第9話 悪役貴族、スライムをゴムの代わりにする





 ゴブリンキング率いるゴブリン軍団に勝利した。


 帰ってきたアスランは全身ボロボロで満身創痍だったが、カリーナの治療の甲斐もあってすっかり元気になっている。


 ちなみに俺の怪我はフェルシィが治した。


 カリーナが簡単な治癒魔法の教え、フェルシィは習得してみせたのだ。


 元々フェルシィは多彩な魔法を扱えるキャラクターだが、まさか治癒魔法まで使えるようになるとは思わなかった。


 ゲーム本編でも教わったら使えてたのかも知れないな。

 我が姉ながら才能の塊で驚く。流石は人気ヒロインといったところか。


 その後、ゴブリンの死体を一箇所に集め、燃やして土に埋めた。


 これは埋葬ではなく、アンデッドになるのを防ぐためだ。

 そのまま放置しておくと夜な夜な動き始めて人を襲うようになるからな。


 全ての処理が終わったら、収穫しておいた農作物で小さな宴を開き、時間はゆるやかに過ぎて行った。


 ゴブリンキング討伐から数日が経った頃。


 家族揃って夕食を食べていると、アスランがカリーナにある提案をした。



「カリーナ。今回のこと、王都に報告しに行った方が良いと思うんだ」


「……そうですね」



 カリーナが食事の手を止め、頷く。



「ゴブリンキングは放っておけば数百のゴブリンを率いる上位個体。今回は群れが大きくなる前に仕留めましたが、王都の官僚へ報告した方が良いでしょう。ただし――」


「「「「!?」」」」



 俺もアスランも、ウェンディもフェルシィも背筋が凍るほどの殺気をカリーナから感じ取った。



「娼館には行かないようお願いしますね?」


「うっ、は、はい。……ワカッテマス」



 目に見えて項垂れるアスラン。


 あのガッカリ具合は絶対に行くつもりだったんだろうなあ。


 と、そこでカリーナがポンと手を叩いた。



「せっかくです。クノウ、王都へ観光に行ってらっしゃい。貴方の父が貴方を放って娼館に行くことはないと思いますが、念のため監視を」


「分かりました、母様」


「良い返事です。フェルシィとウェンディはお留守番ですよ」


「お義母様!! ウェンディも兄様と一緒に行きたいのです!! 私なら王都を案内できるのです!!」



 と、ここでウェンディが挙手して言った。


 ウェンディとフェルシィは、元々王都で生まれ育ったからな。

 たしかに土地勘があるという意味では、案内に適しているかも知れない。


 しかし、カリーナは首を横に振った。



「貴女たちはまだ勉強することが山程あります。最近のクノウの言動はアレですが、貴族としてのマナーは全てマスターしてますからね」


「母様、息子をアレ呼ばわりはやめてください」



 何故だろうか、最近のカリーナの目は最近厳しい気がする。


 まあ、度々魔導具作りに失敗して大怪我してるし、呆れているのかも知れない。


 仕方ないじゃん、作りたいんだから。



「よし。そうと決まれば――クノウ!!」


「何です、父様?」


「バイクの改良を頼むぞ、なる早で。可能なら乗り心地を良くしてもらえるとありがたい」


「……なるほど。父様はあれを乗り回したかっただけですか」


「ギクッ」



 以前、アスランが事故った後。


 カリーナはアスランのバイクモドキの運転を全面的に禁止した。


 俺とフェルシィを守ってくれた時にカリーナが乗りこなしていたバイクモドキは、その際にアスランから没収した代物だ。


 どうやらアスランはあのバイクモドキにもう一度乗りたいらしい。



「改良と言われましても……」



 サスペンションに必要なバネは鍛冶職人のいないドラーナ領では手に入らないし、ゴムタイヤなどこの世界にあるわけもない。


 しかし、ドラーナ領から王都まではかなりの距離があるのも事実だ。


 長時間バイクモドキを乗り回すなら、せめてタイヤの代わりになりそうなものを探さないといけない。



「……何かゴムの代わり……うーん……」


「兄様、ゴムってなんですか?」



 おっと。

 どうやら考えすぎて心の声が漏れてしまっていたらしい。



「えーと、こう、引っ張ると伸びるけど、離すと戻る、みたいな? 弾力があって、ちょっと硬いみたいな?」


「スライムみたいなものなのです?」


「スライム?」


「はい。王都にいた頃、スライムを天日干しにしたものが流行ってたのです。遊べて良し、おやつに良しで」



 え? スライムって食べれるの? っていうか遊ぶって何!?


 いやまあ、牛革のベルトや靴は食べれるって何かで漫画か何かで読んだ気がするし、そういうもんか?



「スライム、試してみるか。父様、森でありったけのスライムを捕まえてきてください!!」


「お、おう、分かった」


「でも天日干しは時間がかかるかな……。よし、ドライヤーで乾かすか」



 ドライヤーと聞いてウェンディが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 ウェンディにとってドライヤーは嫌な思い出のようだ。


 フェルシィが苦笑いしながら言う。



「クノウくん、あんまり危ないことはしちゃ駄目だよ?」


「大丈夫です。爆散しても良いように改良してあるので」


「そもそも爆散しないように作って欲しいのだけれど……」



 失敗は成功の素とは、誰の言葉だったか。


 俺が作る魔導具も改良に改良を重ね、いつの日か完成へと至る。


 爆散するのは、その過程であるからだ。


 最初から完成したものを作れてしまうなら、そいつは天才の類だろう。


 俺は前世の記憶があるだけの凡人なので、凡人らしく地道に生活を楽なものにして行きたいと思います。







 翌日。


 アスランが森でスライムを乱獲し、屋敷に持ち帰ってきた。


 スライムをシメて、包丁で微塵切りにし、木を彫って作った型に流し込み、ドライヤーで乾燥させる。


 乾燥させた影響で少し歪な形になってしまったものの、そこは刃物で削り、整える。



「おお、良いな!!」



 乾燥スライムはゴムの代用品としては申し分の無い代物だった。


 タイヤとしても悪くない。


 バイクモドキに取り付けたら、ちゃんとしたバイクっぽくなった。



「でもやっぱり、悪路も進めるようにサスペンションは欲しいな……。王都に行ったら作ってくれそうな鍛冶職人でも探そっと」



 ふむ、いくらかスライムが余ったな。


 事故を起こしても大丈夫なようにヘルメットでも作っておくか。



「普通のヘルメットじゃ味気無いよな。モヒカンヘルメットでも作るか。ついでに肩パッドも付けて面白ファッションにしよっと」



 多分、俺は夜中まで作業していて疲れが溜まっていたのだと思う。


 翌朝目を覚ました俺の手元には、どう見ても世紀末を生きるヒャッハァーな人たちが身に付けてそうな装備があった。


 まあ、面白そうだし、アスランにバイクに乗る時の正装とでも偽って装備させてみよう。


 アスランって筋肉質だし、意外と似合うかも。


 それから数日後、俺とアスランは共に王都へ向けて出発するのであった。


 



―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の一言

テンションバグってる時にやった作業は色々おかしいのはあるある。


「スライム可哀想で草」「世紀末やんけ」「あるあるなのか……」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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