第八話 デジタルとアナログ
「最近、働き過ぎてるような気がする……」
独り言をつぶやきつつ、立ち上がる。
しかし、掃除とはいいものだ。綺麗になった床を見ていると心地よい。
隣に置いておいたどっしりとした重さのある袋を、同系統の袋の一団が寄せてある右端のスペースへ持って行く。
「ふぅ」
おでこの汗を拭う。
『あの、これ、全部
美雪はそこにある袋群を不気味そうに見つめる。
「うん。骨だけは処分が色々とめんどいからね」
私は部屋の電気を消し、寝室へと歩みを進める。
っと、その前に。
台所によって、メロンソーダを冷蔵庫から取り出す。
「やっぱり一仕事した後はこれだ!」
メロンソーダを大事に持って、寝室へ、そして椅子に座り込む。
「っん、おいしーっい!」
二酸化炭素のおかげか、砂糖のおかげか、頭がすっきりとする。
「ふっふっふ、そろそろちゃんと計画練ろうかなあ」
適当な新品のノートを取り出し、ペンを構える。
『計画、ですか』
「そう。とりあえずは、本格的に美冬の派閥を切り崩すところから始めないとね!ちょうどいい物も手に入れたし」
そう言って、親切にも今日我が家を
「あと、平行してこっちも進めなきゃな」
手帳を広げ、「高校でやりたいこと!!!」に書いてある登下校に関する1項目に線を引き、微笑む。
『綺羅は、なぜ幸せJK生活にそんなこだわるのですか』
「ん?そりゃあ――期待してるから」
『それは、どういう』
「あ、そうだ。これやらないと」
女の子のスマホを手に取る。
事前に指紋によってロックを解除、パスワードを変更しておいた。
「
『携帯って最近のはロックとかできるんですね』
「うん?知らなかったの?」
『私、携帯持ってなかったので』
「犬太といい、この学園の人らってスマホ持ってなさ過ぎじゃ?というか、美冬とかもスマホ持ってないの?」
『はい。美冬はガラケーなら持ってたと思いますが、基本的には持たせてもらえないので』
「へえ」
よし。ショートメッセージでのやりとりでも見ますか。
……ふーん。美冬の勢力も一枚岩じゃないんだ。異能力を持ってない人らもいて、って
「ん?待って……閃いた!」
計画がぱっと思いついた。こうすれば手軽に美冬の勢力と精神を削れる。ただ、それには協力者が必要だが……。
「いや、大丈夫だ」
ニヤッと笑う。
「私、友達が出来たんだった!」
ーーー
こんなところで寝たらだめだろう。明日、綺羅が言いそうな文句が思い浮かんで仕方なく起こそうとする。
『机で寝ると体痛くなりますよ』
起きる気配はない。
もうこうなったら強制的に瞼を開かせて……って出来ないんだったな。
『はぁ』
急に馬鹿らしくなって、私は綺羅を起こすことを諦め、綺羅が突っ伏している机の上に散乱した紙類を見つめる。
数学の宿題。ミステリ本。開かれた手帳に、美冬殺害に関わる計画書。
『この計画書読みにくいですねえ』
乱雑に書かれた文字を読み取ろうと目を細める。
もうちょっと丁寧に文字を書けばいいというのに、ほら、手帳なんかは……あれ?
『違う。違う!』
違う。幸せJK生活に書かれた手帳の文字と、綺羅の文字、二つは明確に異なっている。
「あ」の書き方が「7」の書き方が「。」の書き方が、全く違う。
これは丁寧だとか、そういう問題でない。明確に違う筆跡だ。
『この手帳は綺羅が書いたものじゃない……』
では、誰がこれを書いたのだろう。
誰が幸せJK生活を、こんな理想を書き、なぜ綺羅はそれを目標としているのか。
怖い。
綺羅の行動原理は単純明快。故に少し安心感があった。
でも、それが……いや、そんなことを考えてもしょうがないか。
ただ、少し気になる。
いつか、いつかわかるのだろうか。彼女が何を考えて、どういう思考でこんなことをしているのか。
……ああ、何考えているのだろう。彼女を理解する必要などない。
予感がするのだ。本能が私に知らせるのだ。
彼女のことを理解してはいけない。
だって、私は彼女を心から憎んでいて、ずっと憎んでいたいのだから。
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