2016年05月某日(車中泊)

 サタンの誘惑を振り切り、何とか殺人犯という最悪の結末から逃れ、拘置所から実家に戻り、農家を継ごうとして作業を頑張っていた。


 理由は単純だ。私が事件を起こした時に勤めていたパソコン教室をクビになったからだ。社長はキリスト教系の宗教を信じている良い人で、会社都合で解雇してくれた。本当に感謝している。もし、私の小説が有名に成り、私が誰だか分かった時に、助けが必要なら電話して欲しい、受けた恩を返したいと思う。


 それから、数日、農業をしていたのだが、首が肉離れを起こし、首を動かすたびに激痛が走り、農作業が出来なくなった。それは、横になって寝ていても一定間隔で激痛が発生し、生きているだけで地獄だった。何もしない私に父は怒った。

「病院に行って直せ!怠けているな、俺が体調悪い時は整体院とか行って治している。何で、同じことが出来ないんだ!」

 言っている事は分かる。私も、病院で治るモノなら治したい。だが、この首の痛みはおかしいのだ。そもそも首の肉離れは珍しいのだ。腰の肉離れはギックリ腰として認識されている。だが、首は前例が無い。

 私は、一週間寝込んだ。立ち上がれば首の左側から激痛が走った。とても働ける状態ではない。

 そんな私に父が言う。

「何してる!さっさと体を治して農作業しろ」

「サボってるわけじゃない。本当にクビが痛いんだ」

「嘘つけ、農作業したくないから嘘を吐いてるんだろう」

「そうじゃない。でも、こんな状態で農業を出来ないんなら、他の職業にする」

「なら、さっさとしろ、何で家にいる。他の職業が良いのなら決めてみろ!」

「ああ、分かった。決めで来る。もう家には来ない!」

「それなら、もう、この家には居るな、さっさと出てけ」

 私は、荷物をまとめ自分の車に必要最低限の荷物を積んで家出した。


 その後、私はハローワークに通い。次の仕事を探した、その間、家には戻らず車中泊をした。食事は贅沢が出来ないので、家にあったカセットコンロを持ち出し、ハローワークの近くにあるキャンプ場で自炊した。1日分の米を炊き、おかずを作りタッパに入れて持ち歩いた。

 まだ、夏になっていなかったので、問題なかったが、仕事が決まってからは、その都度、コンビニかスーパーで弁当を買う様になった。


 お風呂は、温泉がそこら中にあるので温泉に通った。ポケットWiFiを契約したが、装置が届くまで2週間かかるようなので、フリーWi-Fiがあるポイントを探し、駅や喫茶店でインターネットをしていた。ノートパソコンを持っていたので、娯楽には不自由しなかった。


 夜は道の駅の駐車場に車を泊めて、外から車の中が見えないように社内用カーテンや日除け用の反射シートを使った。トイレは道の駅やコンビニ、ショッピングモールで済ませた。歯磨きも公衆トイレを使った。


 布団も敷いたが、梱包材をクッションにしなければ車内の凹凸が気になり眠れなかった。


 こんな生活を次の仕事が決まり部屋を借りれるようになるまでの3ヶ月間続けた。


 テレビで見た車中泊をしている人たちが置かれている状況を体験した。本当の最底辺、ホームレスには成っていないが、家も仕事も無い状況での生活を体験した。感想は『意外と何とでもなる』だった。


 文句があるとすれば、車内が狭い事ぐらいだ。最近の広々空間が売りの軽自動車なら、年単位で暮らしても文句は無い。ある意味、究極のミニマリスト生活体験が出来る。難点は、仕事をするには住所が居る事ぐらいだ。

 もし、部屋のサイズが郵便箱サイズで、住所だけ貸してくれる賃貸アパートが1,000円で借りられるのなら契約して車中泊生活も悪くないと思った。


 家賃も電気ガス水道も必要ない。必要なのは自動車の維持費だけ、税金や固定費NHKからも自由になれるので月額10万も稼げば、それなりに贅沢な暮らしが出来ると思う。


 ちなみに、ネットカフェ難民生活も3ヶ月ほどした事がある。その時は旅行バックに着替えとノートパソコンとスーツだけを持って、仕事に行くときには荷物をコインロッカーに預け、仕事が終わったらネットカフェで一泊した。車中泊とどっちが良いかと聞かれればプライベートが確保される分、車中泊がマシだった。


 これも、神様の計らいだと後から知った。私が、救世主としてテレビに出演した時「貧乏な人たちの気持ちがわかるのか!あなた車中泊もネットカフェ難民にもなった事が無いのに、貧乏でも幸せだって、良く言えますよね!」という反論は私には効かない。なぜなら、本当に経験しているからだ。

 唯一、ホームレスにだけは成っていないので、このカードだけは防げないが、まあ車中泊とネットカフェ難民を経験した事がある成功者は私ぐらいだろう。


 『貧乏でも家が無くても幸せに生きられる』を実践したのだから……。


 『もう一度やれと言われたらやるのか?』だが、車内が大きい車があればやっても良い。ノートパソコンとポケットWiFiがあれば私は生きていける。ただ、ネットカフェ難民は荷物を持ち運ぶのが面倒なのでやりたくない。


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