第二七話 リレーと始まり


「私はクラス対抗リレーだけは絶対に勝ちたいんだ」


『はあ』


「私が唯一でる種目だし、体育祭の最後の種目だし……この学園もすぐ去ることになるから最後の思い出になるかもだし」


『え、転校するんですか?』


「さすがにこのまま異能学園にいたら迷惑を被ることが予想できるからね。美冬を殺したら、転校して、そこで幸せJK生活の続きをしようかな、と」


『そうですか。なら、よかったですね』


 美雪は懸命に走っている人を指さす。


『優勝できそうですよ?』


「だね」


 現在我が組は絶賛独走中である!


「こんなに簡単に行くとはね」


 あれもこれも、物理系強い女子たちのおかげである。さすが、鬼退治をしたやつらというところだろう。


「やはり異能力より物理というわけか……」


『てか、綺羅が走るのはもう次の次ですけど、そんな余裕な感じでいいんですか?』


「いやここから負けるのはさすがにありえ」


 ない。と言おうとした。


 目の前で走っていた二仮があっさり抜かされるのを見るまでは。


「ええ……なんか妨害とか受けてるの?」


『いえ、二仮って練習でもこのくらいの速さでしたね』


 これはまずいのでは……?


 そう思いつつ、バトンを受け取る場所にスタンバイする。


 先に横の他の組がバトンを渡していく。


 ああ、まさかの最下位か!


「き、綺羅ちゃん、ごめ、よろしく」


 真っ赤な顔に汗を垂らしている正に必死と言った感じの二仮からバトンを受け取る。


「おっけー!」


 前にいるのは3人、1位とは半周くらいの差か、きついなあ。


 でも、今回勝つのは私だ!


 腕を振り、足を前に出す。


 何の捻りもなく、ただ必死に走る。


『あとちょっとで抜かせますよ!』


 前にいた女子を抜き、3位になる。


 あと、二人っ!


 前にいた男子を抜かそうと横に並ぶが、そこまで来て男子の方がスピードを上げる。


 こいつ、ここで粘るのか!


 なかなか、抜かせない。


 そのまま、テイクオーバーゾーンに入る。


 次の人――アンカーは……そういえばあいつだったか。


「っ犬太、任せた!」


 そう言って、バトンを渡す。


 私はすぐ脇に避けて、座り込んだ。


 ああ、すごい。犬太があっさり二人を抜いているほを見て心からそう思う。


「ははっ、私頑張る必要なかったね」


『いえ、そんな』

「綺羅ちゃん!」


「ああ、二仮ちゃん」


「……かった」


「え?」


「すごかった!」


 手をぶんぶん振りながら二仮は力説する。


 私はそれを苦笑しながら聞き――保護者席にいた一人の女性と目が合った。


〈犬神君が1位でゴールテープをきりました!他の組も続々とゴールしていきます。これにて体育祭の全競技は終了です!〉


 体育祭が、終わる。




ーーー




「これは結局、1年では神宮家のクラスが勝利ですかね?」


 保護者席では保護者の方々がくだらない話に花を咲かせながら、保護者同士の仲を深めていた。


 そんな中、一人スーツを着た、まだこの中では相対的に若い女性――尋常議員はそれに耳をただ傾けていた。


「でしょうね。神宮家のご当主様が来られなかったのが残念だわ」

「なんで来なかったのでしょうか?」

「まあ、きな臭い噂もありますから。ほら美雪さんのこともありますし」

「ああ、美雪さんが美冬様に殺されたとかいう?」

「しっ、口に出さないでください」

「あ、すみません。でも、ありそうだとおもいません?」

「……まあ、異能力を持たない子など邪魔なだけでしょうからね」

「でも、確か美雪さんは他の家に養子に出されるはずだったのですが、それを美冬様が止めたと聞きましたよ?」

「それなら、美冬様はなんで今更」


「尋常議員、少しいいかね?」


「っはい」


 彼女は声をかけてきた人物がこの学園の理事長であることを認めるとすぐさま返事をする。


「ここは暑いだろう。涼みついでに少し理事長室で話していかないかえ?」


「それは、どうもありがとうございます」


 そう言って、立ち上がり、理事長について行く形で歩き始めた。









「それで、どういった話でしょうか」


 クーラーの効いた理事長室で尋常議員はそう問う。


「そなたの両親の事件の話じゃ」


「……」


「知り合いに警察関係のやつがおってな、そなたの両親の殺害事件について調べ直してもいいといっておる」


「いえ、それは大丈夫です」


「遠慮せずともよい、そなたが警察資料を無理に閲覧するほどこの事件を気にしてるのはわかっておる。それに、私の方に興味があるのじゃ」


「……そう、ですか」


「学園の方の殺人事件も調べなければならないだろうが、そこらはまあ、なんとかなるだろう」


「お忙しいのに、どうもありがとうございます」


「いいのじゃ、それにしても少し喉が渇いたな」


「よかったら、お茶など、どうでしょうか。ここに持ってきていまして」


 水筒を取り出す。


「おお、それはいいな。本当は茶を沸かしたいが、沸かすのは少々面倒じゃ」


 そう言いながら理事長はティーカップを二つ取り出す。


 彼女はそこに茶をつぎ、理事長に一つを渡してから、自分のカップに手を付ける。


 理事長は彼女が茶を飲んだのを確かめてから、茶を口に含む。


「理事長、すみません」


「ん?なんじゃ?この茶、冷めてはいるがなかなか……」


 そこまで言ったところで老人の手からティーカップが滑り落ち、床で割れる。


 そして老人はせき込み、血を吐き出す。


「な、なぜじゃ」


 彼女は震えながら謝罪をひたすら口にする。


「すみません、すみません、すみません……」


 老人は床へ倒れこむ。


「じ、事件も調べると、言った……だろぅに」


「……それが、だめなんですよ」


「あ?」


「私は両親を殺した犯人が知りたかったんじゃないんです。私が知りたかったのは警察が……私たちの両親を殺した犯人を――」


 彼女は泣きそうな顔をする。



「――私の妹を、綺羅の正体を突き止めたか」



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