はぐれ星 その2《Side:猫水水面》

2000〜3000字くらいでまとめたいのにうまく行かない。どないすればええんや(諦め)


多分あと2、3話くらいは猫水嬢視点になると思います。お楽しみに〜


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「猫水嬢はスキル持ってる? 何ができる? できるだけ手短によろしく」


ダンジョンの第1層に降りる時に来栖先輩がそう聞いてきた。


「スキルは…持ってません。中級魔法までは一通り扱えます。あとは探索魔法が」


「探索魔法! そう、それだ。精度は高くなくていいから一度にどのくらいの範囲をマッピングできる?」


「あ、えっと、半径100mくらいです」


「よし。じゃあ方針はこうだ。とにかく全力で走って猫水嬢はマッピング。下層に続く部屋を見つけたらすぐにそこに行こう。戦闘は俺がやる」


「は、はい!」


テキパキとした指示に、本当にこの人が初心者ダンジョンに潜っていたのか疑いたくなる。


「まもなく第1層。油断しないで。多分――」


来栖先輩が何かを言おうとした瞬間、進行方向から魔法弾の弾幕が飛んできた。


「伏せて!」


数多の光弾が頭上を飛んでいく。


来栖先輩に引っ張られ、近くの岩の陰に飛び込んで様子をうかがう。


「えっ、なんで……ダンジョンでのPKプレイヤーキルはルール違反じゃ…」


良くも悪くも、ダンジョンは無法地帯だ。たとえ人を殺してしまっても、ダンジョンなら探索中の事故ということで処理されてしまう。


「ここはダンジョンコアが攻略されてるでしょ? だからコアの設定をいじってダンジョン内の人間が致命傷を受けると即時回復させて特定の場所にて空間移動テレポートさせるようにしてるんだよ」


「あっ、訓練中に死なないようにするためですか…!?」


「そう、学校とかでは緊張感を持たせるためにそのことは知らされないんだけどね……それを利用してリスキルをして妨害しようとしてるんだ…」


「ど、どうします?まだ弾幕止みせんけど」


「どうするも何も、強行突破しか策はないよ。煙幕スモーク焚くからその隙に突破しよう」


来栖先輩が岩から少し顔を出す。何個か近場に合った石を右手に握っていた。


「ふう……」


先輩の右腕から黒紫のモヤが石に移っていく。


「複数同時の魔力注入…!?」


魔法職が練度を上げていく時、3つ目あたりに直面する課題が『複数同時の魔力操作』だ。複数の魔法を同時に発動したりするのに必須の技術で、一応私も会得している。


「…煙幕スモーク!」


5つの石が投げられ、鈍く光ると、弾幕の発生源の真ん中で煙を吐いた。


「急いで!」


先輩の合図で必死に駆け出す。


人の垣根をジャンプして、何人か踏んだ気がするが、それも気にせずに走り去った。


100m程駆け抜け、T字路についた。


「はぁっ…はぁっ…」


開始数分でなんて緊張感だ。心臓が早鐘を打っている。


「いい動きだよ」


突破した先輩がそう言った。


「あ、ありがとうございます」


「さて、ここからが君の出番だ。頼むよ、猫水嬢」


「はい…!」


呼吸を整え、いつものように魔法を展開する。


広範囲地形探索ワイドレンジマッピング!」


発動した瞬間、半径100mの地形情報が私の脳内に刻まれる。


「左50m、80m、右40m、90mにそれぞれ部屋があります。あたりではなさそうです」


「よし、じゃあ――」


先輩も右手を前に出し、魔法を発動させる。


敵影探知サーチエネミー


前に出した右手の手のひらにレーダーが浮かび上がる。


「……よし、左に行こう。魔物にせよ人間にせよ、何かが集まってるってことはそこに当たりがある可能性が高い」


「は、はいっ!」


「急ぐよ」


二人で後ろに駆け出す。


先輩の索敵どおり、数人の志願者が走っていった。


「ねえ! こっちで下に行ける!?」


「多分そうだ! お前ら今来たのか!?」


先輩がそこに追いつき、話しかけると、一人の志願者が意外にも気さくに話してくれた。


「ああ、まあまあ手間取ったけど、相棒が優秀だったから」


「あんのリスキル野郎が……! 俺のペアもやられちまったんだ」


どうやらこの人もさっきの餌食にあったらしい。


「ウチのオペレーターは優秀だ。マッピングの範囲が広いからよかったら同行してくれないか?」


「願ってもないことだ。行かせてもらうよ」


無精髭を生やした中年の男性が先輩の提案を快諾した。


全員が敵だと思ってたけど、リスキルしてきた人たちみたいに協力をすることも攻略の鍵なんだ…


「手数は多い方がいい。俺は来栖凛凪。あんた、名前は? 何ができる?」


「俺は暗殺者アサシン大鷹おおたかだん隠密ハイドには自信あるぜ」


「当たりだ。猫水嬢。マッピングして」


「は、はい!」


言われたとおりにマッピングして情報を集める。


「猫水って、学生パーティーの?」


「あ、結構有名なんだ。そうらしい」


「マジで!? 娘がファンなんだよ。終わったらサインもらってもいいか?」


「え、あ、はい。でも私なんかより翼ちゃんとかのサインを貰ったほうが良いんじゃないですか…?」


「……言っちゃ悪いんだけどよ、あんまり好きじゃないんだ。あのパーティーの4人。どうにも調子乗ってるっていうか、あんま好きじゃねえんだよな、ああいうノリ」


「そうなの? 俺あんまり知らないんだけど」


「兄ちゃん、見ないほうがいいぜ。水面ちゃんがでてないときの配信は観る価値がない」


「そんなに?」


「ああ、皆、特に女子二人は水面ちゃん人気を妬んでる感じでな。男子二人も登場すると自分たちより目立つからってことでハブってんだよ……あ」


大鷹さんが気まずそうに私を見る。


「あ、いえ、私なんてパーティーに入れてくれるだけでありがたいので、そんなに気にしてませんよ」


「くうぅ…っ! 聞いたか兄ちゃん! この健気さ! しかも可愛い! ファンにならずにはいられねぇよ!」


「あ、ありがとうございます…」


あんまりそんなことを面と向かって言われないので、顔が熱くなってしまう。


「まあ、少しあのパーティーを見てたけど、猫水嬢をよく思ってはいないみたいなのはすぐ分かったよ」


「だろぉ!?」


「猫水嬢も、合格したらあいつらと別のパーティーに行ったほうが良いよ。猫水嬢ならオペレーターの腕で色んなところに行けるだろうし」


「あ……」


いや、私に、そんな資格なんて――


「そういや、アンタもうおっさんだろ。なんで今さらこの試験を受けに?」


「ひっでぇな兄ちゃん。男はいつだって夢を追いかけるもんだろ?」


「そのスタンスで生活できるほど現代社会は甘くないだろ」


「……ああ、実はな…前まで所属してたパーティーが解散しちまったんだ。結構良い稼ぎでよ。でもこのままだと娘の学費とか、家族を養えねぇんだ。結構腕には自信あったから蜘蛛の糸を掴むような思いでここを受けたんだよ」


懐かしむように大鷹さんが話す。


「あと日本一の忍者になりたい」


「急に子供」


「うっせぇよ、兄ちゃんは?」


「俺はねぇ、この前再開した相棒の大言壮語に付き合おうかと」


「へえ、その相棒はなんて?」


「世界一を目指すらしいよ?」


「夢追いかけてんのはどっちだよ!」


「少なくとも、アイツにはそれを目指せるだけの力があると思うけどね」


――二人共、しっかりした理由があってここを受けに来たんだ…


「猫水嬢は? 何か夢とかあるの?」


「えっ、えと、私は……」


私はパーティーの皆が受けるって言ったから来ただけで、特にそんな夢は…


「わ、私は、日本一の魔法使いになりたいって…思ってました」


「そりゃ大きく出たな! 兄ちゃんより現実味がある!」


「おいおっさん。事実を言われると傷つくぞ……でも、猫水嬢なら行けるよ。少なくとも素質はある」


「い、いや、もう諦めました…いつまで経っても上級以上の魔法は使えないし、ただの出来損ないですよ」


自虐的に笑う。


「…」


「……水面ちゃん」


「あっ、マッピングの結果教えますね。えっと……丁度前方100m先に、当たりっぽい部屋があります!」


なんとも言えない空気を振り払おうと、私はできるだけ明るくそう言った。


それが効いたのか知らないが、大鷹さんも来栖先輩も気を取り直した。


「了解。おっさん、先に先行して敵いないか見てもらってもいいか? 俺の魔法は連発できないから」


「おう。任せな」


音もなく大鷹さんが走り出す。


「……あのオッサン忍者になりたいとか言ってたけど、もう忍者じゃねっていうくらい隠密上手いね」


「…そうですね。ウチのパーティーの相馬くんも暗殺者ですけど、スキル使っても足音はちょっと鳴っちゃいますし」


「ほんとに忍者なれるよな」


「ええ…」


「オッサンでさえ忍者になれるんだから、猫水嬢もなれると思うよ。日本一の魔法使い」


「いやいや、無理ですって。才能ないんですから」


「そうでもないよ。最後まで挑戦し続ければ、いつかなれるさ」


そう言って先輩も進んでいく。


「あっ、待ってください!」


私もそれに慌てて続いた。



胸に灯った実現不可能な希望を、振り払うように。

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