第一二話 良い話
「おっはよう!」
私は教室のドアを開けるとともに、元気よく挨拶する。
何人かがこちらを見て、すぐに目をそらす。
今日もギスギスとした雰囲気が漂ってるな。
うん。いいことだ!
HRまで時間があるので私は窓際で日向ぼっこに勤しむ。
『何してるんですか?』
「あ、戻ったんだ」
外でぷかぷか浮いている美雪を見つけた私は顔を窓から出した。
『悪い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたいですか?』
「重めの方からで」
『まず、久慈先生が私の血の痕を発見しました。一人であのトイレを色々調べてます。あの人科学教師とはいえ、どうして鑑識セットなんて持ってるんですかね?』
「掃除は手抜いちゃいけないね」
あそこも調べるとは暇人だな。
『次に、美冬派閥なんですけど思ったより分裂してませんね。まあ、親同士のつながりとかもあるのでいきなり裏切りまでは難しいかもしれないですね』
「親かあ。美雪と美冬の親とかって学校に来たりしないの?」
『……親は、来ませんよ。あ、でも』
「うん?」
『二週間後の体育祭なら別かもしれません』
「……」
『いや、確証はありませんけど。この学園の体育祭は親同士の交流の場としても使えるので来る可能性はあります』
「……あのさ」
『はい』
「私って間抜けすぎる」
『はい?』
「体育祭なんて、幸せJK生活でもかなりの割合を占めるイベントだよ?なのに忘れて、全然準備してない!」
『は、はあ』
「体育際ではみんなと協力してさ!クラス一致団結!みんなの距離も近づく大、大、大イベントだよ!って、あ」
ついさっき見た光景が脳裏によぎる。
「あんなギスギスしてたら、団結も何もないでしょう!誰があんなことしたの?!」
『あなたですね』
「とにかく、行動しなきゃ!」
私の幸せJK生活の邪魔はさせないっ!
ーーー
「ということで、
「どういうことでだよ?」
「ぼ、僕は運動するの苦手、ですし、その協力したりするのも」
「大丈夫大丈夫。ほら、みんな今、ギスギスしてる感じでしょう?だから私たちはせめてテンション上げていこうって話よ。おー!」
「……お、おー」
「まあ、テンション上がる気持ちはわからんでもないが、体育祭が楽しいのはフィクションの中だけだぞ。てか、応援団でも入ればよかったのにな」
「あるの?応援団!」
「一応な。まあ今からじゃ入れねーよ。もう役とかは決まってるし」
「えー。私、役とか知らないけど」
「ま、前決めたんです。ぼ、僕は放送担当で」
「私もなんかやんなきゃいけないのかな」
丁度、久慈先生も来たみたいですし、聞いてみますか。
「先生!体育祭の件なんですけど。私って何かやることとかあります?」
「……ん?ああ、ごめん。体育祭なら、ここら辺に」
上の空だった久慈先生は話しかけられてハッとしたように手で持っている資料をあさる。
「これかな。えっと、綺羅ちゃんは保護者の誘導係みたいね。この先輩のところに行って、話を聞いておいて」
久慈先生はそう言っていつも通り微笑む。ただ、私の目はごまかせない。
「ありがとうございます……先生、今日全然寝てませんね」
「ええ!実はやるべきことがあって昨日は徹夜したの。よくわかったわね。」
「隈、化粧で隠しきれてませんよ」
「よく見ているのね。綺羅ちゃんすごいわ」
久慈先生は少しの不気味さを備えた笑みを浮かべた。
私は礼をして、メモを取りながら、席へと帰る。
「よし、じゃあ放課後先輩に話聞きに行ってくる、と」
「綺羅、放課後に二仮の家に遊びに行く約束は忘れてないよな」
犬太が聞いてくる。
「もちろん!それには間に合わせるよ」
だって、友達の家に遊びに行くのは念願なのだから!
私は予定表を見て、思わず頬を緩めた。
ーーー
放課後、帰りのHRが終わった瞬間に教室を出て、2年の教室へと走る。
早く、用を終わらせなければ。
幸い、2年もHRが終わった直後のようで人がかなり残っている。私はすぐそこにいた先輩に声をかける。
「体育祭の保護者誘導係の代表って、誰かわかります」
「ああ、知ってるけど。呼ぼうか?」
「お願いします!」
その人は教室の奥の方へ行き、誰かを連れてくる。
「こいつが誘導係の代表」
「あ、よろしくお願いします。転入してきた四有綺羅っていうんですけど、この係らしいんですが何をすればいいのかわからなくて」
連れてこられた長身の男子は無言で驚いたように私を見つめる。
「……」
「あの?」
「……天使?」
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