第22話 悪役貴族、銃を作る
「んぅ……ふぁーあ、眠い……」
俺は身体を起こして目を擦る。
昨日の夜は遅くまでカリーナとフレイヤに聞き耳を立てていたので、中々眠れなかった。
しかし、いつの間にか眠っていたらしい。
たしかカリーナとフレイヤが飲み過ぎで泥酔していたところまでは覚えている。
「うおっ」
眠たい目を開いて辺りを見ると、大変なことになっていた。
ドラーナ領の旅館では浴衣を貸し出している。
俺も含めて昨晩は浴衣を着ていたのだが、前世の記憶がある俺は問題ないものの、他の者はそうでもなかったらしい。
全員、見事にはだけている。
フェルシィもウェンディも、カリーナもフレイヤもエレノアも、大なり小なり丸出しだった。
「……皆、寝相が悪いな」
俺はあまり乳を見ないように浴衣を直し、その場を後にした。
断じて見ていない。
フレイヤの大きなものはちらっと横目で見たかも知れないが、他の人のものは見ていない。
「……さて、と。朝風呂でもしてテオのところに行くか」
俺は朝から温泉をエンジョイし、そのままテオの工房に向かった。
今日はエレノアに温泉街を案内する予定だし、手早く用事を済ませよう。
「テオ、いるー?」
「やあ、クノウ君。昨日ぶりだね。トラバサミはできてるよ」
「仕事が早くて助かるよ」
「こっちが『とらちゃん』で、こっちのが『とらくん』、これが『ばさみん』で――」
「また変な名前は付けないで」
テオは時々、こうやって作ったものに変な名前を付けることがたまにある。
作ったものに愛着があるのは分かるけども。
いちいち名前を教えられても覚えられないので、毎度適当に流している。
「それと、今日はもういくつか作って欲しいものがあるんだ」
「ほほう? なんだい?」
「こういう鉄の筒と、こういう鉄の粒なんだけど」
「……ふむ?」
俺は紙に絵を描いて、テオに渡す。
テオは設計図をぐるぐる回して色々な角度から眺めると、首を傾げた。
「うーん。君の欲しがるものは毎度突拍子も無いけれど、これはなんなんだい?」
「知りたい?」
「知りたい」
「じゃあナイショ」
「えー、教えてくれても良いじゃないか」
「だめー」
「いじわるー」
軽いやり取りの後、テオが再び設計図に視線を落として、ある一転を指した。
「他の部分は今日中に完成すると思うけれど、この筒の中。螺旋状の凹凸を作るのは難しいね。少し時間が欲しい」
「どれくらい?」
「三日……いや、五日は欲しいかな」
いや、十分凄いよ。
流石はレルドの紹介してきた鍛冶職人だ。
まさかこの世界でライフリング加工ができる人間がいるとは。
「いつも無理を言ってすみません」
「ははは、レルドの無茶振りと比べたら可愛いものだよ。うん」
「……いつも気になるんですが、叔父上はどのような無茶を?」
「……知りたい?」
「……いえ、やっぱりやめておきます」
テオの目がブラック企業に入ってしまった前世の友人とそっくりだ。
これは深く聞いてはならない内容だろう。
それから俺は旅館に戻り、カリーナらと合流を果たした。
「う、うぅ、飲み過ぎた……頭が痛い……カリーナ、治癒魔法をかけてくれ……」
「お酒に弱いのにたくさん飲むからよ」
二日酔いらしいフレイヤを介抱するカリーナ。
一つ言わせてもらうなら、多分フレイヤはお酒に強い方だろう。
カリーナがざるなのだ。
それから治癒魔法で復活したフレイヤと寝癖でアホ毛の跳ねたエレノアと一緒に温泉街を案内して回った。
もっとも、まだまだ温泉街は小さいので案内するところはあまりなかったのだが……。
二人には楽しめてもらえたようだった。
フレイヤとエレノアがドラーナ領に遊びに来てから四日が経った頃、テオから「例のもの」が完成したという連絡が入った。
「もう完成したのか?」
「うん、頑張ったよ。徹夜してるうちに盛り上がっちゃってさ。どうかな?」
目もとに大きな隈のあるテオが、俺の注文しておいた代物を自信満々に出してくる。
「凄いな。俺の設計図、結構適当だったと思うんだけど」
「ああ、そうだったね」
本当はテオに大まかな見本のようなものを作ってもらってから、銃の構造を一から考えようと思っていたのだ。
こちとら前世は平凡な日本人である。
銃とは縁もゆかりも無いため、その構造を詳しくは知らなかった。
しかし、目の前のテオという鍛冶職人は俺のしようとしていたことを先回りして終わらせてしまった。
「部品を作ってるうちに、それぞれの用途が分かってさ。どういう武器なのかも何となく分かった」
「まじか」
「まじだよ」
「……怒ってる?」
「どうして?」
テオが今にも寝落ちしそうな顔で笑う。
その目は少し怒っているような、嫌がっているようだった。
「武器を作るのを嫌がっているようだったから」
「……そうだね。良い気分ではないよ。ボクは武器を作るのが嫌いなんだ。人殺しの道具なんて尚更ね」
「……それは、すみません」
「良いよ。気にしてない」
正直に頭を下げると、テオはあっけからんとした様子で言った。
「あっさり許すのか」
「……噂を聞いたんだ」
「噂?」
「隣領のグナウセンが攻めてくるかも知れないって噂。冒険者のお客さんから聞いた」
グナウセン……。もう噂になってるのか。
「クノウ君」
「なに?」
「大切なものを守るためには力が必要だ。でも、何かを守るということは、それ以外を壊すかも知れない。誰かの大切なものを奪う覚悟を、しっかり持ってね。重いから、そういうのは」
「……そうですか」
どうだろう、よく分からない。
少なくとも俺は人を一人バイクで轢き殺してるし、今更な気もするけれど。
あまり重いと感じたことはないかな。
アスランが言っていたように悪人だから何とも思わないのか、あるいは俺自身が元々そういうものに興味が無いからか。
どちらにしろ、テオと俺は違う人種だな。
でもまあ、テオが俺に伝えたいことも多少は理解できる。
「分かった、肝に命じる」
「……伝わったようで良かったよ」
「じゃあ適当に調整してくるわ。ヒャッホー、銃だ!! 獲物はどこだ!! 蜂の巣にしてやるぜ!!」
「あれ? 本当に伝わった?」
「伝わった伝わった。今のは冗談」
俺はテオから受け取ったモデルガンを魔導具化し、本物の銃に改造する。
テオが作ったものは、あくまでも『銃の形をしているだけのもの』だからな。モデルガンという表現が正しいだろう。
銃身の内側に『発射物高速回転』や『超加速』、撃鉄に『衝撃時、銃身内で炸裂』等々……。
実際に銃を撃ちながら適切な表現を探し、数日の試行錯誤を経て完成した。
暴発して顔が半分ぶっ飛ぶような事故にはなったが、まあ、問題ナシ!!
「よし、森で試し撃ちだ」
獲物はもう決まっている。
せっかく仕掛けたトラバサミにちっとも引っ掛からない鶏肉ども。
コカトリスである。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイントフレイヤ設定
酒に酔うと絡んでくる&抱き癖がある。
「目覚めたら天国やんけ」「うらやまけしから――いや羨ましい!!」「フレイヤに絡まれたい」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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