第二一話 リハーサルは真剣に
「もう少しゆっくり走ってください」
「ああ?十分だろうが。お前がもうちょっと歩幅大きくすればいいだろ」
「いえ、これ以上は無理です。私、あなたみたいに足長くないので」
「……なら、せめてお前が内側の方に行ったらいいだろうが」
「確かにそうですね。ありがとうございます」
校庭で足を紐で結びながら、言い合っている美冬と
「うんうん。いい感じだねえ」
『綺羅は体育祭の練習しなくていいんですか?この時間が終わったらリハーサルでしょう?』
「リレーしか出られないからね」
ため息をつきつつ、言う。出る競技はもう決めてたらしい。転校生の悲しき事情だ。
「見て。美冬様、また犬と練習してるわよ」
近くで固まっていた数人の女子群がひそひそと話す声を私の地獄耳がキャッチする。
「私、あの犬に噛まれたのよ。回復術をかけてもらったからよかったけど」
「私も。異能持ちのやつらと言ったら、私たちの後ろにいるだけだからいいんでしょうけどね」
「美冬様も最近、変だわ。犬と和解したみたいだし、ほら、あのメッセージの件」
「ああ、美冬様が美雪を殺したっていう?」
「正直、ありそうよね」
「同意見。美冬様ならやりかねないわ。かわいそうなこと、異能を持たないからって」
「私たちも危険よ。腕力では美冬様になんか負けないけど、異能を行使されたら、ねえ?」
「何の話をしているの?」
一人の女子がそこに割って入る。
あれは確か、美冬の取り巻き……側近というところだろうか。
「ああいえ!何も、気にされるようなお話は」
「じゃあ、教室から鉢巻きを持ってくるとかしておいてくれる?美冬様の組が負けるなんて面子に関わるんだから、もっと真剣にやってちょうだい」
さっきまでひそひそと話し合っていた者たちは慌ててそこから離れる。
『分裂ですか……ざまあみろ』
ぼそっと美雪がつぶやく。
「うんうん。順調でいいことだね。美雪があいつらにも恨みを持ってたとは知らなかったけど」
『嫌いなだけです。美冬や異能持ちへ不満たらたらな感じが丸見えで、その癖で陰口を叩くことしかしない』
「だからと言って、美冬を殺そうとする美雪も不健全では?」
『あなたには言われたくないですっ!』
「き、綺羅ちゃん」
美雪と話していると、急に横から話しかけられる。
「ん?あ、
「あ、あのさ」
いつも悪い顔色をもっと青くして言う。
「り、リレーでね。ぼ、僕の番でかなり抜かされちゃったんだけど、みんな僕の悪口とか言ってないかな?」
「大丈夫だよ!」
あの人たち、それどころじゃないから!
「それより、騎馬戦の練習もしなくちゃいけないんでしょ?切り替えなくちゃ」
「そ、そうだった」
二仮はとぼとぼと歩いて行く。私はやることもないので、周りを見渡すと、鬼塚さんと目が合った。
しかし、その目はすぐさまそらされる。
「私のことやっぱり嫌いっぽいね」
『……まあ、異能を暴走させるくらいには怒ってましたからね』
「異能の暴走ねえ」
『私も何か感情が高ぶったときに起こるっていうことぐらいしか知らないので、詳しくは聞かないで下さいよ?』
「りょ」
それに詳しい人なら心当たりがあるからね。
私はジャージのポケットから、スマホを取り出す。
「ん?もう9時じゃん!」
私はロック画面に写った9の文字に動揺しつつ、走る。
遅れたら洒落にならないぞ。
「すみません!少し……遅れました?」
「ちょっとだけ遅れたね。誘導係の他の子は先に持ち場の確認に行ったし、僕らも行こうか。あと、これ四有さん担当分の保護者名簿ね」
目堂先輩は紙を差し出しつつ、苦笑いでそう返す。
「はい!」
私は先輩の後に付いていった。
そして、沈黙が続く。
『なんか喋りましょうよ。見てるだけでもなんかきついです』
美雪は我慢ならないとでも言うように話す。
うーん。先輩がこちらをたまにチラチラ見てくるしな。まあ、あれだ。雑談するか。
「先輩って、どこ生まれですか?」
「え?あ、うん」
先輩は緊張した面持ちでぼそぼそっと県の名前をつぶやく。
「えー。そこなら、私も一時期住んでましたよ」
「……そうなんだ」
沈黙が続く。
『雑談、しないんですか?』
そうは言っても、相手から話切られっちゃったらねえ。
もう、本題に切り込むか。
「先輩って、異能の暴走について、詳しく知ってます?」
先輩はこちらを見る。が、彼はさっきまでの緊張とは一転、なぜか少しほっとしたような笑みで見つめた。
「もちろん」
「小学生のときに異能を暴走させたんですよね?どういう感じで?」
「それは……きっと参考にならないよ」
困ったように言う。
『綺羅、ちょっといい?あの子』
「そうですか。あ、すみません。トイレに行ってきても?」
美雪の報告を聞いてから、私はそうとだけ言って、返事を待たずに離れる。
「トイレなら反対方向の方が近いよ!」
いや、残念ながらトイレは主題でないのだ。
私は校舎裏へ曲がり、そこにいた少女と目を合わせる。
「体育祭の練習はいいわけ?……ねえ、鬼塚さん」
鬼だったときとを思わせる、怒りの形相をした少女に微笑みかけた。
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