シリアルキラーは異能学園で幸せJK生活を送りたい!
石亀
プロローグ
「髪のウェーブよし」
「スカートよし」
「お化粧よし」
「手鏡よし」
「手帳よし」
「三徳よし」
「準備オッケー!」
校門前で最終チェックをしていた女子高生は前を向くと、輝くような笑顔で学園へと足を踏み入れた。
ーーー
「
声の主を探して振り返ると、
「なんですか?」
近づくと久慈先生の近くにいる女の子が目に入った。
……すごくかわいい子だ。あの姉ともいい勝負をするかもしれない。
軽くウェーブがかった茶髪には小さな花のピンが刺してあり、きちんと化粧した目元はぱっちりとしている。
ただ、折られているスカートや手首につけている色とりどりの飾りゴムなどを見るにかなり校則に関して、違反がありそう。
まあ、この学校で校則は形骸化しつつあるけど……少し苦手な部類の人かもしれない。
「この子は今日から転入する
紹介された女の子、四有さんはニッコリとして頭を下げる。私も会釈を返し、久慈先生に向き直る。
面倒な依頼だが、これで先生の好感度が上げられると思えば儲けものだろう。
「わかりました。それくらいなら」
「よし、任せた!先生はちょっとコンビニ行ってくる」
久慈先生が爆速で走って行くのを見送りながら少しためらいつつも
「えっと、四有さん。まず東校舎に行きましょうか」
「綺羅、でいいよ!あなたの名前はなんて言うの?」
「
そう言って歩き始めた。綺羅は軽やかな足取りで私を追いつつ話しかける。
「美雪ってかわいい名前だね!私も美雪ちゃんってよんでもいい?」
私は嫌いな名前だけど。
「はい。それにしても1年の6月から転入なんてすごい中途半端ですね」
「あー、ちょっと前の学校あわないなってなっちゃって、損切りするなら早めがいいじゃない?だから中途半端だけど転校しようって思って」
「……確かにそうですね」
その通りだ。でもそんな選択を簡単にできるものなんだろうか。
「あ、あのさ!」
「ん?何でしょう?」
「すごく急なのはわかってるんだけど、その、私の……友達になってくれない?」
いや、本当にすごく急過ぎて言葉が咄嗟に出ない。ただ、その理由になんとなく見当がつくので言葉を絞り出す。
「姉に近づきたいなら、私に近づいても意味ないですよ」
「なんのこと?てか、お姉ちゃんいたの?」
綺羅は素っ頓狂に聞き返す。
観察してみるが、本当に心から驚いているようだ。……本当に関係ないのか。
「じゃあ、なぜ私なんかと友達になりたいの、ですか?」
「夢、だから。友達とかいっっっぱい作って充実した――幸せJK生活送るの。美雪はいい人っぽいし、友達になる機会なんてそうそうないんだから一つ一つ大事にしないと」
綺羅は笑ってそう返す。
本当の本当に打算とか一切なしでそういってるのがわかる。
そういうのは初めてかもしれない。
少し、うれしい。
それに私の計画のために友達を作っておくのもいいだろう。
「ありがとう、その、よろしく」
「うん!あ、そうだ」
綺羅はうれしそうに頷くと胸ポケットから手帳とペンを取り出し、手帳に線を引いた。
「ほら、これ見て」
眼前に差し出された開かれている手帳を見るとページ上部に「高校でやりたいこと!!!」と書かれていて1行目の「友達を作る!」という文に線が引かれていた。
「目標一つ目達成!」
綺羅の笑顔を見ていると微笑ましいなと思える。彼女は普通の女子高生のように笑う。この学園ではそうそうお目にかかれないものだ。
なんというか……不思議な子だ。
そんなことを思っているうちに東校舎と西校舎をつなぐ渡り廊下へとさしかかった。そこで急に綺羅が止まる。
「あのさ、あれは何なの?」
綺羅が不思議そうに校庭を指さす。指がさす方向に目を向けるがそこには何も不審なものはない。
すっと背筋が冷たくなる。
すぐさまポケットから
「姉と、あの犬か!」
姉にあの文字通りの「犬」が噛みつこうとしている。姉は華麗に身を翻してそれを避けようとするが避けきれず、血が、飛び散る。
姉が、あの姉が死ぬかもしれない。ほの暗い喜びが首をもたげる。ざまあみろと、そう思う。
……だめだ。ここで死なれたら面倒なことになる。まだ準備ができていない。でも、私が姉を助けるなんて不可能だ。こんな早朝に、なんで!ああ、もう!どうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうすればどうす
「ねえ、これどうなってんの?」
声が耳に入り、半ば反射的にそちらへ顔を向ける。
「なんであの女の子は巫女みたいな服してんの?てかあの黒い犬?狼?でかすぎでしょ」
綺羅の顔を見ているうちにはっとして綺羅の手をつかむ。
「来て、助けに行く」
「は?え、待ってよ。どゆこと?」
「あなたも異能持ちなんでしょう?お願い、助けて」
「いやいや、異能ってなによ?」
しらばっくれるのが上手い。私相手にこれほど演技をできるなんて、あんなにも普通の女子高生の演技をできるなんて、たいしたものだ。
「とぼけないで!不可視結界内の様子が見えるのはなんらかの異能持ちか人の生き死に深く関わる武士くらいよ?」
「いや、本当に私は普通の一般市民なんだって!」
「そして、あなたは後者ではない以上、なんらかの異能を持っている」
「異能とかなんとか知らないし!私は面倒なことに巻き込まれたくないの」
「この学校に来た以上覚悟の上でしょう!少なくとも神宮家につくのは悪い選択じゃないし、あなたの安全は私が保証してあげる」
そう言って上着を脱ぎ、綺羅に渡す。
「護符つきよ。あなたのことを守ってくれるわ」
まあ、あの犬ならこの程度の護符は破ってしまうかもしれないが。
「さあ、来て」
綺羅の手を無理矢理引いて走り出す。姉のところまではおよそ70m弱、走れば15秒で行けるだろう。
グサッ
「だからやめてって言ってるじゃん」
……は?
は?
は?
は?
は?
は?
は?
はあ?
なんで?なんで私の胸に包丁が?
サッと包丁が引き抜かれる。
それとともに足の力が抜けて、体が倒れていく。
それでもなんとか体をひねって振り返りながら倒れる。
「うーん、やっぱり私の幸せJK生活の中に超能力バトルに参加するっていうのはないね」
彼女が血ぬれた包丁片手に手帳をめくり、そう言うのを呆然と眺める。
「あーあ、また友達探しからやらなきゃかあ」
疑問を口にしようとするもその代わりに血が吐き出される。
絶えず血を吐き出しながらもなんとか問いを口にだす。
「な..んっ....で」
「あ、まだ生きてるの?心臓を一突したんだけどな~。これも能力ってやつ?」
彼女は暢気にこちらを見る。さっきと変わらない笑顔で、さっきと変わらない私を見るように。
寒気が私を襲う。
もうそれが彼女に対する恐怖なのか、胸に空いた穴のせいなのかわからないが、ただただ声を絞り出す。
「あな、たわ...なにも..のなの?」
彼女はその問いをきょとんとした表情で聞くと笑って告げた。
「私?私はなんの能力もない普通の女子高生だよ。まあ強いて言うなら――
――シリアルキラー、とか?」
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