第二話 学校選びは慎重に
『おーい、そろそろ無視はやめてくれます?』
制服姿の半透明な少女――
朝からずっと私に憑いてまわって非常に迷惑なのだが、さすがにこれが一生ってわけじゃないよね?
『というか、一応友達だったのに、雑音扱いはさすがにひどいと思います』
生前の彼女より大分軽い口調で話す。彼女、こんなキャラだったろうか。
私は疑問を抱えつつ、幽霊らしきものを突っ切って床に道具を広げる。
てか、私って霊感ないタイプじゃなかったか。
『わかりました、真面目な話をします。あなた、私と取引をしませんか?』
「取引?」
少し興味を惹かれて、聞き直す。
『そう、それに応じてくれるなら私は静かにしますし、情報提供だってします』
「その代わりに私は何を?」
『あなたには私の代わりにある人を殺してほしいんです』
少女は笑みを浮かべて、生きているときより生き生きと話す。
『私を殺したのはあなたですし、それくらいしても罰は当たらないでしょう?』
「いやだ」
『ッ即答?!もうちょっと考えてみてくださいよ』
「私はJK生活を幸せに過ごしたいの、面倒なことに巻き込まれるのは勘弁」
『へ、へえ。でもそれなら、そもそも私を殺さなければ良かったんじゃないんですか?私を――神宮家の娘を殺したことがわかったらもっと面倒でしょう?』
「そうなの?てか、神宮家とか異能とかよくわからないんだけど、最近の世界はどうなってんの」
肉を処理しつつ、話を聞く。
『いいでしょう。説明してあげます。この学校は超能力者とか魔法使いとか異能を持つ子供が通うところです。で、その世界で有名な神宮家、姉がここではかなりの勢力を誇っているってわけですね』
パンフレットにそんなこと書いてなかったんだけど?
『まあ建前上は異能を持つ子供が安全に学校生活を送るために創設された訳ですけど、内情は親同士の争いの延長上で争いをする学校ですよ』
「本当に面倒くさそうな学校だね」
学校選び間違えたな。さすがに制服で決めるのは安易すぎたかあ。
『まあつまりは、私が死んだことをばれたら、あなたの首が物理的に飛ぶことは間違いなし、ってことですね』
「ふーん、でも死体を隠すのは得意分野だよ」
骨をビニール袋に入れながら話す。
『死体は、ね。でも私は、幽霊は隠せないしょう?』
「待って、幽霊見えるやつもいるの?」
なんとなく、私だけにしか見えないと思っていた。そうなると面倒なことになる予感が……。
『ガリガリいますね。霊媒師ってやつです。でも、あなたが私に協力するなら私は見つからないよう隠れておきます。どうですか?』
「……確かに美雪を殺さない方がお得だったっぽいね」
『で?』
「いいよ。乗る」
『そうこなくっては!じゃあ死体処理についてなんですけど』
「美雪って、死んだ後の方が楽しそうだね」
『ん?まあそうですね。もう、あいつを殺すのになんのリスクもないですし』
「そうそう、で、美雪は誰を殺してほしいの?」
『ああ言ってなかったですね』
少女はにっこりと笑う。
『私の姉、神宮美冬を殺してほしいんです』
「……なんか、怖いなあ」
『あなたが言うことじゃないと思いますけど』
「ちょっと臭うな」
手のにおいを嗅ぎ、もう一回洗い直す。
ようやっと満足する匂いになったことを確認し、校門へと歩みを進めた。
『ちなみに方針的にはどうするおつもりで?』
「独り言をつぶやく変人に見られないようにするっていうのが第一目標かな」
『はいはい』
そうそう、教室に上着をわすれてきたんだった。
Uターンをして小走りで教室へと向かう。
音が聞こえた。
いろんな物がぶつかる音。
私はいやな予感を感じながら、教室を覗く。
また、あれだ。
巫女こと神宮美冬とよくわかない犬。
『また、か。でもよく今の時間帯にやりますね』
これでは上着が取れない。この犬っころが美冬を殺してくれるならそれはそれで嬉しいのだが、困ったものだ。
「これどうしようかなあ」
「本当にそうなのよね、私も困ってて」
「ああ、そうなんだって、え?」
急に話しかけてきた人物を見ようと首を動かすと同時にドアを開ける音が響き渡る。
「ストッッッップ!」
急いで窓から教室の様子を見る。
……いつからあの人いたんだ?よくあんなところにいけるな。
思わず笑いがこみ上げてくる。
だって、おかしいだろう。なぜこんなにも短い間に、衝突してる二人の間に入ってるのだ?
「これが俗に言うテレポーテーション?」
『いや、あの人は速いだけ、速いだけですよ』
「っ久慈、先生!」
「ちっ、久慈か」
一人と一匹は動きを止め、突然の乱入者――久慈先生を見る。
てか、この犬しゃべれたのか。
「争いはよくないですよ~」
微笑む久慈先生を美冬は睨むように見つめる。
「先生方は中立の立場だと思いますが。少なくとも建前上は」
「はい!久慈先生は中立です。ただ、こんな風に殺しに発展しそうなら干渉しますよ」
久慈先生はニッコリと笑う。
「先生は生徒の命第一で考えてますから。ですから……殺し合いなんて愚かなこと、やらないでくれますよね?」
生徒の命第一、実にわかりやすい。
つまりは私の敵と、そういうことか。
なら長居は無用だな。
上着は諦め、下駄箱へと歩く。
『まあ、色々と難しいのはわかってもらえたと思うけど、さてどうしましょうか?』
「大丈夫」
廊下の窓から赤く染まった日を眺め、微笑む。
「私、コミュ力には自信あるから!」
『……ん?』
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