第一九話 お願いは一石二鳥


「えっと、何がどうなったんだっけ?」


 真面目な話、よく覚えていないんだが。


 なぜ、美冬と久慈先生がここにいるんだ?そして、美冬はなぜあんなにも中二病っぽい詠唱を?


 てか、鬼は人間からって、これは前も思ったな。そうそう、トイレ占有で恨みを買って、鬼になった同級生に殺されそうになったんだっけ。


「文にすると益々意味がわからないね」


 と言いつつ、立ち上がる。


『美冬のあれは危険です。おそらく、教室からは出た方がいいでしょうね』


「オッケーオッケー」


 幸い、久慈先生が戦っていてくれるので、ここから立ち去るのは簡単だ。


「ぐわあああ!」


 鬼が立ち去ろうとする私に気づいたようで、私の方に体を向ける、が、先生に止められてしまう。


「わああ!」


 そんな鬼に私はひらひらと手を振って、退出しようとする。


「いや、綺羅ちゃん、ちゃっかり出ていかないでよ!」


「いやあ、私役立たずですし?ほら、負傷者なので、お暇します!あとは任せました!」


「というか、どうしてこうなったかぐらいはって、おおう!」


 久慈先生は思わず、崩れた態勢を直し、さすがに学んだのか戦いに集中する。


 私は二人を見つつ、一瞬机によってから教室外へ出る。


 あとは、廊下から窓で見物だ。


 そもそも、私もどうしてこうなったかは分からないしね?


「~と力に操られし者、愚かにも我が胸に剣を突き付けし者」


「美冬って毎回、巫女服で戦ってるけど、いちいち着替えてるの?」


 何となく不思議に思ったので、小声で美雪に聞く。


『……残念ながら、神宮家に瞬間的に変身できるような道具はありません』


「まじかあ」


 夢、壊れるなあ。


 ん?もしや、犬太も戦うとき、着替えるのを待ってあげてたってことか?!


 みんな優しすぎだろ!


 そう思いつつ、頭の傷を押さえて、観戦する。


 久慈先生の息が上がってきていて、長くは持たなさそうだ。


 対して、美冬はひたすら長い詠唱を早口で言い続けている。


 鬼は美冬を見て、何らかの危機を察したのか、久慈先生が攻撃で押された瞬間に美冬へとびかかる。


「美冬ちゃん、危ない!」


 おお!いけるか!


 歓喜の声を上げそうになるが、美冬は慌てずふんわりと避ける。ちぇっ、そこそこ動けるじゃないか。


「~と為し。汝に雷光を持って我が神の御業を示さん!」


 そう言い切り、びしっとお祓い棒で鬼を指す。


 その瞬間、教室全体を光が満たした。










「い、今の何?」


 私は若干引きつった顔で問う。


「相変わらず、美冬ちゃんのはすごい威力ですよね」


 いつの間にか横に来ていた久慈先生が答える。


「あ、美冬ちゃーん!」


 光が晴れ、鬼だった少女――もう角はなくなり、肌も元に戻っている――を抱きかかえている美冬に久慈先生は駆け寄った。


「いや、大きいの撃ったね。先生も危なかったよ。綺羅ちゃんも避難してなかったら危なかったんじゃない?」


「……四有さんは結界護符を持っているので、大丈夫なのでは?」


 美冬は鋭い目線をこちらによこす。


「ん?何それ?」


「しらばっくれても無駄ですよ。護符が使用された反応があったんです。それも、私が美雪にあげた物の」


「本当にわかんないんだって!ああ、でもよくわからい結界っぽいものだったら、あそこの……燃えたところで起動してたかも」


 美冬は黙って、私が指さしたところまで行き、そこら辺を探す。


「これ……」


 そして、机の中から紙片を見つけた。


「目当てのものはありました?」


「まあ、はい」


 端的に答える美冬を見つつ、危なかったと一息をつく。


 美冬が来たのを確認してここから一旦出るとき、人目を盗んで机の中に使用済みの護符を入れておいたのだ。


「なら、よかった」


「でも、こんなに散らかっちゃって、後始末が大変になりそうですね」


 先生は苦笑いする。


「その件ですが、私がやらせてもらいます」


「いいの?」


「はい。その代わりと言っては難ですが、鬼塚の暴走の件は内密にしてもらえないでしょうか」


「……うん、いいよ」


「ありがとうございます」


 美冬はぴったり90度頭を下げる。その後、私に目を向けた。


「私の友人により怪我をさせてしまった上、つかぬ疑いをかけてしまい申し訳ありませんでした」


「いいえいいえ」


「厚かましいお願いであることは重々承知の上ですが、内密にしてもらえると……」


「もちろん」


「ありがとうございます」


「その代わり、一つお願いしてもいい?」


「……はい。私にできることならば、神宮家の名に懸けて全力を尽くしましょう」


『神宮家の名に懸ける、か。美冬は本気でお願いを叶えてくれるつもりみたいですよ?』


 それなら好都合。


「これはみんなには私から頼まれたって秘密にしてほしいんだけど」


「……はい。なんでしょう?」


「犬太と仲良く、体育祭に全力で挑んで!」


「……へ?」


『へ?!』


「ほら、ちゃんと犬太とも練習して二人三脚では一位取ってよね!」


 そう言って笑いかける。


 美冬は何か気が抜けたようで、苦笑いをしつつ、頷く。


「そんなことでいいのでしたら、はい」


「いいお願いだね!先生としても、体育祭は盛り上がってほしいし!」


「ですよね!」


 私は先生と熱い視線を交わしつつ、立ち上がる。


「じゃあ、私はとりあえず保健室に行ってきますね」


「気を付けてねー」


 私は先生や美冬に手を振りつつ、足早に立ち去った。


『……本当に、あなた美冬を殺すつもりなんですよね?』


「本当だよ」


『なら、なんでっ』


「別に幸せJK生活のためだけにあれを頼んだわけじゃないよ。まあ、それもちょっとあるけど」


『……あのお願いが役に立つ、と?』


「そうゆうこと。まあ見てなよ」


 そう言って美雪に微笑みかける。


 まあ、その前に私には大きな問題があるのだ。


 私は頭にできた傷を押さえつつ、美雪に尋ねる。





「とりあえず確認したいんだけど、この傷のせいで禿げたりしないよね?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る