第二八話 被害者の会における小話
「あなたはお姉ちゃんなんだから綺羅を守ってあげなさい」
両親は私にそうとだけ言って、綺羅の世話をよく任せてきた。
それ自体は別にいやではなかった。妹の世話を任せてもらえるほど信頼されていることが誇らしかった。
「なんで、人を殺しちゃいけないの?」
幼児故の純粋な疑問、ある意味そうだったのであろう。
人工呼吸器を外して、祖父を殺したというのに綺羅はいつも通り、無邪気な笑顔でそう言った。
私は……何も答えられず、ただ両親の言った通り守らねばと反射的に思った。
誤解のないよう言うと、両親は忙しい中で子育てを精一杯やっていたと思う。少なくとも愛情を注いでくれていたし、標準的な家庭であった。
でも、だからこそ、両親は家族の周りで殺人事件がよく起きる理由には気づかなかった。
私は、察しながらも何もしなかった。だって、私には何もできないから。
ただ、自然と偉くなりたいと思った。偉くならなければ、家族は、妹は守れないから。
そうして、国会議員に女性としては最年少で当選した。そう、正にその日だった。
「な、んで」
家族に報告しに行こうと帰省すると、血まみれの綺羅が両親だったものを引きづっていた。
両親と、そこに偶然訪れたという綺羅の同級生の子の死体を目の前に私はただ呆然と座り込んでいた。
「私ね!目標ができたの!幸せJK生活っていうやつなんだけど」
そんな中、これまでになく生き生きとそう語る綺羅はあの時、幼児であったときから変わらぬ純粋で無邪気な子供のようだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい……んっ」
理事長だった死体を前に思わず吐き気が襲ってくる。
壁に向かって昼食のおにぎりの残骸をぶちまけると、それに混じって血が出てきたのが見えた。
私も少なからず毒を飲んだ。もうすぐ死ぬだろう。
ああ、本当にこれでよかったのだろうか。
たった一人の少女がいたために沢山の人が死んだ。
なのに、彼女が生きていいのだろうか。
姉として最後に私はやらなければならないことがあるのではないだろうか。
「そうだ。私が、私が、やらなければ」
理事長の机の中を荒らし、何かないか探す。
……あった。
私はゆっくりと目線を上げる。
もう、終わりにしなければ。
待っていて、綺羅。
「うっ、なんか寒気が」
『まあ日が落ちてきましたからね』
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