第26話 悪役貴族、ヘッドショットする




「……シテ……殺……シテ……」


「ははは!! どうしたどうした? もう終わりか? おらあ!! もう一発じゃい!!」



 十時間くらい経ったろうか。


 辺りは日が沈み、アスランが食らった毒の治療も終わった。


 あとはヴィヴィエルをどうするか、だな。



「うーむ、困ったな。全く死ぬ気配が無いぞ」


「そういうキャラ……特性を持ってますから」



 十秒に一回の間隔で頭が吹っ飛ぶヴィヴィエルを見ながら、フレイヤが眉間に皺を寄せる。



「まあ、テオが大急ぎで弾を作ってくれてますし、まだまだ大丈夫ですよ」


「些か同情してしまうな。まあ、グナウセンを裏で操り、国に混乱を招いた輩を許すつもりはないが」


「どうします? 延々と頭を潰す装置でも作りますか?」


「……そなたは、たまに怖いことを言うな」


「必要なことですから」


「必要だからと言って、それを実行できるかどうかは別だろう。そなたは平然とやりそうだ」



 必要なら、だけどね。


 少なくともヴィヴィエルを放っておいたらドラーナ領がどうなるか分からない。確実に無力化せねば。


 さて、どうしたものか。



「兄様!!」


「ウェンディ? どうしたんだ、こんなところで」


「お帰りが遅いので心配していたのです!!」


「だからって、ここは危ないんだぞ」



 ウェンディに話しかけながら、再生したヴィヴィエルの頭を吹っ飛ばす。


 それを見てウェンディが硬直した。


 おっと、流石に子供に見せちゃいけないもんだったか。



「兄様、その人は……」


「いくら殺しても死ななくてな。こうして行動を制限していないと、襲ってくるかも知れな――あ、ウェンディ!!」



 何を思ってか、ウェンディはヴィヴィエルに近づいた。

 射線上にウェンディが入ってしまい、ヴィヴィエルの頭を狙えない。


 アスランやカリーナ、フレイヤが焦って駆け出すが、やたらと機敏な動きをするウェンディの方が早かった。


 まるで『幻想物語』本編のウェンディを思わせる素早い動きだ。


 最近、激強婆さんことマーサさんの下で修行していることは知っていたが、まさかここまで成長しているとは。



「貴女がどこの誰かは知らないのです。でも、仲良くしなくちゃダメなのです!!」



 ウェンディがヴィヴィエルにメッする。


 あらやだ、うちの妹ったら叱り方がかわいいじゃない。


 しかし、ヴィヴィエルは虚ろな目でウェンディを見つめている。


 頭を潰されすぎて呆然としていた。



「……ぁ……あ……」


「ウェンディ、何を言っても無駄だ。そいつは吸血鬼。人類の敵だ。仲良くするのは不可能だぞ」


「やってみなければ分からないのです!!」



 うちのウェンディは良い子すぎる。


 しかし、この世界は結構シビアだ。魔族は魔族であり、人類は人類。

 天地がひっくり返っても、天敵のは和解はできないだろう。



「ウェンディ、そこを退くんだ。すぐにそいつを無力化する」


「もうこの子に戦う気は無いのです。兄様も武器を収めて――」


「ウェンディ!!」


「?」



 突然、呆然としていたヴィヴィエルが動いた。


 まずい!!

 ウェンディを近づけさせすぎた!! 人質に取られる!!


 と、思ったら。



「……ふつくしい……」



 跪きながらウェンディの手を握り、どこかの社長が三つ首の青目な白竜を見た時のような台詞を言うヴィヴィエル。


 おっと?



「嗚呼、私はなんて愚かだったのかしら……。本当の美しさとは姿形ではなく、その心なのね」



 何を言ってんだ、こいつは。


 なんか怖いのでヴィヴィエルの頭をヘッドショットしてみる。


 やがて頭は再生したが、ヴィヴィエルは俺の方に見向きもしない。


 熱っぽい視線をウェンディに向けたまま、ピクリとも動かないでいた。



「あ、あの……?」


「是非、私をあなた様の下僕にしてくださいませ」


「うぇ!?」



 えぇー? もう一回頭を吹っ飛ばす。



「うちの妹に触るな。撃つぞ」


「兄様、もう撃ってるのです!!」



 やはりこちらには見向きもしないヴィヴィエル。


 見たところヴィヴィエルの言葉に嘘は無さそうだはあるが……。


 吸血姫に大切な妹を任せるつもりはない。



「そうよ、人間は野蛮ね。ああ、もちろんウェンディ様は別ですわ。ウェンディ様の兄君であれば、私の靴を舐めるだけで先ほどまでの無礼は許して差し上げ――」



 ムカつくので脳天をぶち抜く。


 すると、再生したヴィヴィエルは顔を引き攣らせながら口を開く。



「わ、分かったわ。先ほどまでの無礼は無条件で許し――」


「なんで俺がお前に許されなきゃいけないんだ? もう一発行くか?」


「ひっ、も、ももも、申し訳ありませんわ!! もうそれは勘弁してくださいまし!!」



 よく分からんが、ここまで脅しても最初のような敵意を感じられない。


 一度、ヴィヴィエルの立場に立って考えてみよう。

 敵を襲撃しようとしたら、連続ヘッドショットで死にまくる。しかし、真祖の吸血鬼なので死にたくても死ねない。


 死亡と蘇生を繰り返し、終わらない苦しみでメンタルがゴリゴリと削られる中、それを止めてくれる絶世の美少女が一人。


 なるほど、惚れるわな。


 の妹であっても、ヴィヴィエルは同族たる吸血鬼を滅ぼした魔王を恨みながらも敬愛する変態だ。


 おかしくは無い。



「ウェンディ。現実的な問題として、そいつはグナウセンにもドラーナにも被害を出している。いやまあ、ドラーナに関しては少数の怪我人で死者がいないから良いだろうけど。グナウセンは黙ってないよ」


「はっ!! た、たしかにそうなのです!!」



 面食らった様子のウェンディが納得してヴィヴィエルから距離を取った。


 ヴィヴィエルが「ああ、ウェンディ様ぁ」と言って近づこうとしたので頭をぶち抜く。


 しかし、幸いにもこいつの処遇に関しては最高位権力者がこの場にいる。

 カリーナが成り行きを見守っていたフレイヤに声をかけた。



「この吸血鬼の処遇はフレイヤにお願いしたいわ。アスラン、あなたもそれで構いませんね?」


「おう、難しいことは任せる」


「うーむ、処遇と言われてもな……。ああ、そうだ。魔王に関する情報をあらいざらい吐くなら無罪放免にしてやっても良いぞ」


「あら、随分と寛容なのね」



 フレイヤの思い付きのような提案に対し、ヴィヴィエルが眉を寄せる。


 どうやら警戒しているようだ。



「貴様が黒幕でグナウセンを陰から操っていたとは言え、軍事行動を取ったのはグナウセンだ」



 そう、そこだよな。


 いくらグナウセンを裏から支配していても、実際に行動を起こしたのはヴィヴィエルではない。


 ヴィヴィエルが自白しない限り、こいつを罪に問うことはできないのだ。


 グナウセンからすれば、理不尽だろう。


 でもまあ、世の中って理不尽なもんだからな。

 いきなり日本から、文明レベルの低い世界に転生したりすることもあるんだし。



「ひとまず貴様の身柄は拘束する」


「まあ、仕方ないわね。さっさとしなさい?」


「……クノウよ。この者が万が一抵抗した場合に備えて、何か魔導具を拵えてくれぬか?」


「うっす」



 俺は『抵抗の意志を持った場合に締まる首輪』を作った。


 吸血鬼とて生物。活動に酸素は必須だ。


 しかし、この首輪を嵌めることで呼吸は不可能となり、装備者を窒息死へと至らせる。

 でも吸血鬼のヴィヴィエルは死のうと思っても死ねないので、苦しさを残したまま蘇生するのだ。


 死にたくても死ねないって、死ぬより怖いことだなあ。


 こうして、グナウセンとドラーナの動乱はわずか数日で決着がつくのであった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントヴィヴィエル

ストーカーの素質がある。



「ウェンディが大変な目に……」「ヴィヴィエルを許すな」「あとがきで怖いこと判明して草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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