第19話 悪役貴族、女王と遭遇する




 コカトリスを捕獲しようと思ったら、囲まれてフルボッコに遭う寸前。


 颯爽と現れた黄金の騎士の正体はガルダナキア王国の女王、フレイヤその人であった。


 うむ、状況を飲み込めん。



「なぜ女王陛下がここに?」


「ふっ。なに、冒険者や傭兵たちの間でドラーナ領の温泉とやらが素晴らしいという話を聞いてな。だからお忍びで来たのだ」



 女王がそこまでフリーダムで良いのだろうか。



「お仕事は大丈夫なんですか?」


「クノウよ。人が効率的に成果を出すためには、程よい休息が必須だ。それは女王も同じだと思わぬか?」


「……そうですね」


「というわけで、面倒な仕事は影武者に押し付けてきた」



 女王の仕事を押し付けられる影武者さんが可哀想ったらない。



「ということは、その黄金の鎧はお忍びのための変装ですか?」


「うむ。市井で民の様子を見るため、たまにこの格好で冒険者活動をしておるのだ。フレンという名でそこそこ有名でな。似合うだろう?」


「……そうですね」



 嘘です。金ピカはセンスを疑う。


 百式やユニコーンの三号機はアホみたいにカッコイイと思うが。


 流石にフルプレートメイルで金ピカはなあ。


 胸を張って自信満々にカッコイイと言ってのけるフレイヤが少し可愛いので、適当に話を合わせておこう。



「あれ? でも陛下、ここは温泉街とは真逆ですよ?」


「……その、実はだな……ごにょごにょ……」



 俺にこっそり耳打ちしてくるフレイヤ。ふわっと良い匂いがする。



「え? 近道しようとしたら迷った?」


「こ、声が大きいぞ!! ……一国の女王が方向音痴など、威厳がないだろう?」


「……そうですか」



 フットワークの軽さは気にしないのに、威厳は気にするのか。


 王とは難しい生き物だな。



「しかし、城を空けていても良いのですか?」


「む? 先ほど言ったであろう? 面倒な書類仕事は全て影武者に押し付けてきたと」


「いえ、そうではなく……。王女殿下は大丈夫なのかと」


「ああ、それは心配ない。何故なら――」



 と、その時。


 茂みの向こう側から知っている女の子の声が聞こえてきた。



「お母様!! 置いていくなんて酷いです!! 急に走り出さないでください!!」


「とまあ、連れてきたのでな」


「……なるほど」



 茂みの向こう側から姿を現したのは、二人の護衛と思わしき女を連れている、ガルダナキア王国の第一王女ことエレノアだった。


 我が国の王族のフットワークが軽すぎる件。



「へ? ひゃっ、ククククノウ様!? な、ななななぜこのようなところに!?」


「お久しぶりです、王女殿下」


「は、はひっ、お久しぶりでしゅ!!」



 顔を真っ赤にして盛大に舌を噛むエレノア。凄く痛そうな噛み方したな……。



「あ、クノウ。すまぬが、此度の訪問はお忍びだ。エレノアはシャリナ子爵家の令嬢レノで、余はその護衛に雇われた冒険者フレン。間違っても人前で本名で呼ぶでないぞ」


「承知しました、レノ様、フレンさん」


「ふっ、そなたの協力に感謝するぞ。さて、早速ドラーナ領の温泉とやらに入りに行こうではないか!!」


「あ、はい。こちらです」



 俺の案内で森を歩くことしばらく、一行は温泉街に到着した。


 温泉街を見たフレイヤが楽しそうに笑う。



「ほう!! 随分と賑わっておるな!!」


「お母さ――フレン様、あまりはしゃがないでください。人目がありますから……」


「おっと、すまんな。どれ、早くその温泉に――」


「その前にまずはドラーナ男爵様に挨拶に行きますよ!! お忍びとは言え、しばらくお世話になるんですから!!」


「む、そ、それはそうだが……。ほら、今の余は護衛だし? 行く必要は無いのではないか?」


「護衛なら私の護衛を全うしてください」



 何故かアスランたちのいる屋敷には行きたがらない様子のフレイヤ。


 どこか焦った様子のフレイヤに首を傾げながら、そのまま一行を屋敷まで案内する。



「兄様が女の人を連れて来たのです!!」



 屋敷の中に入ると、フェルシィとウェンディに遭遇した。


 ウェンディ、言い方言い方。



「ウェンディ? その言い方はちょっと……。それよりクノウくん、無事だったのね。コカトリスの捕獲に行ってから帰りが遅いから心配してたのよ」


「罠を仕掛けてきたので結果待ちですね。これと言って何もなかったですよ」


「そう……」



 わざわざコカトリスに囲まれて危ない目に遭ったことを言う必要はない。


 決してフェルシィやカリーナに知られたら今後の行動を制限されるかも知れないから秘匿するのではない。


 あくまでも家族を心配させないため。


 断じて他意は無い。本当に無いったら無い。……本当だよ?



「ところで、そちらの方々は?」


「えーと」



 フレイヤの方を見ると、あちらも俺に目配せしてきた。

 どうやらフェルシィたちにも正体を秘密にして欲しいらしい。



「こちらはシャリナ子爵家のご令嬢、レノ様と護衛の冒険者フレンさん一行です」


「シャリナ家……っ!!」



 シャリナという名前を聞いた途端、フェルシィがハッと目を瞬かせた。



「しょ、少々お待ちください!! すぐにお義母様をお呼びします!!」


「む、ま、待つのだ!! カリーナには――」


「カリーナには、なんですか?」


「あ、お義母様」



 フェルシィがカリーナを呼びに行こうとしたが、すでにカリーナはいた。


 フレイヤの後ろに。


 どうやら庭で草花の世話をしていたようで、話し声に気付いて戻ってきたらしい。



「ひ、久しいな、カリーナ」


「……ええ、お久しぶりですわ。フレンさま? 調子はいかがかしら?」


「う、うむ、まあまあだな」


「なら本業の方は? 今日はお休みで?」


「ひゃっ」


「……そこまで怯えた声を出さなくても良いじゃない」



 フレイヤが威厳も何も無い、少女のような短い悲鳴をあげる。

 どことなく悲鳴がエレノアと似ているのは、やはり親子だからだろうか。


 というか、フレイヤが屋敷に行きたがらなかった理由が分かったな。


 多分、フレイヤはカリーナにだけは会いたくなかったのだろう。

 今のフレイヤは叱られている時の俺やアスランや似ている。


 二人が友人なのはフレイヤへの謁見の折に知ったが、もしかしなくてもカリーナはフレイヤを叱ったことが何度もあるのだろうか。



「そ、そそそそそうだ、クノウ!! 共に温泉へ入ろうではないか!!」


「え?」


「知り合いの冒険者から聞いたぞ!! 温泉では仲間や友と背を流し合うと!! 余とそなたの仲ではないか!! 遠慮するな!!」



 フレイヤがパニックに陥って何か言い始めた。



「お、お母様!! わ、わたくしもご一緒しますわ!!」


「っ、どこのどなたかは知りませんが、兄様と一緒はずるいのです!! ウェンディも兄様と入るのです!! 姉様も!!」


「ウェンディ!? 何を言ってるの!?」



 こうして、なんか皆で温泉に入ることになった。


 遠慮しようとしても何故かウェンディとエレノアの圧が強くて断れなかった……。





―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント作者の一言


作者「次回!! 温泉回!!」


「フレイヤかわいい」「やっと温泉回か!!」「待ってたで」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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