第一五話 フラグもほどほどに
「目下の私にとって問題とは何か!」
そう。それは、何よりも優先すべきこと。それは……。
「体育祭!である」
『いや、その前に美冬殺害を優先してくださいよ』
「まあ、一年以内、早ければ夏までにはちゃんと殺すからそっちは安心してよ」
『それならいいですけど。あと』
美雪はドアを指し示す。
『トイレの外で待ってる人いますよ』
「はーい。出まーす」
扉の前で半ば殺気を纏いつつ立っていた女子と素早く入れ違いで出る。
『あの子、毎回すごい形相ですよね』
「待っている人がいたらすぐ出るようには心掛けてるんだけど、まあ迷惑なんだろうなあ」
体育祭のことを考える前にどこかトイレ以外で美雪と話せるようなところを見つけますか。
「あ、犬太」
「ん、綺羅じゃねーか」
「あのさ。密室かつ話し声が外に聞こえなくて、教室から近い場所ってある?」
「……トイレとかか?あそこって上下に隙間もない完全個室だし」
「だ、だめです!」
急に二仮が口を挿む。彼女、いつからいたんだろう?
「む、昔トイレでお弁当食べてたらお、怒られました。と、トイレはべ、別のやつで使っちゃだめなんです」
二仮は顔を真っ青にして、体を震わせながら主張する。
「へえ、二仮そんなこともしてたんだ」
「トイレでボッチ飯って、みじめじゃねーのか?」
「ま、まあ」
「電子辞書見ながらボッチ飯もどっこいどっこいな気はするけどね!」
「おい、綺羅」
犬太が睨んでくるのを華麗にスルーして、私はまた考える。
これはもういっそ、あれだろうか。モールス信号でも覚えればいいだろうか。
「……トントントンツーツーツートントントン」
『モールス信号ってできる生徒多いので、すぐばれますよ。あと、SOSしか覚えてないんじゃ会話するまでに相当時間かかりますしね』
この学園の生徒、本当になんでもできるやつ多いな。
やるなら、暗号を一から作るところからかあ。うーん。
……だめだ!
一瞬想像したけど、そんなことをしていたら美冬が殺せない。
「トイレって偉大なんだなあ」
しみじみと思う。これはあとでゆっくり考えるしかないか。
「とりあえず、屋上へ飯食いに行こうぜ。お互いボッチ飯はいやだろ?」
「う、うん!」
「いやだねえ」
「綺羅はさすがにボッチ飯やったことないか?」
「いや、私ここに転入してくるまで友達いなかったし、ごはんも一人だったよ」
「おお、なんか意外だな」
「うん、い、意外」
「そうかな?」
「まあ、三人ともボッチ飯は脱出できたということで、喜びますか」
そんなことを話しながら、階段を上がる。
……これって高校でやりたいことリスト第二十六条の「だらーっと雑談しながら歩く」に該当するかなあ、といつものように考えながら。
「それ、食べていいの?」
私は若干引きつった笑顔で二仮が差し出してきた食べ物らしき物体を見つめる。
「う、うん。今日は、僕が作ったんだ」
「そ、そっか。じゃあいただこうかな」
私は恐る恐るそれを口に入れ見た目から予想されたそのままの味をかみしめる。
「……っぷ、ん、うん。おいしいね!」
我慢しろ。これで、友達から具材を分けてもらったから高校でやりたいことリスト第五十六条はクリアだろう。
手帳に線を引き、ペンから箸へと持ち替えた私は何んとなく美雪に聞く。
「それにしても、ここってさ異能学園なんだよね?」
『あなた、独り言をつぶやく変人に見られないようにするって言ってませんでした?』
そういえば、そうだった。一緒にご飯を食べていた犬太や二仮は怪訝そうにこちらを見つめている。
「あ、これ独り言ね」
「お前、独り言多いな」
「い、異能学園とか、な、懐かしいジャンルだね」
「いや、もっと普段からバチバチ異能使ってるものかと思ってたんだけど、あんまり使わないなと思って」
「まあ、最近はちょっと落ち着いてきたし、そうそう使う機会もねーからな」
「……綺羅ちゃん。け、犬太君。ふぃ、フィクションと現実は分けて考えなきゃ。ちゅ、中二病って思われちゃう」
「「二仮には言われたくない!」」
同時突っ込みが映える。
そう。これが問題だ。
二仮は中二病なのに、その自覚がないのである。
まあ、しかし、だからこそ面白いのだが。
とまあ。こんなことを話しながら平穏に一日は過ぎ……て欲しかった。
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