2000年01月01日(雪原)

 ノストラダムスの大予言は外れた。この先も人類は存続していくのだろう。戦争と環境破壊を続けながら……。

 来年から私も就職して働くことになる。世界が滅んで欲しかった。働きたくない。そもそもゲームクリエイターになりたいと思っていたのに、就職を失敗した。なんとか就職できたのは聞いたことも無い地方の小企業。給料も安いし、仕事内容にも不満がある。ノストラダムスの予言が外れた事に心底、幻滅していた。


 毎年、家の近くにある神社に初詣していた。その神社は天満宮、小さいながらも村のみんなが集まって神社の社の中で酒やつまみを食べながら、天神様の前で楽しく談笑する。そんな暖かい神社だった。

 天神様に興味を持ち、どんな神様なのか調べて知ったのだが、天神様は菅原道真という昔の学者さんが神様として祭られたものだと知った。左遷されたのを恨んで祟り神になり、その祟りを鎮めるために神様として祭られ、祟りが収まり、学問の神様として全国に広まったと知った。


 私は小さい頃、勉強で宿題以外は困った事は何もなかった。教科書に書いてあることは全て理解できた。だが、高校生になったころ、勉強が出来なくなった。理由は、45歳になった今なら分かる。私は必要の無い知識を得ることに意味を見出だせ無かったのだ。


 そして、神など居ないと信じた。


 世界から戦争が無くならず環境破壊が進み、犯罪者が裁かれる事が無い世界。この世界に神は居ない。ここは地獄だと15歳の時には思っていた。そこから、神様の加護が無くなったように思う。

 それから、35歳で神の存在を信じるようになるまでの間、私の人生は地獄そのものだった。


 だが、今は天国にいる。天照様が私に奇跡を見せてくれたからだ。


 話が未来に飛んでしまったが、この日、私は静寂な空間で、雪と満月しか存在しない世界で、月を見ていた。


 ああ、なんと美しい世界だろう。人類が滅びた後、こんな世界になるのなら、人類は滅びるべきだなと思った。

 この時から、私は月読様に魅入られていた。月の美しさを表現したい。それが、20代の私の全てだった。


「神様、もし、いるのなら私を殺してくれませんか?夢に破れ、絶望しかないこの世界で生きていたくありません。仕事なんかしたくない。命を捧げます。どうか安らかな死を救いを私にお与え下さい」

 私は月に願った。だが、答えはなかった。だが、遠くで狼の鳴き声がした。日本の狼は絶滅しているはずだ。おかしな事だった。狼の鳴き声がした事では無い。今まで聞いた事の無かった動物の鳴き声を『狼の鳴き声』だと思った事だった。

 なんで、知っているんだろう?分からなかったが、狼の鳴き声を聞いて、私は妄想を始めた。


 もし、ここに飢えた狼が居たとしたら、私は逃げる事も出来ずに喉笛に食いつかれ、ビッタビッタンと雑巾を振り回すように振り回されて死ぬのだろうな……。

 少し面白い死に方だなと思った。狼さん。ここに獲物が居ますよ。どうぞ食べてください。そうお願いしたが、狼の気配は消えていた。


 私は、この日、死ななかった事を24年後に感謝した。そして、望んでいない妊娠をし死ぬほど後悔しつつも楽しく子育て出来る未来があった事も不本意ながら神様に感謝した。

 ちなみに、私は男だ。ゲイでもバイでもない。どういう経緯で、妊娠したのか知りたい場合は2024年04月09日(蝕と受肉)の記事を読んで欲しい。

 神様は理不尽だった。もうお嫁にいけない……。まあ、元から行けないのだから問題は無いが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る