第六話 大切な物の管理にはお気をつけを
「はあ、はぁ」
息切れを起こしながら、階段を上がり、私の手を引いた
「……開かねえ」
「……そりゃあ、屋上開放している学校の方が少ないし、ここもそうでしょ?」
「お前、鍵持ってたりする?」
「そんな物語みたいな展開あるか」
「そうだよな」
犬太はそう言って、力が抜けたように床へ座り込む。
これ、どうすればいいんだろう?とりあえず、聞いてみますか。
「あー、あおふゆ好きなんですか?」
「……ああ、好きだ」
犬太はこちらに顔を向けてくる。
「いや、すっげえ好きだ!氷河期になった日本で体験型アトラクションとして学園生活をするっていう内容は奇抜なんだけど、内容は青春の王道を行くような感じでさあ!いや、お前も見たことあるんだっけ?やっぱ面白かっただろ!」
「うん、面白かったよ」
とても学園生活の参考になった。
「そうだよな!やっぱり、対人型会話ロボット百合子がすごいかわいくてさあ!最初、主人公に設定を押しつけられすぎてバグっちゃうところもよかったし、主人公も最初は設定通りを重視してたのがだんだんなんでもいい、ってなってさ!かっこいいだろ!」
「そうだね。どこら辺が特に好き?」
「そりゃあ、3期の最終回で~」
犬太が熱心に語るのを聞き、うなずく。
私は知っている。こういう好きなものがあるやつと話すとき、自分は話さなくていい。適度に相づちを入れて、質問をしていけば話は勝手に広がっていくのだ。
「ってやばっ!もうこんな時間か。早く帰るかしないと怒られるな」
犬太がため息をついてそう言い、語るのをやめたので最後に気になっていたことを聞いてみる。
「なんで電子辞書でアニメ見てたの?休み時間はせめてスマホとかで見ればいいのに」
「しょうがねーだろ!俺、スマホなんて持ってねーんだよ!そもそも家にテレビないし、そもそも家電がない!」
「ええ?」
よくそれで生きていけるな。
「そうそう。でも、それを知られると俺のイメージ壊れるから全力で秘密にしてたのに……あんな公衆の面前でばらしやがって」
『いや、ほとんどの人知ってましたけどね!』
まあ、工夫すれば何見てるかぐらいわかるし、そりゃあこの学校のやつらは調べ済みだろうな。
「ドラマとかは見ないの?」
「前はたまに見てたんだが、ドラマブロッカーのせいで見なくなった」
何じゃそれ?
『一時期ドラマの撮影をやってる背後で結界を張ってダンスして、結界の中が見える異能力者だけに嫌がらせをする事件が起きたんです。ドラマブロッカーって呼ばれてて界隈では有名ですね』
いや、悪質だな!てか、写真越しでも結界内とか異能力者だけ見られるんかい!
「でも、最近おじが電子辞書でアニメを見れるようにしてくれて、アニメを見始めて久しぶりにすっげえ楽しくてさ。それを共有できる友達もいなかったけど、ずっと語りたかったんだ。だから、今日はサンキュな」
「いいよ」
「はあ、最近は特に神宮家のやつを殺せって親がうるさくて」
「そうらしいね」
「でも、本当は俺人なんて別に殺したくねーし、なんとか理由見つけてやめてるけどさ。俺は作品見て語れるだけでいいんだけどな」
「……」
「ああ、ごめん。なんで、こんなこと言ってんだろ。じゃあな」
犬太は慌てたように階段を降りていった。
『犬太は殺したくないらしいですけど?』
「ん?でも、理由つけてやめてるってことはやめる理由がないなら、殺さなきゃいけない。ちゃんと殺すっていうことだよね。だから、私が理由をきちんと全部潰してあげたら大丈夫――犬太ならちゃんと殺してくれるよ」
『……あなたってシンプルに外道ですよね』
「え、ひどい」
そう言いつつ立ち上がり、私も階段を降りる。
荷物とかも全部教室に置きっぱなしだから取りに行かないと。
「あ、綺羅ちゃん!」
廊下に出たところで久慈先生に呼び止められる。
私は笑顔を先生に返した。
「だめじゃなーい。HRサボったら!」
「すみません」
「でもまあ、いいわ。ああ、あとこれ」
久慈先生は片手に持っていた上着を差し出す。
ああ、これは昨日教室に忘れたものか。
「――ねえ、綺羅ちゃん。あなたも見たと思うけどこの学校は色々と大変なの。でも、みんな高校生だもの普通の青春を送るべきだって、思うわよね?」
「はい!それはもちろん!」
幸せJK生活には周りの協力も不可欠ですから!
「そう。綺羅ちゃんも同意見で嬉しいわ」
「はい。あ、じゃあそろそろ教室にいけないといけないので」
「そうね」
私は礼をして、先生を追い越す。
ああ、怖い先生だなあ。
「ああ、あと美雪ちゃんとは仲良くなれた?」
後ろから先生が軽い調子で聞いてくる。
「……さすがに案内してもらった程度じゃ、そこまで仲は深められませんよ。まあ友達にはなりましたが」
「それなら、良かったわ」
この先生は幽霊が見えないはず。はずだが、本当に怖い先生だなあ……。
私は早歩きでその場を後にする。
もう早く帰りたいや。
私のクラス1-1の扉を開け――
『あ』
「何してるの?」
私は、私のスクールバックから取り出した三徳包丁をまじまじと見ていた少女――
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