第二三話 天使って何?
「すみません!待ちました……よね?」
私は謝りながら、目堂先輩に駆け寄る。
「大丈夫だよ」
「私がいないときに、なんかおかしなこととかありました?」
「なかったよ。もう大体の人は校庭に集まってるし、先生も見回りにくるだろうから僕らも行こう?」
待たされたのにも関わらず、そう笑顔で言う先輩に対して、私も笑顔で返す。
「はい!あ、でも……おかしなことはありましたよ?」
「え?」
「先輩もここで待ってたなら、少なからず聞こえましたよね?窓が割れる音とか、破壊音とか、その他」
先輩は無表情でこちらを見つめる。
「今の言葉でわかりました。先輩、見てましよね?諸々」
『いや、私の証言でわかったんですよね?』
そのことを隠そうとしてたやつがつぶやく言葉じゃないな!
「……安心してほしい。君がやったことを言う気はない」
「先輩は美冬と敵対してるんですか?」
「いや、養父は神宮家と同盟を組んでるね」
「じゃあ、なんで」
「四有綺羅」
問おうとした瞬間、横から私の名を誰かが呼ぶ。
「ああ、久慈先生じゃないですか」
前見たときより大分やつれた久慈先生が数十メートルほど先に立っている。
というか、あれは……鬼を刺した刀か。
『鬼塚を見てきたみたいですよ。やばくないですか?』
いや、でも私が犯人だという証拠はない!
「四有綺羅」
先生はもう一度そう言って、手に持った血濡れの刀をこちらに向ける。
「お前だな。私の生徒を殺したのは」
先生、口調変わってますよー。
「殺すってなんのことですか?」
「鬼塚の暴走は二回目だ。あれほど後悔していたのだから、またちょっとしたことで暴走するはずがない。誰かが誘導したんだろう」
「はあ。先生、さすがに思い込みが激しいのでは?」
「異能が何かわからない状態で暴走させるのはありえない。そして、鬼塚の異能をこの学校で知っていて、誘導できるのはお前だけだ」
「いや、苗字からなんとなく鬼になるのかなあ、くらいは想像できますけどね」
「何より、お前は美雪や鬼塚のことと言い、怪しすぎだ!」
まあ、確かにそうかも。
「私の生徒を殺したんだ。お前の命を持って償え」
いや、私もあなたの生徒では。
そんなことを思ってるうちに、先生は床を蹴る。
あ、速い。
グサッ、と刀はそんな陳腐な音も出さず、静かに肉を斬る。
ただし、うれしいことに私の肉ではない。
「――っ」
私の前に立ちはだかった先輩が悲鳴をなんとか抑える。
先生は先輩に刀を刺したまま驚いたように固まる。
「きゃ、きゃあああああああああああああああああああ」
なので、私が思いっきり叫んでみた。おそらく、校庭まで届くくらい。
先生はそれを聞いて、私を見る。そして、動き出す。
でも、少し遅かった。
刀が先輩から抜かれ、私まで届く前に、久慈先生は透明な膜に覆われる。
「何をしてるんじゃ?」
一番乗りがご老人とは、意外だね。
『理事長?』
へえ、理事長なのか。
そう思いつつ、私は倒れる先輩の体を受け止めておく。
「これを解いてください!綺羅を!四有綺羅を殺さなきゃ!」
「こやつが何をしたのかね?」
私の方をチラッと見る。
「私の生徒を、鬼塚を暴走させた挙句、殺させたのです!」
「証拠はあるのかえ?」
「いえ、でも、こいつは数日前、鬼塚が暴走したときも」
「うん?数日前に生徒が暴走したなどとわしは聞いてないぞ」
「そ、それは」
美冬に口止めされてたもんなあ。報告してないだろう。
「それに、殺させたと言うたが、誰にじゃ?」
「久慈先生が鬼塚さんを殺しました!」
横から、声がはさまれる。
そこを見てみると、あらびっくり。鬼塚を殺した張本人の少女たちである。
「本当です。私たち見ました!」
『そこで押し付けるんですか』
美雪は呆れたように言うが、私としては嬉しい限りだ。
おじいちゃんは、ため息をつくと、遅れてやってきた教員たちに久慈先生を連れていくように指示する。
「ま、待ってください!本当に」
「陰陽師のところの小僧は……もうだめじゃな。面倒なことになってしもうたのぉ」
先輩を一瞥してそう言うと、おじいちゃんは離れていく。
私は視線を先輩に移した。
ああ、確かにこれ、死ぬな。
「なんで、助けてくれたんですか?」
純粋に疑問に思い、問う。
「だ、って、……ぁから」
最初にあったときと同じように先輩は微笑み、言葉を放つ。
「きみ…は天使だから」
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