第一四話 意味のない質問たち
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『まだ、眠れないでくれっ!君はこの氷河期の時代に、いつまでも続く冬の中で僕を置いていくのか』
『……いいえ。春は来ます』
『そんなわけっ』
『193万5673年後、春は来ます』
『そのときにはもう、僕は死んでるじゃないか』
『はい。でも私はいます。私があなたを探します。土を掘り、あなたの骨を抱き上げましょう。そして、かつて校庭があった場所で寝ころび、あなたに愛を囁きます』
『でも、僕はそれを体験できない』
『大丈夫。今聞いたことを覚えましたね。これは事実です。私が事実にします。遠い春の日に私とあなたは再開を果たします。だから、あなたは死ぬとき、それを想像してください』
『でも、それはあくまで妄想だ』
『いえ、私が本当にします。だから、本当です。私を信じてください』
『……信じる。わかった百合子の言うことを信じるよ』
『ありがとう。では……』
『『また遠い春の日に』』
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テレビに「あおふゆ」というシンプルな明朝体のタイトルが映し出される。
私はそっと横を見て、涙を流す
私は物語よりも、物語を見て涙を流す彼ら彼女らを見る方が面白くて好きだ。
自然になぜか微笑みが浮かぶ。
"きっと幸せJK生活は綺羅の期待に応えてくれる。だから、試しにやってみるのも悪くないでしょう?"
うん。彼女の言う通り、やってみるものだな。
「ティ、ティッシュ。ど、どこにある?」
「ん?ここ、はい」
二仮にティッシュを渡して、ついでに犬太にも渡してあげる。
美雪にも渡そうとして、ティッシュでは拭けないことに気づき、ひっこめた。
「よく2回目で泣けるね」
「2回目じゃねえ!13回目だ!」
「おっふ」
それにしてもよく飽きないものだ。
「き、綺羅は面白くなかったんですか?」
「いや?面白かったよ。でも、物語で泣いたりはしないな」
「ま、まあ、そうだよね。ぼ、僕もな、泣いたというより?あ、合わせたというか?」
「ここには淡泊と逆張りしかいないのか?」
『いや、普通組もここにいますよ!』
美雪が声ならぬ声で主張すると同時に、玄関の方で扉が開く音がした。
「ただいまー。二仮ちゃんいる?」
「ま、お、お母さん来ないで!」
二仮は慌てて廊下の方へ出ていく。
私はちょうどポケットにいれていたスマホから振動を感じたので、確認する。
「あ、目堂先輩からのメッセージだ」
「っ目堂?」
犬太は打って変わって驚いたように吹き出す。
「うん、知ってる人?」
「知ってるも何も有名な陰陽師のところのやつだろうが……特に、あの事件のこともあるしな」
「事件?」
『……』
「……小学生のとき、異能の暴走で同級生3人を殺害したんだよ」
「へえ」
「へえってお前なあ。てか、二仮はあの調子だから間違ってここに入学したんだろうが、お前は違うよな……お前は何者なんだ?どこについてるんだ?」
真面目な顔でそう聞いてくる犬太を見つつ、どう答えようか考える。犬太の陣営の味方であるのは間違いない。
さすがにシリアルキラーと言う訳にはいかないが、他に人から言われたことのあるあだ名もないんだよなあ。
「……いや、やっぱいい。それ聞いてもしょうがないな。お前が敵でないことを祈っとくわ」
「うん」
私もそう祈ってるよ。
「あの、ごめん、お母さん帰ってきちゃったから、もう帰ってもらってもいい?」
二仮は扉から顔を出し、申し訳なさそうに言う。
「もちろん」
「ああ、今日はありがとな」
私と犬太は立ち上がり、玄関へと靴を履きに行く。
「あら、もう帰るの?まだまだいていいのよ」
「お母さんは黙ってて!」
ちらっとリビングから二仮のお母さんが見える。
『やさしそうなお母さんですね』
「だね。正に予想通り」
私と犬太は道路の方まで出てから、向き直る。
「じゃあな!」
「は、はい。つ、次集まるときはあおふゆの他にも色々見たり、とかゲームしたりとかし、しようね!」
「っ……ああ。そっか。次、次か」
犬太は意表を突かれたかのように、言葉に詰まる。
「いや、うん、そう、だよな。ありがとうな」
「う、うん」
「じゃ、私も楽しみにしてるよ」
「てか、今度は綺羅んちとかも行ってみてーな」
「ん?いいけど。それを言うなら犬太の家にも行ってみたいな。家電が全くない家ってなんか気になる」
「いや、多分お前来れないぞ。山の中だし、片道普通に言ったら2時間はかかるからな」
「アクセス悪っ!」
そんなことを言いながら、別れを告げ、帰路につく。
『私、あおふゆを1話から見たいんですけどあります?』
「あるよ。じゃあ、寝るときにテレビつけとくね」
『ありがとう!』
「あ、そうだ」
私は胸ポケットから手帳を出し、友達の家で遊ぶ!と書かれた項目に線を引き、満足して手帳をしまう。
『……一つ聞いてもいいですか?』
「ん?何?」
『それを書いたのって別人ですよね?』
「うん」
『仲良かった人なんですか?』
「うん。まあ、そうだね」
『その人は、今どこにいるんですか?』
「いないよ」
美雪は答えを察しているようなのになぜ質問するのだろう。
私は夕焼けに染まった空を見上げつつ、微笑んで答える。
「だって、私が殺したもん」
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