第24話 悪役貴族、やらかす




「まさか閉じ込められるとは。子供を監禁はアウトだよ」


「クノウくん、それはちょっと人聞きが悪いと思うの」



 一度ドラーナ領に戻ってきた俺は、テオから弾丸を受け取った後にまた森へ向かう予定だった。

 ゲリラ戦を展開し、可能な限りグナウセンの兵隊を弱らせたい。


 しかし、アスランら大人に止められてしまった。


 アスランが「子供と老人は避難だ!!」と言って俺を無理矢理引っ張って屋敷に閉じ込めたのだ。


 フェルシィやウェンディ、エレノアも同様に緊急時の避難所となっているドラーナ家の屋敷で待機していた。


 ちなみにフレイヤはカリーナやアスラン同様、前線で戦うらしい。


 おい、女王。娘を放って戦場に行くとは何事か。



「だ、だだだだだた大丈夫なのです!! お父様とお義母様は強いのです!!」


「そ、そうです!! わたくしのお母様だって、あ、今はお母様じゃなくて護衛の冒険者ですが、フレンも強いですわ!!」



 なお、ウェンディとエレノアはかなりパニックに陥っている。


 ちょっと可愛い。


 そんな二人の姿を見て落ち着いたのか、フェルシィは至って冷静だった。

 人間、自分よりパニックの者を見ると冷静になるって言うからなあ。



「グナウセンは、何の正義があってこんなことをするのかしら……」


「……隣の領地が大きくなると不都合があるからでは?」


「それはドラーナを潰す理由にはなるけれど、正義にはならないわ。こんな真似をしたら、後で他の貴族たちから爪弾きにされてしまうのに……」


「そこまで考える頭がない、とか?」


「クノウくんって結構毒舌なのね……。知らなかったわ」



 フェルシィが首を横に振る。



「それも無いと思う。歴史のある貴族家は、それなりの処世術というものを代々受け継いでいる。グナウセンの場合は軍事力による脅しが十八番だけど、あくまでも脅し。過去に実力行使に出たことは一度もないはずよ」


「……随分と詳しいですね」


「お義母様に教わったから。将来誰かと結婚するなら、そういうことも知っておくべきだって」



 なるほど、道理だな。



「……まあ、私はウェンディと違って愛想が良い方じゃないから、貰ってくれる人がいるか分からないけれど」


「姉様なら引く手あまたですよ」



 フェルシィは今から結婚の心配をしてるのか。


 ゲーム本編では主人公とウェンディ共々結婚するだろうし、そうでなくても将来バインバインになるフェルシィを放っておく男がいるはずがない。


 俺だって姉弟じゃなかったら、大人フェルシィとお付き合いしたい。



「ふふ、ありがとう。いざとなったらクノウくんに貰ってもらおうかしら?」


「はは、姉弟ですよ?」


「あら? 知らないの?」


「? 何を――」



 と、その時だった。


 全身血塗れとなったアスランに肩を貸し、カリーナが屋敷に戻ってきたのは。



「お父様!?」


「おう、フェルシィ。大丈夫だ、殆ど返り血だからな」


「嘘をおっしゃい。半分は自分のものでしょうに」


「子供の前でくらい格好つけさせてくれよぉ。すまん、ちょっと寝る……おやすみ」



 アスランがぐったりした様子で床に転がり、その場で寝息を立て始める。


 怪我はすでにカリーナが治したようだが、血が足りていないのかも知れない。

 アスランは相当疲れているらしく、眠って体力の回復に努めるようだ。



「あ、あの、カリーナ様!! お母様はどちらに?」


「フレイヤなら外で見張りをしています。怪我一つありませんよ」


「っ、良かったぁ」



 エレノアもフレイヤが心配だったのだろう。安心したら腰が抜けてしまったようだ。



「お義母様、敵は全員やっつけたのです?」


「いいえ、第一陣を凌いだに過ぎません。またすぐにやってくるでしょう」


「そんな……」



 いくら敵を倒そうが、そもそも戦力に差がありすぎる。


 その場の誰もが肩を落とす中、何故かカリーナは俺をまじまじと見つめていた。



「……奇妙な死体を見ました」


「?」


「まるで身体から水分を抜き取られたかのような死体と、何か小さな粒が頭を貫通して絶命した死体。……後者をやったのは、クノウ。貴方ですね?」



 ギクッ。



「な、なんのことだか」


「……本当に分からないのですか?」



 どうやら言い逃れはできそうにない。



「……はい。後者は俺がやりました」


「どうやってあのような?」


「これです」



 俺はテオ製の銃をカリーナに見せた。


 銃の簡単な構造と使い方、射程距離などを軽く説明する。



「……なるほど」


「すみません」


「? 何を謝るのです?」


「いえ、その」



 人殺しの十歳とか、普通に嫌だよな。俺が親だったとしても、流石に引くし。


 別に撃ったことは後悔してない。


 必要だったし、何なら撃つことそのものは楽しかったからな。


 多分、俺はトリガーハッピーなのだろう。



「貴方のしたことは、何も悪いことではありません。領地を守るために戦ったのでしょう? どうやったのかは知りませんが、敵の侵攻を察知し、たった一人で」


「……まあ、はい」



 言えない。


 実は温泉卵が食べたくて、コカトリスを捕獲するために森で狩りをしてたなんて。


 ああ、ほら。フェルシィが微妙な顔をしている。


 俺が森でコカトリスの捕獲を試みていることを知っているから……。



「よく頑張りました。母は貴方を誇りに思います」


「母様……」


「そして、どうか恥知らずな母を許してください。この場を乗り切るには、今は戦力が欲しいのです」



 カリーナが苦々しい表情で言う。


 先日のフレイヤとの晩酌中の会話を思い出すと、その理由が分かった。


 カリーナは俺を利用することを忌避している。


 彼女が母親だからか、あるいは一人の大人としてかは分からないが。

 俺は使えるものは何でも使う主義だから、その辺りはちょっと分からない。


 でも、その気遣いは嬉しいな。



「分かりました。その代わり、今後俺がどんな魔導具を作っても怒らないでください」


「……ふふっ。この子ったら、こんな状況で取り引きだなんて……。いったい誰に似たのかしら?」



 カリーナが微笑み、俺の頭を撫でる。


 こういう子供扱いだけはどうにかならないものだろうか。


 いやまあ、子供なのだけども。



「何か必要なものはあるかしら?」


「なら、土の魔法でも何でも良いので、矢も魔法も届かないようなうんと高い塔を作って欲しいです。上から狙撃するので」


「分かりました。他には?」


「特には」



 グナウセン領の兵士たちよ、先に謝っておく。


 今後、魔導具を作るに当たってカリーナに怒られないというのは大きい。

 俺のより快適な生活のための生け贄になってもらおう。


 決戦じゃあああああああああ!!!!





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントコカトリス

クノウの獲ったコカトリスはその後おいしく唐揚げにされました。めでたしめでたし。



「フェルシィの言いかけた内容が気になる」「殺伐としてて草」「唐揚げ美味いよな」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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