冗談だ。……半分はな。


 子供の俺には戦う力が無い。

 だから乗り物に乗ってゴブリンを轢くくらいしかできることがないのだ。


 万が一、万が一の保険である。



「兄様、それは何なのです?」


「うおっ、こ、こら、ウェンディ。後ろから抱きつくのはやめなさい。手元が狂ったら危ないだろ。爆発しても知らないぞ」


「ご、ごめんなさいなのです」



 サッと身を引くウェンディ。


 可愛いけども、そこまでビビらなくても良いのではなかろうか。



「また凄いものを作ってるわね、クノウくん」


「あ、はい」


「……?」



 ウェンディに遅れてフェルシィも来た。


 理由は分からないが、何故かフェルシィの顔を見られない。


 素っ気ない返事をしてしまった。


 俺がアスランやカリーナにゴブリンキングのことを伝えられたのは、間違いなく彼女のお陰だと言うのに。


 この態度は良くないな。



「姉様」


「ん? どうしたの?」


「昨夜は、ありがとうございました」


「ふふ、私はお姉ちゃんだもの。可愛い弟が悩んでたら、相談に乗ってあげるのは当然よ」



 そう言って、作業中の俺の頭を優しく撫で撫でしてくる。


 うちのお姉ちゃんが女神すぎて尊い。


 と、その時。アスランが大きな声で領民たちに指示を出す。



「よーし、お前ら!! 次の畑で最後だ!! 『じどーさんりんしゃ』を使って魔力が尽きたら他のやつと交代しろよ!!」



 領民たちはテキパキと動いて、次の畑の農作物を収穫し始めた。

 アスランは休憩のためか、俺たちの方に近づいてくる。


 そして、俺の作っているバイクモドキを見て一言。



「うお!? な、なんだ、これ!! めっちゃカッコイイな!!」



 男の子は何歳になってもバイクとか好きだからなー。


 どうやらアスランも、そういう感性の持ち主だったらしい。



「乗ってみます?」


「い、良いのか!?」


「はい。試しに魔力を流してみてください」



 木造バイクに跨がったアスランが、ウッキウキでハンドルを握り、魔力を流す。


 仕組み自体は自動三輪車と全く同じなので、起動させるのに苦労は無いようだった。


 ギュオオオンッ!!!!


 という音と共に車軸が猛回転、アスランは少し進み、一旦停車した。



「す、凄いパワーだな!!」



 そりゃそうだ。


 そいつの車軸には漢字で『超高速回転』と付与してみた。

 速度指定はしていないので、どこまでスピードを出せるか分からないのが不安だけど。



「ちょっと領内をひとっ走りしてくる!!」



 そう言ってアスランはバイクに乗ったままどこかへ走り去ってしまった。


 ……あっ。



「ブレーキ付けてなかった。というか冷静に考えたら、木製の車輪で舗装されてない道を走るのは危ないよな。他の自動三輪も改良した方が良いか。それにサスペンションなんて無いからお尻が痛くなるかも……。ま、父様なら大丈夫か」



 などと楽観視していたら。


 事故って畑の脇に突っ込み、頭から血を流したアスランが損壊したバイクを担いで戻ってきた。


 幸いにもカリーナの治癒魔法で大事には至らなかったが、俺もアスランも説教6時間コースに突入する羽目に。


 事故ったのはアスランなのに……。


 でも改善点が見つかったのは良しとしよう。

 アスランのお陰で次に作るものはより良いものとなるはず。


 技術とは、犠牲の上で成り立っているもの。


 アスランが怪我をしたのも、俺が一緒に叱られているのも仕方ない犠牲なのだ。


 え? 怪我をしたアスランの方が犠牲者だろって?


 それはそう。




―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

アスランの盛大な事故を見て、領民は安全運転を心がけるようになった。



「爆発にビビるウェンディかわいい」「フェルシィかわいい」「ブレーキ無しバイクは怖い」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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