第九話 三人寄れば
「体が痛い!」
授業が終わると即座に背伸びをするが、痛みは全く緩まない。昨日、机に突っ伏して寝たせいだ。
「なんで起こしてくれなかったの?」
『起こしても起きなかったんですよ』
涼しい顔でそう言う美雪を恨ましげに見る。
「あ、あの!」
前の席の少女――
「うん?」
「い、い、今って……そ、そのら、ランチタイムですよね?」
「うん。昼休みだね」
「あと……その、えっと」
彼女は何かを言いたげに口を開いては閉じを繰り返す。私は気長にそれを待っていた。
「あ、お前、暇なら一緒に昼食べね?」
横から、
空気読めないなあ。いや、これで察せは無理があるか。
返事をしようと口を開いたところで二仮が何かを言う。
「あ、あの、ぼ、僕もその誘ぉ……いや、す、すみませぇ」
I see!理解した!
私は空気読み能力が高いのだ。
「犬太!二仮ちゃんも一緒でいい?」
「は、ひ、へ?」
「まあいいけど……お前、知り合ってすぐに下の名前を呼ぶタイプなのな」
「だめだった?」
「いや、距離の詰め方えぐいなと思って」
犬太って、見た目からはすごい陽キャ感漂うのにそこらへん繊細なんだなあ。
「ち、違うよ!し、し、し、四有さんは僕と、同じで……あ、あれ?いや、ちが」
「細かいところはどうでもいいから、早く行こ!折角これも手に入れられたし」
そう言って、手に握った鍵を見せる。
「おまっ!それ、もしや」
「青春と言ったら欠かせない!屋上の鍵だね!」
いやあ、久慈先生に幸せJK生活における屋上の鍵の必要性について力説したら貸してくれました!やさしいよなあ。
「ということでレッツゴー!」
手作り弁当片手に二人を率いて、教室を出る。
友達と昼食を食べるなんて、正に高校でやりたいことリスト第九条に当てはまるじゃないか!
私はルンルン気分で、廊下を歩く。いや、スキップする!
楽しくなるぞー!
ーーー
「……」
「……」
「……あのさ、もうちょっと話そうよ」
「ああ」
「は、はいぃ」
『二人ともこれまで話し相手がほとんどいなかったらしいですし、しょうがないですよ』
そうは言ってもこの雰囲気はねえ。
「そういえば、二仮ちゃんってアニメとか見るの?」
「あ、はい。ま、まあ、でもぼ、僕が見るのってぐ、グロかったり、バッドエンドのとかだから、一般の人にはおすすめできないか、な」
「へ、へえ。犬太はあおふゆが好きらしいよ」
「ふっ、あ、あおふゆとか、あんなの子供向け?というかう、薄いよね。た、たしかに、ストーリーはま、まあまあ面白いし、キャラも個性的だし、作画もま、まあまあいいけど、やっぱり僕はそ、その」
「……お前、中二病だな」
「は、はあ?ち、違いますし!」
いや、それはガチだと思うが。
「じゃあ、逆張り野郎」
「ち、違う!」
「天邪鬼か!」
「違う!」
「じゃあ、お前、主人公が百合子と作った雪だるまを海に流すシーンで泣かなかったのか?ああ?」
「そ、そりゃあ、泣いたけ、ど、あ、あれは小学生のときの話だし!今はもう泣かないし!」
「そんなに言うならかの36話見てみようじゃねーか!」
犬太はポケットに入れていた電子辞書を華麗に取り出し、挑戦的に二仮を見つめる。
「いいよ!み、見てやりますよ!」
そう言うと二人は肩を寄せ、食い入るように電子辞書を見つめる。
犬太はこっちも一瞬見て、手招きする。私は弁当をたたみ、二人の後ろから中腰で、それを見た。
【二十分後】
「うっ、うっ、ほら、やっぱ、うっ、泣けるだろ!」
「な、泣いてなんて、ぐすん、ませんよ」
『あっあっ……こ、こんなオチってないでしょう……』
涙ながらに話す三者を見て、私はどちらかというとおかしく思えて、微笑んだ。
画面から目を離した二人はお互いの顔のひどさに気づき、屋上に笑い声が響く。
「お取り込みの中悪いけど、そろそろ昼休み終わっちゃうよ」
そう言うと二人は慌てて、片付け始める。私はそんな二人を遠くから眺めつつ、美雪と話す。
『いやあ、本当になんというか感動しましたね』
「それならよかった」
『綺羅ってあれでも泣けないって人生楽しいんですか?』
「うん。楽しいよ。現に、今すっごく楽しい」
「あ、あの!」
二仮が口を開く。
「よ、良かったら、その三人で、あの、その、僕のい、え、えっと、いや、なんでもないです」
二仮はまた口を閉じる。
「ん?なんだよ。気になるなあ。まあ、いいけど。今日も楽しかったぜ」
犬太はそう言って、笑う。
「特に、中黒、ありがとな!お前とアニメ見れて、すっげええ楽しかった。やっぱ、他の人も感動してるのを見るとなんつーか、嬉しいわ。綺羅は反応が淡泊すぎだろ」
私は肩をすくめる。
「でも、昨日といい、俺、今が最強に青春してる感じがする!だってさ!屋上で、友達と一緒にご飯食べて、アニメ見るなんて正にあおふゆみたいな生活だろっ」
「そう、だね」
「私も、楽しかったよ!」
そんなことを言いながら、屋上の扉へと歩き出した。
「ま、待って!」
二仮は目を泳がせながらも、何かを決意して口を開く。
「ん?」
「あのさ、良かったらこの三人で、ぼ、僕の家でまたアニメ鑑賞とか、しない?あ、いやだったら」
「それ、マジか?!」
犬太は二仮に駆け寄ってその手を取り、目をキラキラさせて問う。
「う、うん。電子辞書じゃ画面小さい、し」
「まじ、マジか!それは……すっげええ楽しみ!それっていつに」
具体的に話を詰めようとしたそのとき。
キーンコーンカーンコーン
無情にチャイムが鳴り響く。
故に、私たちは全速力で教室でダッシュした。
よ、よかった。先生はまだ来てないらしい。
私は息切れをしながら、二仮に話しかける。
「はあ、あ、そうだ。あとで、二仮に頼みたいことがあるんだけど」
これを忘れるとは、危ない危ない。
「ん?い、いいよ」
「ありがとう」
額に汗を流しながら、私はにっこりと笑った。
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