第三章 七つの大罪との戦い

2011年某月(七つの大罪『強欲』)

「さて、まずは私から話をしよう。私はマモン、強欲の悪魔だ。金持ちに成りたいというお前の願いを叶えるために、相応しい就職先を用意した。

 震災の直後に入社した会社を覚えているだろう?アレは私を崇拝している者たちの会社だったのだ。私はお前の為に最高の職場を用意した。なのにお前は!」

「待ってくれ、この時、私が就職した会社はブラック企業だった。どこに金持ちになる要素があった?」

「あの会社は小規模だが、借金の無い優良企業だ。しかも、営業で売上さえ上げれば給料は歩合制で増えていく、そして10年も勤めれば社長に成れる。そういう会社だったのだ」

「だが、あの会社では私は売上を上げれなかった」

「バカ者!お前は客からパソコンが欲しいと言われた時、何と返した?」

「正直に他から買った方が安くなりますよと答えた」

「そこは、嘘でも安くしますとか、アフターサービスを良くしますとか言っておけばいいだろ?他人を騙して金をむしり取る。他の社員もそうしていたのに、お前はそれをしなかった」


「いや、当たり前だろう?嘘を吐いて他人に損をさせるなんて出来ない。良心は無いのか?」

「ある訳がないだろう?私は悪魔だぞ!お前はバカだ!そうやって他人を騙す事でしか金持ちにはなれないんだ。なぜそれが分からない」

「理解できない。なんで、他人から奪わなければ金持ちに成れないんだ?」


「普通のやり方では、普通の収入しか得られない。金持ちに成る為には、他人を騙した方が手っ取り早いのだ」


「ならば要らない。というか小説とか宝くじとか当てるのは出来ないのか?」

「小説は面白くなければ売れない。宝くじは……」

「悪魔でも当てれないのか?」

「お前はダメだ。アメノミナカヌシが許さない」


「そうか、なら仕方ない」

「やはりお前はごうよくを拒絶するのだな……」

「そうか、私が強欲を拒絶していたのか……」

「他にもあるぞ。私は何度もお前にチャンスを与えていた。だが、その都度お前は私を拒絶したのだ。嘘つきめ、何が『贅沢な暮らしがしたい』だ。口先だけで、何も行動しなかったではないか、私は悲しい。悲しいぞ阿弐よ……」

 そう言ってマモンは泣き崩れた。

「なんか、ゴメン。契約して、約束守ってくれていたのに……。でも、私の好みでは無かったんだ」

 こうして私は強欲のマモンを振ってしまった。


「ちなみに、次のチャンスはネットショップの運営の仕事だ。覚えているか?」

「ああ、不良品を良品だと偽って売っていたゴミ企業か……」

「そうだ。あそこも少人数で歩合制だった。お前は社長にはなれないかもしれないが副社長ぐらいのポジションには行けたはずだ」

「でも、嘘を吐いて物を売るのは無しだろ」

「そういう所だぞ?金持ちに成れないのは……」

「いや、騙して手に入れた金で食う飯は美味しくないし……」

「ダメだな、お前とは根本的に価値観が合わない」

 なんか、恋人が別れるような雰囲気になってしまったが、私は強欲には成れなかった。

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