第三〇話 面倒事は数珠繋ぎ


「綺羅、お前は、何をしてるんだ?」


 犬太は青ざめた顔になりながらも鋭い眼光とともにこちらを見つめる。


 さあて、ここからが重要だ。


 目の前の、この人物は一瞬で私の体を引き裂くことができる異能力者なのだから。


「犬太が悪いんだよ」


「は?」


「犬太が美冬を殺さないから、私が殺す羽目になったんじゃん」


 いつも通りの声色とスピードを意識して話す。


「お前は……父さんの手先か」


「ピンポーン!」


「お前が俺に近づいたのも父さんの命令ってわけか」


「まあね。犬太が真面目に美冬を殺そうとしないからさ。こっちも動かざるおえなかったんだよ。あ、でもこれは犬太の手柄ってことでいいよ」


 美冬の死体を指さす。


「手柄?これが?そんなのいらねーよ!」


 犬太は私をはっきりとした憎しみの持った目で見つめる。


「そうは言っても、本当はこれ、犬太の任務じゃん?私が手出したって言ったら、怒られちゃうよ」


「そんなの知るか!」


「今日犬太のお父さんと話して犬太の任務には手を出さないよう念押しされたのに、こんなすぐそれを破っちゃったら、私の方が――殺されちゃう」


「……」


「だから、お父さんには黙っておいてよ。私の正体も知らない風にして、これも犬太の手柄にして!ね、お願い。友達わけだし」


「……わかった。わかったから、俺の視界からもう消えてくれ。そして一生俺に話しかけないでくれ」


 そう言う犬太を見れば、犬太がとても傷ついていること、そしてもう私は彼の友になるのは不可能だということが自然と分かった。


「うん、じゃあね」


 だから、私は未練を残すことなく、その場から去る。


「さて、どうしようかな」


『久慈先生がいなくなったとはいえこの状況を見つかったら危険なので、早めに離れておくことをお勧めします』


 助言通り私が扉から教室の外へでようとしたとき、音がした。足音だ。ここから立ち去ろうとしている。


「っ?!」


 私は慌てて廊下に出る。


 走り去る後ろ姿が一瞬見えた。私にはそれで充分だった。


「はあ、もうめんどくさいなあ」


『面倒、ですか』


「うん。てか、美雪もなんで成仏しないの?」


『時間差があるんじゃないですか?』


「そうなのかなあ」


 思わずため息がでてしまう。


「なんか疲れてきた」


 思えば最近私は働きすぎだ。


 だというのに本題の幸せJK生活は停滞……どころか後退したまである状況だ。


「いや、あとちょっとじゃないか!」


 自分の頬を叩いて、やる気を出そうとする。


 あとちょっとに幸せJK生活が迫ってるんだから!


「よし!がんばろう!」


 私は小走りで廊下を走り始めた。




「あ、二仮!」


 廊下をゆっくり歩いている二仮を見つけて声をかける。


「き、綺羅。だ、だ、大丈夫だった?」


 二仮はいつも通り、ところどころで詰まりながら目を泳がせて話す。


「元々があれだと、動揺も何もないか……」


「な、何?」


「二仮、見てたんでしょ?」


 さらっと聞くと、二仮は無言になる。


「ちょっと、こっちに来てくれる?説明しないといけないことがあるから」


 そう言って空き教室へと移動し、手招きをした。




「あの、な、なんかの冗談、なんだよね?」


「どこらへんが?」


「血とか、ど、ドッキリ、みたいな?」


「二仮はさ、地味にちゃんと現実を見てるよね」


「え?」


「中二病で、口先ではファンタジーみたいな妄想を口に出すけど、二仮はある意味一番そういうファンタジーがありえないものだって思ってる」


「あ、ありがとう?」


「だからね、やっぱり危険だよ」


 バッグから先ほど使ったばかりの血濡れの包丁を取り出す。


 二仮は予想通り、呆然としてじっと固まっていた。


 包丁をゆっくりと胸に差し込む。


 二仮の鋭い悲鳴が響き、二仮は壁へともたれかける。


 私はじっとそんな二仮を見つめていた。二仮が顔を上げると、その目が開かれていく。


 うん?何を見て


「あぶないっ」


バァーン


 二仮が私の方に飛びついてきて、私が倒れるのと同時に耳を裂くような音が響き渡る。


『銃って……日本はいつからこんなに治安が悪くなったの?』


 私は首だけを回して、扉の方を見る。


 立っていたのは、拳銃をかまえたスーツ姿の到底高校生には見えない女性。



「あー、久しぶり? 何か用かな? お姉ちゃん」



「綺羅、ごめんなさい……一緒に死にましょう」



 うん、これまーた、めんどくさいやつだ。


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