第一一話 先生は探偵に転職したい


 こんにちは。こんばんは!初めまして。


 私は久慈、教師をやってます。下の名前、ですか?秘密ですよ!


 身長は151cmで、背が低いことが悩みです!……いや、実は今もっと悩んでることがあります。


 それは、私のクラスの雰囲気が変になってしまったことです。


 多分、境目は昨日、私がHRのために教室に入ったときだと思います。

 まあもともと変っちゃあ変だったんですが。それにしても、安定していた美冬ちゃんの派閥がやばそうな雰囲気でして。


 正直、不安です。


 ということで、さっそく行動しました。


 まずは、聞き取り調査です!生徒相談室に一人一人呼び出して話を聞きました!



ーーー


――こんにちは!今日は来てくれてありがとうね。


「ちっ、めんどくせぇなあ」


――昨日のことについて聞きたいんだけど、いい?


「どうせ、聞くなら早くしろよ」


――昨日HR前になんかあった?


「……なんか変なもん見せられたんだよ」


――変なもの?


「写真だよ。なんつたっけ?神宮美雪が死んだとかbwsだっけ、そんなことが赤い文字で書かれててさ」


――bws、か。


「ん。これでいいか。俺、用事あるから。ま、先生があんまり気にしてもしょうがねえよ」


――お気遣いありがとう。あ、あと、授業中は電子辞書見ないようにね。


「……善処する」


――アニメは字幕じゃなくて音声ありで見た方がいいでしょう?


「おまっ、なんで知



ーーー



――美冬ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いい?


「もう、犬が洩らしましたよね。あれについてですが、美雪が死んだという可能性は……低いと思いますよ」


――bwsってなんのことか知ってる?


「……bwsは、昔の合言葉みたいなものです」


――どういう意味なの?


「……beautiful winter snowの略ですよ」


――それを他に知っている人っている?


「いません。私と美雪しか知らないと思います」


――今日はやけに正直だね?


「……あなたが生徒の命第一で考えていることは知っていますから」



ーーー



――怒るとかじゃないから、緊張しないでほしいんだけど。


「は、はい」


――昨日のHR前のことについて聞きたくて。


「えっと、な、なんか、メッセージが出て」


――なんて?


「じ、神宮美冬が神宮美雪を殺したって」


――え?


「あ、す、すみません」


――待って、神宮美雪が死んだ、じゃなくて、美冬に殺された?そう書いてあったの?


「は、はい」


――そっか。bwnとは書いてなかった?


「な、なんですか?それ」


――いや。なんでもない。


「ま、まあ、嘘じゃないですか。あれ、赤文字で血で書いたっぽく見せてましたけど、ほ、本当の血でやったらあんなに発色よくないですし」


――よく知ってるね。試したりしたの?


「え?あ、いや。その……動画で見ただけです」



ーーー



――昨日のHR前のことについて聞いてもいい?


「……いいですよ」


――意外だね。答えてもらえないかと思ってた。あなた異能がないとはいえ、美冬ちゃんの側近の忍者じゃない?


「美冬様が美雪を殺したって、あんなの嘘だと思ってます。でも美冬様、すごい長い時間沈黙して……動揺、してるみたいだったんです」


――急にそんなこと言われたらみんなそうなるんじゃない?


「普段の美冬様ならすぐ弁解するはずです。証拠もないでたらめなのに、あんなに沈黙して、嘘だとしか言わないなんてありえません」


――そうかなあ。


「確かに美雪は美冬様にとって邪魔な存在だったかもしれません。でも美雪を、殺すなんて、その」


――大丈夫。美冬ちゃんは殺したりしてないよ。


「そう、ですか」



ーーー



「厄介なことになってるね」


 ここまでわかったことをパソコンに打ち込み終わり、ため息をつく。


「不可視結界を使って写真を撮影、異能力者と非異能力者で見せるものを変えて、美冬ちゃんの派閥に亀裂を入れたってところかな」


 異能力者には美雪が死亡したと、

 非異能力者には美冬が美雪を殺害したと、別々の文を見せたということね。


 しかし、見ている側は同じものを皆見ていると思っているから反応に齟齬が生まれる、と。


「美雪ちゃんが死亡、か」


 確かに、美雪ちゃんは数日前から行方不明だ。それに加えて、隣のクラスでも行方不明者が出ている。


 最近、綺羅ちゃんが転入してきた日から色々と不穏ね。


 ……四有綺羅。あの子に揺さぶりをかけてみたりしたけれど、ほとんど反応がない。屋上も本当にお昼にしか使っていないようだ。それに、なんらかの関連性はあるかもしれないが、あの転入日が色々とややこしくしている。


 まあ、これからも注視していて損はないだろう。


 それにしても、物騒だ。


 でも、美雪ちゃんが殺されたとすれば学校内だけど、美冬ちゃんらが一通りそこは捜索したはずだし。


「いや、ちょっともう一回探し直してみますか」






「しかし、やっぱり何も見つからないか」


 一通り学内を調べた後、ため息をつく。もう定時をとっくに超えたし帰ろうか。


 バッグを取って、校舎から出る。


 ああ、他に探してないところなんて……あった。


 校庭の端、渡り廊下のすぐそこにある屋外トイレが目に付く。


「屋外トイレ、もうほとんど使われてないよね」


 一応見ておこうと中を見る。そこで、壁に立てかけられている看板に何かついてることに気づいた。


 うん?あれは、張り紙か、”詰まりにつき使用不能”?


 詰まり、詰まりかあ。いや、この前見たときはなかったと思うが、こんなもの誰が書いたんだ?清掃員さんはここを巡回しないから、こんな注意書き書かないだろうし、生徒で、こんなもの書くか?まずは教師に相談だろう。


 ……いや、教師に言うのは少し恥ずかしいか。


 なんとなく、嫌な予感を感じてポケットからブラックライトを出して照らす。


 こうすれば体液の跡が見えるはずだが……うん。真紫だな。


「はあ、詰まりとはいえ、排泄物をこぼしすぎでしょ」


 トイレの床って普通こんなに汚れてるのだろうか。


 いや、そうではないと信じたい。


 あとで、清掃員さんに掃除を頼んでおこうと思いながら上体を起こし、帰ろうとしたとき、あることに気が付く。


 詰まっただけで、壁に液体がつくなんてあり得るだろうか。


 まるで液体が勢いよく飛んだみたいだ。


 ん?


 私はバッグからルミノール入り霧吹きを取り出し、あたりに吹きかける。


 これが普通の尿とかならば、ルミノールには反応しないはずだ。逆に血痕ならば……。




 うん、光ってる。周りが全部、光ってる。




 ああ。たくさん。たくさんの血痕。



 死んだな。



 私の生徒が死んだ。



 また、私は……。



 思わず、真っ暗になった外で吐しゃ物をまき散らす。


 そして、笑う。


 私の生徒を殺しておいて、のうのうと生きられると思うなよ。


 絶対に私が犯人を見つけ出してやる。


 私は先生だ。


 必要なら探偵にでもなってやろう。


 絶対に償ってもらう。


 そして、これ以上、私の生徒は殺させない。









「はっくしょん。なんかまた噂されてるのかなあ」


『いや、普通に風邪じゃないですか?』


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