第29話 悪役貴族、家族で団欒する




 三年の月日が経った。


 ドラーナは正式にグナウセンから領地を割譲され、王国の地図が書き変わる。


 惜しむらくは今年から俺が王都にある学園に通わねばならないことだろう。

 船を作ったり、魚を食べたりするのはしばらくお預けだ。


 ドラーナ領の領民は今や千人を超えており、年々少しずつ増加している。


 温泉の魅力が冒険者や傭兵だけでなく、王国中にまで広まった結果だ。

 商人の往来も増えて経済的に大きく発展したドラーナ領は、温泉街の拡大を始め、グナウセンから賠償として受け取った鉱山の開発を行った。


 そしたらまあ、なんか凄いお金持ちになった。



「三人は学園に行ったら、何科に入るんだ?」



 夕食時。


 家族揃って好景気で少し豪勢になった食事をしていると、アスランが何の前触れもなく聞いてきた。


 俺とフェルシィとウェンディは十三歳になったからな。

 そう遠くないうちに三人で王都へ旅立つことになっている。


 王都の学園は俺の思っているよりも仕組みがしっかりしていた。


 簡単な試験で基礎的な学力を計り、特に人数制限も無いため、問題のない範囲であれば希望する学科に入ることができるそうだ。


 学力に関してはウェンディに一抹の不安が残るものの、そこはカリーナのスパルタ教育。


 ここ最近はほぼ毎日勉強漬けで成績がフェルシィに追いついてきた。

 ちなみに俺も問題の無い範囲でカリーナから合格を貰っている。


 問題は誰がどの学科に入りたいのか。


 アスランも一人の親として、子供の将来を心配しているのかも知れない。

 


「ウェンディはまだ決めてないのです」



 最初に口を開いたのはウェンディだった。


 ウェンディが最も得意とするのは、己の拳を用いた肉弾戦闘だ。


 しかし、残念ながら王都の学園に格闘科は無い。


 そもそも王都の学園は貴族としての義務やら何やらを学ぶための場であり、戦闘技術を教えるのは本懐ではないからな。


 まあ、辺境を治める領主貴族の令息令嬢にとっては領内に出る魔物の退治も立派な役目だ。


 そのため学園には剣士科や魔法科など、戦闘を専門に教える学科もあるにはある。

 かくいうカリーナも学園の魔法科を卒業した経歴の持ち主だしね。


 ただそれらの学科は作られてから月日が浅い。


 女王フレイヤの親、つまりは先代国王が戦を学びたいフレイヤのために用意した学科だからな。


 建国当初から連綿と受け継がれ、洗練されてきた教育カリキュラムが存在する淑女科や紳士科と、剣士科や魔法科は勝手が違う。


 創設から十数年が経った今でもこれと言って明確な教育方針があるわけではなく、担任の指導方針が大きく影響する。

 それならば個々人で信頼できる者を雇い、戦い方を教わる方が遥かに良い。



「私は魔法科に入ります。……お義母様みたいになりたいので」


「フェルシィ……。まったくもう、この子ったら」



 頬を赤くしながら視線を逸らして言うフェルシィに対し、カリーナも恥ずかしそうに笑った。



「俺は錬金術科です」


「お前はそうだろうと思ったぜ」


「……あまり、先輩や同輩に迷惑をかけてはなりませんよ?」



 何故かアスランとカリーナから心配されてしまった俺である。


 王都の学園には淑女科、紳士科、剣士科、魔法科などの他にも様々な学科があるが、錬金術科はそのうちの一つだ。


 淑女科や紳士科同様、古くから王国に存在する学科だが、あまり人気はない。


 ではなぜ俺がその学科を希望したのか。


 それは魔導具師を目指すものであれば誰もが入学する場所だからだ。


 そもそも魔導具作りとは、広義的に言うと錬金術の一つ。

 命を探求する生命錬金術やもの作りを追究する錬成錬金術等々、細かい分類はあるがな。


 特に俺が学びたいのは後者の錬成錬金術だ。


 錬金術は魔力を用いるが、魔法とは異なる技術体系なため、頑張れば俺でも習得できるのが最大の魅力。


 ましてや魔力に関して言うならカリーナの血を色濃く継ぐ俺はフェルシィ以上だ。


 錬金術、絶対にものにしてみせる。


 というか習得しないと、テオがいない王都では何も作れなくなってしまう。


 頑張らねば。



「卒業までに何か凄いもの作るので、楽しみにしていてください」


「迷惑をかけないように!! 良いですね!? 周りに迷惑だけはかけないように!!」



 カリーナが念を押してくる。


 失礼な。俺が今まで魔導具作りで人に迷惑をかけたことがあったか?


 たしかに森林火災や爆発事故に関しては何十回起こしたか分からないが、あんなもの迷惑のうちには入らない。


 教室を吹っ飛ばすくらいならセーフだろう。



「まあ、クノウのことは一度置いておくとして。フェルシィとウェンディは、己の立ち振舞いを常に客観視しなさい」


「……はい」


「分かってるのです、お義母様」



 カリーナが言っているのは、二人がいわゆる妾の子だからだろう。


 貴族にとって妾の子というのは、少し問題を抱えやすい。

 周囲に侮られるし、それを否定するのは多大な労力を要するからだ。


 アスランが食べ物を口に運びながら、唸る。


 どうやらフェルシィとウェンディのことでカリーナの指摘に思うところがあるらしい。



「オレは言わなければ分からんと思うが……」


「王都の学園には宮廷貴族の子息も多いのです。少し調べられたら分かることですし、油断して二人が傷つくことを私は容認しません」


「お義母様……」


「あ、オレだってそうだぞ!?」


「父様はいつも母様に一歩及びませんね」


「ク~ノ~ウ~!! お前もカリーナみたいな嫁を貰ったら分かるだろうがな、男ってのは家庭内で孤立しやすいんだよ」



 原因はすぐに娼館へ通うお前だろうが。全国の真面目に生きているパパさんに謝れ。



「まあ、いざとなったら実力で黙らせなさい。ウェンディはマーサさんのお陰で今やアスランに次ぐ実力者ですし、フェルシィも私ほどではないにしろ魔法の才覚があります。何より……」


「何ですか、母様?」


「……何かあったら、クノウが何とかするでしょう。二人を頼みましたよ」



 それはもちろん。


 うちの姉と妹をいじめる輩がいたらそいつの家にいつ爆発するか分からない家電製品を送りつけてやる。



「クノウ、一応言っておきますが、二人を守るためでもやりすぎないように」


「振りですか?」


「違います」



 そうして家族団欒の時は過ぎ。


 俺とフェルシィとウェンディの三人が王都へ旅立つ日がやってきた。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「ネタがない」



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【改訂版】弱小領地の悪役貴族に転生したので最高に美人なヒロイン姉妹と革命開拓しようと思いますっ!〜前世の便利道具を再現してたら、いつの間にかシナリオをぶっ壊してた〜 ナガワ ヒイロ @igana0510

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