最終話
「まだ、私はあきらめ、ない」
地を這いながら、一人の少女が必死に生きようとしていた。
『……不思議なものですね。私はあなたのことが憎くてたまりませんでした。下手したら姉以上に』
美雪の半透明な足が目の前に現れる。
『でも、今は不思議とそういう感情が湧いてこないんです』
美雪が無言になると、私の荒く小さい息の音だけが響く。
必死に左手で傷口を押さえながら、傷ついた右手と足で進んだ。
『……綺羅、あなたは絶対にこの世では幸せJK生活なんて、青春なんてできませんよ』
私はそれを聞いて反射的に問う。
「な…ん、で?」
美雪はしゃがみ、私をのぞき込むようにして見る。
『だって、あなたは人と関わるときいつだってその人の殺害を選択肢に入れているでしょう?』
彼女の真っ黒な瞳がこちらを覗いていた。
『始めから、相手の殺害を想定しながら行動するあなたには到底友情を育てることはできない。友情とは対等な人間同士で育つものですから』
彼女の声は静かな校舎に不思議と響き渡った。
『あなたが
「ああ、たしかに……ね」
単純明快なロジック、なぜ思いつかなかったのだろう。
いや、思いついても受け入れたくなかったのか。
つい先ほどまで熱くてしかたなかった体から熱が失われていくのが感じられた。
少しずつ、少しずつ進んできたその歩みを止め、ただじっと留まる。
『あなたはもうすぐ死にますよ』
「ええ」
『……ちなみに二仮は無事ですよ。急所を外してましたから、運が良ければ助かるでしょう。安心しました?』
何もかもがどうでもよい。
「そ、う」
そうして、長い沈黙が続いた後に、朗らかな笑い声が響き渡った。
『ああ、もう降参です』
優しい声だった。
『私は、思っていたよりあなたといた日々を気に入ってたんです。あなたを気に入ってたんです。あなたは人を惹きつける、そういう側面がありますよね。だから――教えてあげます。あなたに残った唯一の希望』
私はゆっくりと顔を上げた。
『シリアルキラーであるあなたが対等な友情を、幸せJK生活を手に入れたいなら』
光が見えた気がした。
『誰も殺すことができない――誰もが死者である地獄で得るしかないでしょう?』
「……じご、く。ああ、そうだ」
ふと、笑みがこぼれた。
先ほどまであった熱は離散したままだが、胸には確かな温かさが戻る。
なんで、思いつかなかったんだろう。
『本当はあなたに絶望して死んでもらうつもりだったので、こんなこと言うつもりはなかったんですけどね。でも、私の復讐はもう果たされましたから』
「地獄、か。あると、おも……う?」
『少なくともあなたが死後行くとしたらそこ以外考えられないでしょう?』
ああ、その通りだな。
『さて、絶望の中死ぬところに希望を見せてあげたんです。一つくらいお願いを叶えてくれない訳ありませんよね?』
おどけたように話す。
『私も地獄に落ちることはほぼ確定なんですけど、まあでも、地獄って怖いじゃないですか、同行者兼護衛が欲しいなと常々思っていたところなんです』
「ふふっ」
思わず笑いがこぼれる。
『それに――思うんです。きっと地獄でなら、私とあなたもちゃんと友達になれますよ』
「そう。つまりは地獄での友達第一号になってくれると?」
『そうですよ!ああもう、で、乗るんですか?乗らないんですか?』
美雪が手を差し出す。
「もちろん」
私はその手を取り、しっかりと握りしめた。
シリアルキラーは異能学園で幸せJK生活を送りたい! 石亀 @ishigame
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