【改訂版】弱小領地の悪役貴族に転生したので最高に美人なヒロイン姉妹と革命開拓しようと思いますっ!〜前世の便利道具を再現してたら、いつの間にかシナリオをぶっ壊してた〜

ナガワ ヒイロ

第1話 悪役貴族、姉妹ができる





「だ、大事な話がある」



 夕食時。

 挙動不審な様子の父が僕と母を真っ直ぐに見つめて言った。


 僕の名前はクノウ・ドラーナ。十歳。


 大陸で五本の指に入る大国、ガルダナキア王国。

 その辺境に位置するドラーナ領を国から賜った男爵家の長男だ。


 要するにお貴族様である。


 まあ、一言で貴族と言っても、貴族らしい生活とは縁遠い。


 ドラーナ領は小麦畑が土地の一割を占めており、残る九割は魔物が住まう危険な森だ。

 しかも人口は百人未満という超ド田舎領地である。


 女王陛下から領地と一緒に賜った屋敷は立派だけどね。

 それ以外は何も無い領地だ。


 そして、その田舎領地を治めている者こそ僕の父、アスラン・フォン・ドラーナである。

 十数年前の戦争で功績を上げ、男爵位を賜った元傭兵だ。



「どうしたのです? そのように改まって」



 よそよそしい父に母が首を傾げて言う。


 母は古くから王国に仕える、由緒ある子爵家を生家に持つ。

 傭兵として底辺から成り上がった父とは真逆と言ってもいい。


 しかし、二人の関係は良好だ。


 恋愛結婚ということもあり、家族の一員として僕はいつ弟や妹ができるのか少し気になっていた。


 少なくとも今、この瞬間までは。



「実は、その、紹介したい子たちがいてな」


「紹介?」



 母が更に首を傾げる。



「二人とも、入りなさい」


「は、はい」


「し、失礼します」



 父の合図で部屋に入ってきたのは、二人の可愛らしい少女だった。


 見たところ双子だろうか。


 整った顔立ちが非常によく似ていて、髪や瞳の色にしか違いがない。


 少し幼さのある子の方が綺麗な銀色の髪をしており、もう一人の大人びている雰囲気の子の方は金色の長い髪だった。


 正直な話、羨ましい。


 僕の髪は母と同じ黒髪だけど、母ほど艶がなくて地味なんだよね。


 ……それにしても。


 この女の子たちにどことなく父の面影を感じるのは僕の気のせいだろうか。



「あなた、この子供たちは?」


「その、オレの娘たち、らしいです」


「――あ゛あ゛?」



 母から低い声が出る。


 思わず背筋が凍るような、恐ろしく殺気の混じった声だった。


 冬眠に失敗した熊の方がまだ可愛いだろう。


 母は鬼の形相で父をギロリと睨み、詳しい説明を求めた。



「その、えっと、十年くらい前に領主関係の仕事で王都に行った時、ダチと再会して、そのまま勢いで娼館に行ってしまいまして……」


「で?」


「その時に、その、娼婦の女の子とシて、多分、デキてました」



 父の顔が青褪める。


 母は顔を真っ赤にすることもなく、無表情で父を見ていた。怖い。



「十年前というと、私がちょうどクノウを身籠っていた頃ですね」


「は、はい」


「私が酷いつわりで今にも死にそうだった中、あなたは王都で女遊びに耽っていたと?」


「そ、それは!!」


「女遊びに耽っていたのか、と聞いているのよ」


「……はい……」



 まじかよ父様、最低だな。



「……貴方の女癖の悪さは知っていましたが、結婚を機に直ったものだと思っていました」


「す、すみません」



 苦言を呈する母に対し、父はただ謝ることしかできなかった。


 しかし、事は父が謝って済む話ではない。


 母の視線が父の隠し子である二人の姉妹に向けられる。

 姉妹たちは鋭く刺すような母の視線にビクッと身体を震わせた。


 母が怒りを滲ませて、アスランに強い口調で言う。



「その二人を今すぐ追い出してください」


「なっ、そ、それは待ってくれ!! エリス、二人の母親が流行り病で亡くなったらしいんだ!! だからこの子たちをうちで引き取りたいと――」


「――あ゛?」



 母の眉間に皺が寄る。


 その顔はさながら鬼神の如く。父が「ひえっ」と情けない声を出した。



「引き取るなど論外です。そもそも本当にあなたの子なのかも怪しい。娼婦は男と寝るのが仕事なんですから、誰の子か分からないでしょう。まったく、図太いったらないわ」


「っ」


「そこの貴女たちも何か言ったらどうかしら?」



 銀髪の女の子は何かを言いたそうにしながらも、隣に立つ金髪の女の子の手をギュッと握って黙ったままだった。



「お、おい、カリーナ……」


「あなたは黙っていてください」



 母に反論する言葉を父は持ち合わせていない。


 というかそもそも、うちは母が父を尻に敷くタイプの家庭だ。


 今の父には何かを言う資格が無い。


 それでもやはり、自分の血が流れているであろう娘たちを見捨てることはできないのか、父が食い下がる。



「せ、せめて、二人が、フェルシィとウェンディが成人するまではうちで面倒を――」


「なら――」



 父と母が口論に近い勢いで話し合う。


 ふむふむ。

 あの二人の名前は、フェルシィとウェンディと言うのか。


 どっちがどっちなのか、とても気になる。


 ん? 待てよ? フェルシィとウェンディ? どこかで聞いたことがあるような……。


 ――ハッ!!



「もう結構です!! そういうことなら、私はクノウと実家に帰らせてもらいます!!」


「ま、待ってくれ!!」


「待ちません。行きますよ、クノウ。クノウ? クノウ!? なぜ白目を剥いているのです!?」



 思い出した、全てを。


 フェルシィとウェンディ。そして、俺のクノウという名前。


 俺は知っている。


 クノウ・ドラーナとして生まれる前の人生、俗に言う前世で知っている!!


 この世界が、前世の俺が死ぬ程やり込みまくっていた大人気PCゲーム『幻想物語』の世界であることを。


 フェルシィ&ウェンディが全プレイヤーから絶大な人気を誇る姉妹キャラであることを。



「やばいな……」



 PCゲーム『幻想物語』は、いわゆる王道ストーリーが売りだった。

 勇者の力に目覚めた主人公が旅をして仲間と出会い、邪悪な魔王を討ち倒して拐われた姫を救うという物語だ。


 そして、俺ことクノウ・ドラーナ。


 こいつはフェルシィとウェンディが勇者の仲間となって旅立つ切っ掛けになる、弱小領地の悪役貴族だったりする。


 ちょっと洒落にならない悪事をするのだ。


 しかし、普通なら極刑でもおかしくないような真似をしでかすクノウだったが、その彼を助けようとする人物が二人いた。


 その二人というのが、目の前にいるフェルシィとウェンディだ。

 ……金髪の方がフェルシィで、銀髪の方がウェンディな。


 フェルシィとウェンディがクノウの助命を嘆願し、この国の女王はある条件と引き換えにクノウの無罪放免を約束した。


 その条件こそ、いずれ復活する魔王の討伐部隊、つまりは勇者パーティーへの加入だった。


 元々クノウの悪事には情状酌量の余地があったからというのも理由だろう。

 二人が勇者と共に魔王を倒したら、クノウはどうにか助かる。


 まあ、ゲームオーバーになったら容赦なく首と胴体がおさらばする羽目になるのだろうが……。


 今は気にしても仕方がない。


 それよりも大切なのは、俺の置かれている今の状況である。


 ここで姉妹の俺に対する心象を良くしておかないと、シナリオ通りにやらかしてしまった時、助命の嘆願をしてもらえない可能性がある。


 それはかなりまずい。


 しかし、ゲームのクノウがどうやって二人と仲良くなったのかが分からない。


 というわけで、俺は二人からの心象を良くするためにクノウとして思ったことをそのまま言ってやることにした。



「母様、落ち着いてください」


「な、何を……」


「冷静に考えてみてください。悪いのは全部父様です」


「うぇ!?」



 俺がアスランを指さして言うと、彼は素っ頓狂な声を出す。


 浮気野郎は黙ってろ。



「ウェンディとフェルシィは何も悪くないと思います。二人はただ、頼れそうな人を探して遠路遥々ドラーナ領を訪ねてきただけです」


「それは……そうだけれど……」


「だから、悪いのは父様です。辛い思いをするのは父様だけで良いと思います。それに――」


「それに?」



 俺は椅子から立ち上がって、フェルシィとウェンディに近づいた。


 二人が不思議そうに俺を見つめてくる。


 改めて母ことカリーナの方を振り返って、声高らかに言った。



「俺は兄弟姉妹が欲しかったです!!」



 これは本音だ。


 俺、前世では一人っ子だったし。今も一人っ子だし。

 美人な姉妹ができるとか最高すぎる。



「母様の気持ちも分かります。でもその怒りは二人ではなく、妻が身籠っていても娼館に行った父様に向けるべきだと思います」


「……クノウ……」


「悪いのは父様です。追い出されるべきは父様だけです。今すぐケツを蹴飛ばして家から追い出しましょう」


「クノウ!? そ、それは酷くないか!?」


「くそったれ父様は黙っていてください。母様、せめて二人を追い出すのは勘弁してあげませんか?」


「……」



 アスランが「く、くそったれ? どこでそんな言葉を……」と落ち込むが、事実だからな。

 俺の説得に対し、カリーナは真剣に何かを考え込む。


 さて、どうなるだろうか。



「……はあ。たしかに、私も少し感情的になっていましたね」


「ということは!!」


「……分かりました。二人をドラーナ家の人間として迎えます」



 そして、カリーナがビシッとフェルシィとウェンディを指差して言う。



「男爵家の人間となる以上、二人にはどこに出しても恥ずかしくない令嬢になってもらいます。字の読み書きは当然、マナーに関しても徹底して教えます。泣き言を言ったらすぐに家から叩き出しますからね」


「は、はい、ありがとうございます!!」



 フェルシィが頭を下げる。


 そして、フェルシィを真似てウェンディもペコリと頭を下げた。


 そのウェンディに、カリーナが話しかける。



「貴女、名前はウェンディだったわね」


「……」



 カリーナに名前を呼ばれて、ウェンディがビクッと身体を震わせた。

 そして、続くカリーナの言葉にウェンディは目を丸くする。



「勢いとは言え、私は貴女のお母様を侮辱するようなことを言ってしまいました。それは、謝罪します」


「……え?」


「それを言いたかっただけです」



 ウェンディは何も言わなかった。

 しかし、カリーナの謝罪にこくりと小さく頷いていた。



「クノウ、明日は二人に領地を案内してあげなさい」


「はい、母様!!」



 カリーナは成り上がり貴族のアスランと違って、由緒ある家系の貴族令嬢だ。


 アスランと結婚する前は社交界で多くの貴族を相手にしてきた。


 故に相手の感情の機微が分かる。


 カリーナは自身の発言がウェンディに嫌な思いをさせたことを察したのだろう。


 そして、フェルシィとウェンディを家族として迎えるにあたり、余計なわだかまりは無い方が良いと考えた。


 そう判断しての謝罪。


 カリーナ自身も本来は子供に八つ当たりするような性格ではないし、この様子なら大丈夫そうだ。


 俺は笑顔でパンッと手を叩く。



「万事解決ですね。これからよろしくお願いします、お二人とも」


「は、はい、ありがとうございます、クノウ様!!」



 フェルシィが俺に頭を下げてくる。俺は笑顔で応じた。



「これからは家族なんですから、よそよそしい呼び方はやめてください」


「え、で、では、なんとお呼びすれば?」


「そうですね……」



 確かめてみたところ、フェルシィとウェンディの年齢は俺と同じ十歳だった。


 ただこの世界、誕生日の概念が無いからなあ。


 ◯◯年に生まれてから◯年、みたいな感じで歳を数えるのだ。

 双子でもない限り、同じ年齢の者が集まるとどちらが年長なのか分からなくなる。


 妊娠日で数えるなら俺の方が兄ということになるが……。


 困ったことになったぞ。



「……ふむ。お二人はどちらが先に生まれたのです?」


「一応、私が先でウェンディが後になります。双子なので数秒の差ですが……」



 フェルシィが言った。



「なら間を取ってフェルシィが姉、ウェンディを妹ということにしましょう!!」


「「え!?」」



 ゲームのフェルシィ、ウェンディ、クノウがどういう関係だったかは明記されていない。

 ただの家族としか設定資料集には書かれていなかったからな。


 しかし、どうせなら姉も妹も欲しい。


 前世で一人っ子の兄弟姉妹のいない男にはそういう願望があるのだよ。



「さあ、フェルシィ。試しに僕を弟として扱ってみてください」


「えっと、じゃあ……クノウくん?」


「はい、姉様。何ですか?」


「……ふふっ」


「次はウェンディだ」


「お、お兄様……?」


「ぐふっ」



 おっと、いかんいかん。

 姉妹ができた嬉しさのあまり、気持ち悪い笑みが出てしまった。



「ふ、ふふっ、あははっ」


「どこか笑うところあった?」


「い、いえ、違うんです!! すみません、お兄様!!」



 フェルシィとウェンディの笑顔が眩しく、視線を吸い寄せられる。


 流石はヒロイン。笑顔の破壊力が半端ない。



「フェルシィ、ウェンディ……。良かっ――」


「貴方にはお話があります、アスラン」


「あ、ハイ」



 その後、俺たちを置いてアスランとカリーナが食堂から出て行った。


 翌日、庭でボロ雑巾のようにボコボコにされたアスランが首から下を地面に埋められた状態で発見されるのであった。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の一言


作者「改訂版投稿、開始ィ!! 改訂版じゃない方との違いも楽しみながらお読みください」



「改訂版キター」「設定大分変わってて草」「取り敢えずアスランの下半身が改定前と同じで安心した」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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