2012年某月(七つの大罪『傲慢』)
「次は私の番だ。有名になってチヤホヤされたかったのだろう?だから、まずは教師という立場を用意した。そして、救世主として世に出るコネにも繋がる職業だ。2012年に入った会社だ」
そう言って、ルシフェルは私を見た。
「教師と言うと、宗教家が社長を務めていたパソコン教室だな。だが、私は何者にも成れなかった」
「お前は、傲慢に成らなかった。だから、成功しなかったのだ……」
「どういうことだ?」
「お前が小学生の時、種を仕込んでいた。お前が傲慢になるように手本を用意したのだ。覚えがあるだろう?」
私はルシフェルの言葉で過去に出会った最悪の教師の事を思い出した。
私が小学生だった時、担任の教師に
「授業中に何を話している!俺の話を聞きたくないってか?ああ、分かった授業しない」
そう言って、持っていた教科書を地面に投げつけ、授業を止めて教卓に座って腕組みをし、仏頂面で黙って座っていた。
私は、その先生を見てなんだこいつ?と思った。先生の仕事は授業をする事、授業をしないという事は仕事をサボっているという認識だった。というか、普通は注意して、それでも直らなかったら怒るのでは?と思った。なぜなら、今までの先生は、そうだったからだ。
しょうがない。先生が授業しないのなら自分で教科書見て勉強すればいいやと思って勝手に教科書読んで問題を解いていった。
私は今までの授業で教科書を読んで分からなかった事は無かったし、授業の進みが遅すぎて、勝手に先を勉強するぐらいには頭が良かった。
だが、他の生徒は困惑していた。先生が怒ったら謝らなければならないと思っていたようで、ヒソヒソ話をしていた女子生徒が2人で、先生に謝りに行った。
だが、その姿を見て、私はバカなことをしていると思った。怒っている事をアピールしている人間の本質は、う〇ちを漏らし泣き叫ぶ赤子と同じだと理解していた。赤子は、オムツの交換が出来ないから泣き叫んで親に交換して貰うしかない。
だが、大人が自分が不機嫌になったから怒るのは、自分の不機嫌(う〇こ)を自分で処理できないから怒り狂って他人にう〇この始末をさせているのだ。大人になって自分の尻も拭けないとは情けない。
しかも、九頭は小学生にオムツ交換を要求しているのだ。私だったら恥ずかしくてとてもできないが、九頭はそういうプレイが好きらしい。
大人になって泣くとみっともないから大人は怒るのだろうが、本質を知っている私にとっては、どちらも恥ずかしい行いだ。「ドウシテ僕の言う事聞いてくれないでちゅか、プンプン」と言っているように聞こえた。
小学生時点の私が言ったとしても恥ずかしくて悶絶するようなセリフなのだが、先生は堂々と言っていた。恥をどこかに捨ててきたのだろうか?
しかも、怒るという行為は自分の非を認めたくない人間が最後にする悪あがきだ。非を認めないという事は反省しないという事、先生は成長したくないらしい。だから、大人になっても赤ん坊の様に泣きわめいてるのだろう。
「先生、ごめんなさい」
「なにが、ごめんなさいなんだ?」
「授業中に話をしてごめんなさい」
「何を話していたんだ?」
「ちょっと分からないことがあって、聞いていました」
「なんで、俺に質問しないんだ?」
「授業を止めたら悪いと思って」
「いま、授業止まっているよな?誰のせいだ?」
「私のせいです」
「分からないところがあったら手を上げて聞け!」
「ごめんなさい」
女子生徒二人は泣きながら説明していた。先生は顔を見ることも無く威圧的に話をしていた。分からないところがあったら質問しろと言っているが、あれだと怖くて質問も出来なくなるんじゃないかと子供心に思っていた。
案の定、質問に行けなくなった生徒は多数いて、その後、暫く誰も質問に行かなかった。なので、小テストの結果は散々な結果になった。
「なんだ!この点数は!分かっていたから質問に来なかったんじゃないのか?先生は恥ずかしい!全国の平均から20点も低い点数だった!」
いや、お前が高圧的に怒りをぶつけたせいだろうと心の中で突っ込んだ。というか、恥ずかしいとはなんだ?他の先生より優秀だと思いたいから、私たちに勉強を頑張れと?
私は授業は静かに聞くし、友達が居なくても孤独を感じない性格だったので、授業中に私語をして怒られることは無かった。だが、同級生たちは忘れっぽいのか、怒られた直後は暫く静かにしているのだが、時間がたつと授業中に私語をし、先生を激怒させていた。
怒られるのが分かっていて、なんで授業中に話をするのか理解不能だった。かくいう私も人の事は言えないのだが……。
私は、授業中に私語をしないが、先生の出した宿題を家でやった事が無かった。それには、夏休みの宿題と冬休みの宿題も含まれていた。なぜやらなかったかだが、やる意味を見出せなかったからだ。
宿題が出る理由を私は次のように認識していた。
・生徒たちが教わったことを理解しているか先生が把握する為に出している。
・覚えた事を忘れないように復習させるために出している。
理由には納得できるのだが、私は家で遊ぶ時間を1分たりとも削りたくなかった。
「なんで宿題をするのを忘れたんだ!」
私は、言葉では答えずに首を傾げる仕草で分からないとアピールした。
私は中学生になるまでは、よく女の子と間違われるほど中性的な外見をしていた。だが、この仕草は自分の外見を理解した上で、あざとく媚びている訳ではなかった。
中学校に入る前までは理由は分からないが、頷く、首を振る、首を傾げるで回答出来る場合は、常にそれで回答していた。だから、幼稚園児の頃は失語症を疑われた事もあるが、会話は理解しているし、言葉も喋れるので、口数の少ない変わった子と認識されていた。
「ちゃんと答えろ!なんで、宿題をやらない」
正直にファミコンで遊ぶ時間を削りたくないからやらないと答えるとまずいことは理解していたので、首を傾げて分からないアピールを続けた。見た目が可愛いので、普通の大人相手であれば、これで許してもらえるのだが、この先生を篭絡する事は最後まで出来なかった。
だが、持久戦を続けて居れば朝会の時間が終わるころには諦めるので、この戦法を続け、最後まで宿題を家でする事は無かった。ちなみに、やらなかった宿題は朝会の後の5分の休み時間で済ませ、1時限目の前に提出していた。
5分で終わるなら家でしてくればいいのにと思った方も居るだろう。だが、学校ではファミコンで遊べないが家では遊べる。ファミコンで遊ぶ貴重な5分間を犠牲にするぐらいなら、学校の休憩時間5分を犠牲にする。私は、そういう子供だった。
同様の理由で、夏休みの宿題も冬休みの宿題も家ではやらず学校でやる事にした。だが、夏休みの工作は校長と教頭先生が審査し優秀賞をつけることになっていたので、さすがに何も出さないのは不味いと思った私は、夏休みの最終日、我が人生において最初の現代アート作品を作ってしまった。
製作時間1時間、材料リポビタンDの箱、題名『リポビタンの家』だった。それは、リポビタンDの箱の一部を切り抜き窓にしただけの
工作以外の宿題は未完了でも、後でやれば問題なかったので、怒られて終了した。その後、数日間休み時間を使って宿題は提出した。だが、リポビタンの家は教頭先生の目に止まったらしい。教頭先生が作品を見た後で、先生が全員の前で私を叱責した。
「お前、ふざけてんのか!なんだあの作品は、手抜きにもほどがあるぞ、教頭はお前の作品を見て笑ったんだぞ!俺は情けなくて恥ずかしかった。廊下に立って居ろ!」
私は、指示に従い廊下に立った。言葉に出さなかったが、私には先生が何で私に怒りをぶつけたのかは理解できた。落ちこぼれの生徒が居ると教頭先生に笑われ出世に響くだろうが!と言われた気がした。
この瞬間、私にとって先生は先生ではなくなった。手本にすべき人間ではないと思った。そして、心の中では「ざまあみろ」とも思っていた。
この後も私は宿題をやってこなかった。そして、ある時、こう言われた。
「お前は、クラスの一員として相応しくない。宿題が出来ないのならお前一人だけの障碍者が入る特別学級に入れるぞ」
この時、私は喜んだ。このクソみたいな先生とは別の先生から授業を教われるのなら、特別学級の方が良いと思った。なので、悲しい素振りを見せつつもこう言った。
「僕の様な、ダメな人間はクラスには相応しくないと思います。是非、特別学級に入れてください」
今、考えるととんでもない事を言ったと思う。オブラートに包んでいるが、お前の授業など受けたくはないと言っているのと同じだった。
「そうか、なら机を外に出して待っていろ。手続きをしてくる」
「はい」
私は、机と椅子を廊下に出して、これでクソみたいな教師とおさらば出来ると万歳しながら悲し気な顔で廊下に出た。もちろん、許しを請うてクラスに戻るつもりは無いので1時間目が始まるまで、嬉しさを堪えながら廊下で待っていた。
だが、1時間目の授業が始まった時、学級委員が話しかけてきた。
「謝るのなら、クラスに戻って良いって先生が言っている」
は?なんで?特別学級に行けるんじゃないの?またクズの授業受けるの?嫌だな、何とかして特別学級に行きたい。この時、私は、そんな事をすればクズがタダでは済まない事を理解していなかった。なので、何としても特別学級に入るべく、いかに自分がクラスに相応しくないか全力でアピールしたのだった。私は泣く真似をしながら、こう言った。
「僕は、宿題が出来ない。出来損ないです。このクラスの生徒に相応しくありません。どうか特別学級に入れてください」
この時、流した涙を今でも忘れていない。クラスに戻ると考えた時、本当に涙が出るほど悲しかったのだから(笑)。この時、クズは本当に困ったと思う。
特別学級に送り込むのは不可能、そんな事をすれば罰せられるのはクズの方、かといってずっと廊下に出しておけば、他の先生が何事かといぶかしみ、廊下に出している理由を他の先生が私に聞いた時、クズに何を言われたのか私は正直に話す。
そうなれば、九頭は自分の立場が危うくなる。なので、自分の非を認めずに私をどうにかクラスに戻すために、クズはこう言った。
「反省して、明日から宿題をやってくればいい。先生にそう約束してくれれば、クラスに戻っても良い」
「ごめんなさい。先生、僕、宿題やってくる自信がありません」
私は、正直に答えただけだった。だが、クズは相当焦ったと思う。何しろ説得が失敗したのだから。
「お前は、クラスに戻りたくはないのか?」
「僕のせいで、みんなに迷惑をかけたくありません。特別学級に入れてください」
この時の私は、本当に心の底からそう思って言ったのだが、クズの授業から解放されたいと思って言ったのも事実だった。
さすがに、この回答を覆す方法は無いように思えた。だが……。
「クラスのみんな、白井が居ないと寂しいよな?」
なんと、クズはクラスメイトを巻き込み始めた。
「「「寂しいです」」」
「クラスに戻ってきて欲しいよな」
「「「戻ってきて欲しいです」」」
「良かったな、白井。みんなに免じて許してやる。クラスに戻っていいぞ」
「ありがとうございます」
何もありがたくなかったが、クラスのみんなが地獄に戻って一緒に苦しんで欲しいと言うので特別学級行きを諦めてクラスに戻った。
教室に戻った後、普段あまり話さない学級委員が、話しかけてきた。
「良かったな白井」
何も良くは無かった。障碍者学級に入り、このクソみたいな教師モドキとオサラバ出来ると思っていた私は、本当に落ち込んだ。というか、同級生はDVを受けている妻のごとく、洗脳されていた。
これほど、無能で合理的に生徒を説得する事をせず。恐怖で支配しようとしているクズが、激高の後に見せる。お前たちの為に怒っているんだという涙ながらの自己陶酔の説明を真に受けて、先生(笑)を信じて居るのが理解できなかった。
そんな事があっても、私は宿題をしなかった。もう一度、同じことがあって別のクラスになったらいいなという期待も有ったからだ。
そして、ついに念願の追放命令が下された。
「宿題をしてこないってことは、勉強する意思が無いってことだ。そんなに、勉強したくないなら今すぐ家に帰れ!」
私の家は小学校からバスで30分、歩けば2時間以上かかる距離だった。歩いて帰るのは子供には無理だと思っているのだろう。前回もそうだが、このクズは私が反省し、クラスに戻りたいと思う事を前提に無理難題だと思われる事を言ったつもりになっていた。
だが、私にとっては、障碍者と認定される事も2時間かけて歩いて家に帰ることも、無理難題ではなかった。
私は、荷物をまとめて学校から家に帰ろうとした。だが、学校を出て校門の手前まで行った時、またもや学級委員が声をかけてきた。
「帰らなくていいよ。戻って来いよ」
「え?でも、先生は帰れって言ったよ?」
「その先生が戻って良いって言ったんだ。良いから、戻れよ。このままお前が帰ると俺が怒られるんだ」
このセリフで全て理解した。やはり先生はクズだと……。相手に、受け入れがたい要求し、その要求が飲めない事を前提として謝罪を要求する。謝罪させることで、相手に負い目を与え、それによって相手を支配する。
だが、この方法には致命的な欠陥があった。クズの要求は教師としては有り得ないモノだったからだ。宿題を忘れた(故意にやらなかったという過失はあったが)生徒を障碍者扱い。宿題をしてこなかったから、教育を受ける権利を剥奪する。どちらも、法律と倫理に反する犯罪行為だった。
そして、相手が要求を飲んで、不遇な境遇を受け入れようとしたら、自分からは謝罪せずに子分に自分が、犯罪行為を犯した証拠を残さぬように尻拭いをさせる卑怯者だった。
この件があってからグズは私に謝罪させようという行動をしなくなった。代わりに、私に対してこう宣言した。
「こんなに注意しても宿題をやってこないお前には失望した。もう注意しない。好きにすればいい」
この後で、本当に怒られなくなった。結果的に、私は平穏な生活を勝ち取った。家での5分間のゲームの為に、何でここまでしたのかは自分でも分からない。だが、私は勝利したのだ。
だが、クラスメイトは先生から見捨てられて可哀そうと思っていたようだ。「落ち込むなよ」と言ってきたクラスメイトも居たが、私は落ち込むどころか飛び上がるほど嬉しかった。宿題をしなかった事で怒られる事が無くなったのだから。
クズは、面白くなかったと思う。宿題をしない私だが、テストをすれば常に90点以上をとっていた。そんな私にイラついていたのか、ある時、授業で習っていない範囲のテストを行った。
クズは、テストの答案用紙を返却する時、名前と点数を読み上げて生徒に返していた。そして、点数が低い者を叱責し、点数が高い者は褒めていた。どうやら私を叱責したいがために、授業でやっていない範囲のテストをする事にしたようだ。
だが、私はそのテストでも90点を取った。私の成績が良かった理由は単純だった。私は授業中に、教科書の先の方を見て予習していたからだ。予習が出来た理由は、某天才棋士と同じく私の頭が良く最初の10分で内容を理解できた……からではなく、クズが授業を何度も中断したからだ。
この時、クズは職員室に帰ったり、教卓に居ても生徒の方を見ないで何か作業している事が多かったので、その隙に私は予習を進めていたのだ。
私の名前を呼び点数を読み上げた後、私を褒める時の顔が引きつっていたのが印象的だった。
そして、3学期に入って事件が起こった。なんと、生徒の一人が親にクズの所業を話したのだ。今まで、発覚しなかったのは、あのクズは、私たちが失敗した時にしか怒らないので、授業中私語をして怒られたとか宿題を忘れたから怒られたと聞けば、普通の親なら問題にしない。
だが、その怒った時に起こした行動や言動は、ただの暴力だった。誰かが先生が怒ってやった事を詳細に話したことで問題となった。PTAで緊急会議が開かれクズの所業が親たちに知れ渡った。
だが、その後、クズは激怒し、親に報告したのが誰なのか犯人捜しを始めたのだ。
「先生が怒って授業を進めないと話したのは誰だ!」
当然のように誰も何も言わなかった。このクズはバカなのか?PTAで問題になっているのに、犯人捜しをしたらどうなるか想像も出来ないのだろうか?
「怒らないから言いなさい」
誰も何も答えない。だが、何を思ったのか私の席に来てこう言った。
「お前が言ったのか?白井」
私は首を横に振った。クズは私の胸倉を掴んで持ち上げた。
「お前だろう!」
私は持ち上げられた事には驚いたが、身に覚えが無いので首を横に振った。だが、私が疑われても仕方ないとも思っていた。このクラスで一番怒られてきたのは私だった。毎日宿題をやらなかったり、夏休みの工作物でふざけた物を作ったので、他の生徒の倍以上怒られていた。
だが、私は親に何も言っていない。楽しくない学校生活を親に告げても心配させるだけだし、家に帰れば楽しいゲームが出来るので、学校での出来事を思い出している時間がもったいなかった。なので、親に学校生活の事を聞かれても「楽しいよ」とだけ伝えていた。
「先生、僕知ってます。言ったのはA君です」
それは、別の生徒からの発言だった。それを聞いてクズは私から手を放して、A君の方へ行った。A君は私の様な不真面目な生徒ではなく、先生に怒られる事のない真面目な優等生だった。
「なんでだ?なぜ君が……」
どうやら、裏切られたと思ったらしい。
「塾での成績が落ちてて、ママから学校の授業が、どうなっているか聞かれて……」
至極真っ当な理由だった。ちなみに、3学期に入っても教科書の半分も終わっていなかった。理由は、毎日のように何かしらで怒って授業が中断されていたからである。そして、その説教の時間も長かった。
「先生はお前たちに真面目な生徒になって欲しくて厳しくしていたんだ。なのに何故?」
涙ながらに語るクズを見て「なんだ?この茶番」と思いながら、胸倉を掴んで持ち上げた事への謝罪は無いのかよと思っていた。
だが、DV被害者の生徒達には響いたようだ。みんな泣き始めていた。嘘だろ?さんざん言葉の暴力振るわれてきたのに何で泣けるんだ?
『違うわよ。何度も貶されて自己肯定感が低くなっているから、本当に自分たちが悪く先生は正しいと思い込んでいるのよ。あなたは頭が良いから、そうではないと見抜いているだけ』
生徒みんなが泣いている中、自分だけ泣いていないのは不自然だと思ったので、うつむいて泣いているふりだけはした。そして、クズは何かを確かめるようにクラスを歩き始め、泣きながらに生徒たちに声をかけていた。
「厳しくしすぎて悪かった。今後は、もう厳しくしない。それで良いか?」
「嫌です。厳しく指導してください!」
みんなバカなんじゃないのと泣くふりをしながら思っていた。
『この後も、クラスを支配する為に、やっているから、あきれ果てるわね』
「だが、もう厳しくするなと言われているから出来ないんだ。すまない」
「大丈夫です!厳しくしてください!」
「クラスの全員が、そう思っているのか?」
「はい、そうです!」
「白井、お前もか?」
クズは私の顔を覗き込むように聞いてきたので、私は、弱々しく答えた。
「はい」
「みんなの気持ちは分かった。もう時間だし、朝会はこれで終わりにしよう」
朝会という名の尋問が終わった後、クズは私の所に来た。
「すまない。さっきはカッとなって持ち上げてしまった。先生が悪かった。反省している。だから、誰にも言わないでくれ」
私はうなずいた。元々誰にも言うつもりが無かった。だが、だれかに話されたら困る事をクズがした事だけは分かった。こういう時の私の直感は鋭かった。
「本当か?」
私はうなずいた。
「約束できるか」
私はうなずいた。
「じゃあ、指切りげんまんだ」
私はうなずいて、指切りげんまんした。この事を誰かに言えばクズが酷い目に合うと分かっていたし、復讐したい気持ちはあったが、約束をしたからには守るしかなかった。我ながら良い子である(宿題をしない事は除く)。
この当時の私は知らなかったが、私の胸倉を掴んだ時点で暴行罪が成立し、クズは懲戒免職が確定するのだ。まあ、知っていたとしても結果は同じだろう。約束をした以上、私は守るのだから。
ちなみに、この時の事も他の生徒にチクられて、再度注意を受けた事をご丁寧に報告してきた。しかも、教頭先生の監視付きで「今後は厳しくしない」と生徒の前で頭を下げて誓わされていた。
結果、翌年にはクズが別の学校に赴任する事になった。めでたしめでたし。
「あれが何かの役に立つ経験なのか?反面教師だと思っていたよ」
「そうだ、あれは私が仕組んだ事だ。人間は自分がやられた事を立場の弱い人間にやり返す。だから、教師になれば同じことをすると思っていたのだ……」
だが、私は反面教師が居たので、授業開始時には分からないことがあれば隣同士聞いても良いと宣言し、分からないと質問が来たら授業を中断して教え、同じ質問をされても嫌な顔せずに教え「人間は忘れる生き物だから、何度聞いても良いよ。そうやって何度も覚えていくうちに忘れないようになるから」と言い。覚えるまで学べる雰囲気を作るようにした。
自分が偉い人間だと思うと、人はどんな悪逆非道も正当化してしまう。私はクズにはならないと決めて、講師をする事が出来た。ありがとう反面教師クズ。
「バカが!ここで恐怖で生徒を支配し、悪魔の教えを広め、信者を増やせば救世主として世に出れたのに……」
「いや、それってアンチメシアですよね?」
「……」
「破滅するのはゴメンですよ?」
「救世主になりたいと言ったのはお前だろうが!」
「偽物はちょっと……」
「まあ、お前が成らないのなら他の者にやらせるだけだ」
こうして、私は傲慢の罪を克服していた。
また、授業を通して女性の頭の良さを実感した出来事があるので紹介しておく。女性は数学が苦手な人が多い。その理由が分かったのだ。それは、頭が悪いから数学が出来ないのではない。無意識に必要のない事だから覚えないだけなのだ。
授業で分数について説明した時、女生徒の数人が理解できないと言ってきた。なので、数式を使って説明していたのだが、一向に理解してくれなかった。だが、私は相手の頭が悪いとは考えず。自分の教え方が間違っていると考えて、例題を変えて教えてみた。
例題を買い物に変えたとたん女性たちは分数を理解した。その時に女生徒が言った事が真理だった。
「生活に必要が無いから覚えられないんだよね」
この一言に女性の頭の良さが現れている。女性は男性よりも直感が鋭く、理屈で考えなくても答えが分かるというチート能力を持っているのだ。だから、昔の男たちは女性から権力を奪うために、数式を編み出し、理解できない女性をバカだと洗脳したのだ。この洗脳は現代でも続いている。
だが、女性の直感とはチートなのだ。女性が学力が低いと言われていた時代では、そもそも女性がまともに勉強できる環境が無かった。だから、女性の学力が低いのではなく、低くさせられていただけなのだ。
その証拠に、同じ環境で勉強できるようになった現代では女性の方が学力が高くなっている。それは、当然である。女性は最初に答えを知っているのだ。理論や理屈を積み上げないと答えが分からない男では勝負にならないのである。
こうした結果があるには関わらず。まだ、女性の方が下だと言い続ける男がいる。私は男だが、敗北を認めない姿を見ると「潔くない」「カッコ悪い」と思う。
古代では女性が政治の中心だったという考察もある。私も同意見だ。なぜなら、女性の方が神の声を聞く能力が高いのだ。人間が幸せに生きるための正解を男性より正確に把握できるのだから、古代に巫女が王として国を治めるのは当たり前の事だったのだ。
現代こそ巫女を王として祭る政治体制が必要だと思う。愛子様が天皇陛下になってくれれば良いのに……。
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