第十話 すれ違い


 二仮にかが無能力らしいということを聞いたあと、掃除中に美雪に尋ねたことがある。


「二仮に特別な能力がないっていうのはどうしてわかったの?」


『入学してすぐにみんなの前で結界を張ったんですよ。それでわかりました』


「それでどうしてわかるの?」


『ほら、異能持ちじゃない人は基本結界内を見られないので中でメッセージを掲げて反応を見たりしたら、判別できるんですよ』


「ああ、それで二仮だけが見えていなかったわけだ」


『まあ。彼女だけではなかったですが』


「二仮以外にもいるの?!」


『そこそこは。いわゆる忍者とか?ああいう物理で強い系の人たちは見えない人も多いですから』


「忍者!本当にいるの?」


『まあ、末裔のそれっやつですけどね。美冬に付き従ってる人にも多いですよ。包丁とかで攻撃されたら、美冬じゃ対抗できませんからね。護衛ですよ』


「でも、武士とかは結界内も見える的なこと言ってなかった?」


『よく覚えてましたね……あれは人の死と深く関わっているが条件なんですよ。今の忍者も武士も基本的には殺人とかしませんからね。まして学生ですから』


「え、意外。もっと殺気だってるもんだと」


『この学園にしたって、行方不明者と重傷者が年数人でるくらいで、基本死亡なんて聞きませんしね』


「へえ!意外!てっきり月五人くらいは死んでるかと」


『いや平和と言えば平和でしたよ。これまでは一日一人ペースで殺人するやつとかいなかったので』



「……てへっ」



ーーー




 チャンスは一度。


 6時間目のすぐ後、先生がプロジェクターとパソコンとの接続を切り、プロジェクターの電源を落とす。その間の一瞬だ。


『本当に上手くいくんですかね』


 上手くいかせるよ。


「起立、気をつけ、礼」


 みんなが礼をし、着席をするとき、私はスマホを操作する。最近のプロジェクターは無線で接続できるというのだからすごい。


「何、あれ?」


 そして、顔を上げないうちにその声で成功したことがわかった。


 私も顔を上げて見つめる。


 写真だ。


 紙に真っ赤な文字で文が書かれている。




"神宮美雪は死亡した。bws"




 告発文。そうとも言えそうな言葉が前に映し出されている。


「こ、これ、本当なんですか?神宮さんが?」


 二仮が美冬に問うてくれる。


 美冬はたっぷり5秒ほど沈黙し、口を開く。


 そして、私はこの時点で作戦が成功したことがわかった。


「いえ、嘘。嘘ですよ」


 さしもの美冬でも動揺は隠しきれなかったようだ。いつもよりも声が小さい。


 私はすぐさま、プロジェクターとの接続を切り、それと同時に久慈先生が入ってくる。


「ん?みんなどうしたんですか?」


「い、いえ」


 久慈先生は怪訝そうに教室を見てからHRを始める。


 私は妙な雰囲気の人々を後ろの席から見つめつつほくそ笑む。


 これで仕込みは完了した。



 ああ。他人が見ているものと同じものを自分は見ている、そう思うことのなんと危険なことか。





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