第一三話 名前呼びはいつからしていいのか?
人から褒められたとき、どういう返しをするか。これは重要だ。
謙遜すればいいのか、おどけてみればいいのか、流せばいいのか、などなど返す方法は色々ある。
ただ、そういう判断をするのは難しいので、私は単純に覚えた。
どういう関係性でどういうことを言われたらどう返せばいいのか。正直、この返しに関しては完璧だと自負している。
しかし……初対面の相手から面と向かって「天使?」はさすがに想定外だった。
「あ、ごめん。急に天使?は変だよな……ははは」
「はい。すごいびっくりしました」
「えっと、四有さんっていうんだっけ。よろしく、僕は誘導係の代表をやってます。
「目堂先輩ですか。こちらこそよろしくお願いします!」
「とりあえず、あとで何回か集まりがあるからそのとき来て」
「了解です!」
「うん、じゃあね」
先輩は教室内へ戻っていく。よし、これであとは……って、そうだ。
「先輩!連絡先交換しましょう」
大きめの声量で声をかけると、先輩はゆっくり振り返る。
「ど、どうして?」
先輩は心の底から驚いたような、唖然とした表情で聞いてきた。
「集まりの連絡のとき便利かと思いまして、グループライムとか作ってないんですか?」
「あ、ああ、そっちか。うん、あるね」
先輩は足早にまたこちらに来て、スマホを取り出す。
グループに入れてもらい、私は礼を言い、今度こそ先輩は教室内へ帰って行った。
美雪は私の横に来て、先輩を見る。
『趣味悪いですね』
「え、そんなかわいそうなこと言わないであげてよ」
『まあ、わからないでもないですけど』
美雪はじろじろと私の顔を見て、ため息をつく。
『最近よく思うんですけど、危ない人には危ないって書いた貼り紙を貼っておいてほしいですよね』
「そうそう!私も思う。異能なんて目に見てわからないし、不親切すぎだよね」
『……まあ。はい。というか、一応聞きますけど綺羅って恋愛とかに興味あるんですか?』
「そりゃあ、幸せJK生活には恋愛は必要不可欠だからね。ただ……」
『何か問題が?』
「男子っていざっていうときに
『そこ基準で考えたら、生まれる恋も生まれないでしょうよ……』
「確かに!」
『はあ……』
「あ、おーい、綺羅!」
廊下で、
「ごめん、遅くなって」
「だ、大丈夫、四有さん、た、大変だって知ってるし。い、行こうか」
「うん!あ、あと、綺羅でいいよ!」
「え、でも、その」
「友達でしょ?」
二仮は常時下向きの顔をそっと上げる。
「綺羅、ちゃん?」
「うん」
二仮はうわ言のように、私の名前をつぶやき、少しすつ口角を上げていく。
「……青春だな」
『ですねえ』
それに一人の男子と一人の幽霊は生暖かい視線を送った。
ーーー
「で、ここが、二仮の家か」
二仮というのは期待に全く違わない女子である。
普通の一戸建て住宅。全く同じ建物が横にズラッと並んでいる住宅街のど真ん中。車はなし。ここらにおいては正に標準的である。
「あの、僕、名前呼んでいいって犬神くんには言ってないんですけど……」
「ん?ああ、ごめん。綺羅が言ってるから、移っちゃってな。それに二仮ってかわいいし、言いやすいじゃん。だめだったか?」
犬太がいつもの調子でそういうのを聞いた二仮は完全に固まってしまった。
「か、か、か、か、かわいい?いや、あわ、え」
「犬太って良くも悪くも正直というか、なんか思ったことをすぐ言うタイプだよね……」
『同意します』
固まっている二仮をなんとか動かして、中へと入らせてもらう。
二仮の部屋はまあ、なんというか、予想通りだった。
「こうなるよね」
「なんとなく予想はついてたけどなあ」
なぜかある、プラスチックの剣に、意味深に何個も立てかけてあるカッター、「世界のサイコパスたち」に「オカルト百科事典」。
私はそれを観察し、犬太は少し目を泳がせて、比較的ましそうな棚に目を付けた。
「お前、音楽聞くんだな」
犬太はしゃがみこんで、本棚にあるCDを見る。
「いや、見てもわからない、と、思うよ。ま、マイナーだし、ちょっと過激めだし。き、聞いてみる?」
問いながら、すでにCDをセットする。
流れた音楽を聴きながら思った。
中二病は怖いな、と。
「うん。こんな感じなのかあ」
「こ、これ、体育祭のとき放送で流そうかなあ、って、思ってて」
「やめろ」
「へ?」
犬太は二仮に向き直ると、早口でまくし立てた。
「いいか?黒歴史には、後であの頃若かったなあ、くらいで済ませられる黒歴史と済ませられない黒歴史がある。まあ、お前は自己紹介の時点で一人称僕からの魔法使い……まあ、それはいい。この学園ならそんなにダメージは食らわないしな。でもな、全校生徒プラス親の前でやらかすにはお前の人生の残りが長すぎる。やめとけ」
「そ、そう?」
「ああ、綺羅からも言えよ」
「いや、まあ、いいんじゃない?流せば、きっとみんな良さを分かってくれるよ」
にっこりと二仮に笑いかける。
「そ、そうだよね」
ジト目でこちらを見つめていた犬太は口を開く。
「お前の性格が少しわかってきた気がするぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます