第27話 悪役貴族、洗濯機を作る
ドラーナ家にとっての朗報と俺にとっての朗報が二つある。
一つ、ドラーナ家の領地が少し大きくなった。
ヴィヴィエルという黒幕がいたという事情を考慮しながらも、王国に内紛をもたらした事実からグナウセン伯爵家は子爵家に。
またドラーナ家への賠償として領地の一部を割譲したのだ。
幸いというべきか、グナウセン領から譲り受けた領地の中には中規模の鉱山が二つあり、何気に不足しがちだった金属を採取できるようになった。
しかも鉱山だけではない。
狭くはあるが、小さな港を一つ造れる程度には広い海辺の土地も手に入ったのだ。
海だよ、海。魚が食えるよ!!
やっぱ日本人って言ったら魚!! 魚食わなきゃ名乗れないよな!!
……魚を取るために船も造らなきゃだな。
まあ、そうは言っても、まだまだ面倒な手続きが多くあるようで、正式に海がドラーナ領のものになるのは数年先になるそうだ。
伯爵家改め、グナウセン子爵家が駄々を捏ねているらしい。
カリーナとアスランが頭を抱えていた。
領主とその妻って大変なんだなあ、と思いつつ、平穏な日常が戻ってきた。
ヴィヴィエルは王都で取り調べを受けており、今のところ首が締まるような事態にはなっていないらしい。
あの魔導具は少し特別製なので、俺以外には弄れないようになっている。
装備者の魔力を勝手に消費するため、魔法を封じる枷にもなるしな。
フレイヤが囚人の脱走防止や犯罪者の護送用に量産してくれと頼んできたため、何気に俺はお金持ちになった。
これが俺にとっての朗報だ。
俺はその金を使い、新たな魔導具の開発を進めている。
「退避ー!! 爆発するぞー!!」
「どわあああああっ!!」
ドッカーンっ!!!!
俺は全力で走りながら、両腕で頭を守って地面に伏せる。
隣で作業していたテオも爆発には巻き込まれなかったようで、怪我はしていない。
爆心地――魔力の過剰吸収によって爆発を引き起こした魔導具は、見事なまでに木っ端微塵となっていた。
「あぁ、また貴重な資源が……」
「うーん、何がダメだったんだ? 脱水機能を付けようとしたのが間違いだったのか? やっぱりローラー付き洗濯機で我慢するべきだったか?」
俺が今、開発に力を注いでいるのは洗濯機だ。
実は前々からドラーナ領の手荒れに悩む奥さんたちから要望はあった。
未だに洗濯板を使っている彼女たちにとって、手荒れやあかぎれはドラーナ近郊の森に住む魔物以上の難敵である。
早急に解決せねばならない。
決して俺が作りたいだけではなく、これは人助けでもあるのだ。
しかし、今のところは難航している。
「やっぱり内部を回転させすぎてるのかな? どう思う、テオ」
「……ふむ。おそらくは回転した際の振動が原因だろうね。軸部の耐久性が足りなかったのかも知れない」
「バイクなら平気だったのに」
「必要な耐久性というのは、作るものによって変わるものだよ」
あーだこーだ言いながら、洗濯機を作る。
「よぉし!! 試作二号機完成じゃい!! 起動!!」
「うわあ!! まだ退避準備もできてないよ!!」
早速洗濯機に魔力を流し込むと、ゴゴゴゴと激しい音が辺りに響き渡った。
洗濯機は壊れることこそ無かったが……。
回転による大きな振動で生き物の如く暴れ狂い、さながらブレイクダンスでもしているかのような動きを見せた。
「……杭でも打って洗濯機そのものを地面に固定すれば使えるかな」
「使えはするだろうけど、果たしてそれを完成と言って良いのか否かの問題が出てくるね」
「テオ。大事なのは目を逸らすことだよ」
「嫌な解決方法だ」
それから俺たちは思い付いては作り、爆発しては思い付いてを繰り返した。
しばらくそうしていると、フェルシィが疲れた様子でやって来た。
やたらと髪も乱れているし、何かあったのだろうか。
「クノウくん、調子はどうかしら?」
「まあまあですね。姉様はどうしました? 随分と疲れた様子ですが」
「ええと、そうね。不敬になるから言いにくいのだけど、女王陛下の着せ替え人形にされてたわ。お義母様も止めてくれないし」
ああ、そうそう。
フレイヤとエレノア、少数の護衛はまだドラーナ領に留まっている。
そして、カリーナから毎日のように「そろそろ帰りなさい」と言われているが、適当な理由を付けては帰らない。
あれは多分、ドラーナの温泉やその他の便利道具の魅力に取り憑かれたのだろう。
「ああ、なるほど……。ウェンディは?」
「ウェンディは今も着せ替え人形状態ね。私は隙を見て逃げ出してきたの。エレノア様も一緒ね」
一人だけ逃げてきたのか。我が姉ながら、何とも賢い人だ。
「……ところでクノウくん、その、少し臭うわ」
「え? そうですか?」
「ああ、言われてみれば、僕たち三日前からお風呂入ってないね」
「っ!! い、今すぐ入りなさい!!」
というわけでテオと温泉に入りに来た。それも最近完成した露天温泉である。最高だな。
頭髪を洗い、身体を洗い、程よい温かさの温泉に身を沈める。
「ほぁ~。……この温泉だけで、ドラーナ領に来た甲斐があったなぁ」
「まだまだ作りたいものはあるから、今のうちに休んでおくと良い」
「ははは、温泉がなかったら逃げ出してたよ」
……それにしても。
冷静に考えてみたらアスラン以外の男と一緒に温泉に入るのは初めてかも知れない。
いやまあ、フェルシィやウェンディ、カリーナやフレイヤ、エレノアとは一緒に入ったけども。
家族以外の男友達と一緒に入ったのは初めてだな。
前世は一緒に温泉に入るような友達はいなかったし、不思議な気分だ。
「ふぅ、そろそろ上がろうかな。クノウ君はどうする?」
「俺はもう少し沈んでる。子供の頃から長風呂なんだ」
「そう、じゃあお先に。……子供の頃から?」
テオが首を傾げながら、温泉から上がった。
その時、俺は目撃してしまう。テオのあまりにも大きなエクスカリバーを。
「テオさん、尊敬します」
「え? 急になんだい?」
「……いや、なんでもない」
今度からテオのことはテオさんと呼ぼう。あれは同じ男として尊敬できるサイズ感だ。
下手したらアスランよりデカイ。
……俺もあれくらいは欲しいなあ。前世ではそこそこ大きかったが、現世ではどうなるか。
まあ、デカくても前世と同様、使い道はないだろうがな。
温泉に一人残り、空を見る。
もうじき日が沈むようで、空は夕日の色に染まっていた。
遠くでカラスと思わしき鳥も鳴いている。
「……ふぁーあ。そう言えば、洗濯機を作るのに夢中であんまり寝てなかったなぁ……」
何となく空を見上げているうちに、意識が遠退いてしまう。
温泉で眠るのは危ない。溺れてしまうかも知れないからな。
しかし、頭では分かっていても眠気には抗えなかった。
「少しだけ……すぅー……すぅー」
俺は眠ってしまった。しかし、すぐに人の気配を感じて目を覚ます。
……すぐ目を覚ましたと思っていたが、どうやらそれなりの時間が経っていたらしい。
暗い夜に黄金に輝く月が浮いていた。
しばらく月を見たままボーッとしていたが、露天温泉のゾーンに人が入ってきてハッとする。
「む、クノウではないか」
「え? じょ、女王陛下!?」
振り向いた先には一糸まとわぬフレイヤがいた。
その金髪が月光を反射して美しく輝いており、さながら女神のようだった。
思わず視線を吸い寄せられてしまう。特に大きな二つの果実に。
「あれ、ここ男湯……あ、そっか。もう夜だから女湯か!!」
やっちまった。
露天温泉は男湯と女湯で異なる景色なため、両方楽しめるように時間帯で男湯と女湯が入れ替わるようになっているのだ。
くっ、従業員には入れ替える時に客が残ってないか確認するよう言い聞かせてたのに!!
「すみません、すぐに出ます」
「ふっ、良い。この浴場はカリーナに言って貸し切ったからな」
「そういうわけには――うおわっ!!」
「おっと」
慌てて温泉から上がり、浴場を出ようとして足を滑らせてしまう。
フレイヤが咄嗟に俺を抱き止めて事なきを得たが……。
その大きな二つの果実に、顔を埋めてしまう形になった。
「走ると危ないぞ。……少々付き合え。そなたとは一度、腹を割って話してみたかった」
「い、いや、流石に男女が二人きりで温泉に入るのは……」
「子供が何を言っている。ほら、早くせよ」
「……はい」
どうやら今晩は、もう少し長風呂になりそうだ。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小劇場
作者「お風呂回は何度あっても良いだルォ!?(巻き舌)」
エレノア「次は私とクノウ様の二人きりで!!」
ウェンディ「兄様とウェンディの二人きりお風呂回を希望なのです!!」
作者「あ、三回四回はやりすぎだと思うんでナシっす」
エレノア&ウェンディ「「あ゛?」」
「それは洗濯機なのか?」「うらやま」「あとがきで笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます