2022年06月01日(自宅にて就職決定)
私は、ハローワークに来ていた。パワハラブラック企業を辞めて半年、再就職先を探していたのだが、どこもブラックな企業に見えて、就職できずにいた。
半年間何をしていたのかと言うと、就職活動ではなく趣味である小説を書いていた。2年前は日本の神話に出てくる『月読』様を主人公にした作品を書いていたのだが、まったく人気が出なかった。何回か賞にも応募したがダメだった。
この半年は、今人気がある異世界転生や悪役令嬢ものを書いていたが、同じく人気が出なかった。なので、半分、小説家になるのは諦めての再就職活動だった。
そんな中、東照という会社が6月1日に八戸へ拠点を開設し、人員の募集を開始していた。私は、東照という言葉に天照様を連想し、この会社なら定年まで勤めることが出来るのではないかと思い応募した。
ホームページを見ると、ハラスメント対策や、残業対策もしっかりしていた。IT企業では珍しい会社だと思った。応募はしたが、受かるのは厳しいだろうと思っていた。理由は私の転職回数だった。
私は、残業が多い、ハラスメントが酷い、給料が安い、色んな理由で10回以上転職をしていた。その結果、市販の履歴書では職歴が書き切れず。EXCELで履歴書を自作し印刷したものを提出した。
履歴書は普通は手書きで送るのがセオリーだが、そもそも手書きを要求する企業は、仕事を効率よくこなす事よりも、苦労して何かを成し遂げることが重要だと思っているブラック企業なので、私はあえて手書きをせずに履歴書を提出していた。
これで落ちるのなら良し、受かったのなら業務改善を積極的にやっている会社なので、楽が出来ると思っていた。
幸いな事に、書類審査が通り面接になった。そして、その面接も通り、社長との面接になった。社長は開口一番こう言った。
「もう、採用するのは決まっているんだけど、君はうちに来る気ある?」
この質問をネガティブに捉えるなら、ブラック企業で人手が足りない経営者が、応募した人間を逃したくなくて、先手を打ったと思うだろう。だが、私の目には別に移った。社長の顔には悪意が何も無かったのである。
私は相手の顔を見れば何を思っているのか分かる能力が備わっていた。だから、分かった。社長は単純に来てくれるかどうか知りたくて聞いているだけだと、だから私は答えた。
「はい、私が就職したいと思った時、御社の求人が出ました。求人広告が掲載さいれた6月1日に見つけて私は応募しました。これは運命だと感じました」
「え?そうなの?それなら嬉しいね。八戸に拠点を広げたのは偶然だったけど、すぐに応募が来て、君が第一号になってくれるのなら、これは素晴らしい事だ。ぜひ、うちに来てくれ」
「はい、ありがとうございます」
「いや~。良かった。八戸に拠点を作った甲斐があるよ。あ、でも、君、左翼じゃないよね?」
「違います。どちらかと言えば保守系です」
「あ~良かった。それなら、問題ない。入社は7月からになると思うけど、よろしく頼むよ」
「はい」
こうして、私は東照に入社する事が決まった。
ちなみに、私は一時期、左派だった。だが、その結果、日本が衰退したので、今は右派だ。しかし、自民党を全面的に支持はしていない。消去法で自民党を支持しているだけだ。
他に票を預けるに足る政党があれば、そうしたいと思っている。だが、今の時点で、そういう政党は出ていない。
この日から私は、天国に居る。今までの会社の環境は控えめに言っても地獄だった。だが、東照の社員は、これが同じ世界に存在する会社なのか疑問に思うほど、人格者が揃っていた。
前の会社では、失敗すれば怒声が飛び、尻拭いも自分でしなければならず。誰も助けてくれなかった。みんな見て見ぬふりである。しかも、分からないところがあって聞けば『給料泥棒』『無能』『バカ』『痴呆症』など、ありとあらゆる暴言を吐かれ、長時間拘束され説教を受けた。
だが、東照では、失敗しても怒られる事も無く、笑ってフォローしてくれたり、分からないところがあれば馬鹿にされる事も無く丁寧に説明してくれた。残業も無く、みんな毎日笑顔で仕事をしていた。出来ないことがあれば代わりに誰かがやってくれた。
その上、会社の10周年記念で3泊4日の社員旅行に無料で参加できたのだ。行先は伊勢神宮。私は、この時、東日本大震災の時、約束を完全に忘れていた。だが、この会社との出会いが奇跡の入口だったのだ。
八戸に拠点を出してくれた社長と八戸支店の室長には感謝している。
特に社長は信心深い人で、10年前、伊勢神宮にお参りした事で今の会社の繁栄があると考え、お礼参りで社員旅行を手配してくれたのだ。本当にありがたい事である。
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