勘を取り戻してたら、猫耳少女に会った

難易度Ⅰの初心者ノービス用ダンジョン最深部で、俺はフロアボスと戦っていた。


討伐難易度Dクラスのレッサーオーガ。上位種のオーガより知性に乏しく、攻撃も単調なのでまさに初心者にうってつけの相手だろう。


「ガァ!」


「よっ」


直径約1mの腕から放たれる薙ぎ払いを躱し、そのまま腕を駆け上がって刀を振るう。


ズバッと血飛沫が舞い、レッサーオーガの首が胴体と別れた。


絶命したオーガの体が、魔力の粒子となって霧散する。


「討伐完了っと」


討伐の証である手のひらサイズの魔力結晶を持ってきたリュックにしまい、時計を確認する。


「10分36秒……まあこんな物か」


ダンジョンの探索を開始し、全てのフロアに入り、最下層のフロアボスを倒すまで約11分。ソロでこのペースはなかなかなのでは?


「…換金のために1時間休憩。もうあと2週くらいするか」


そもそもなんでこんな事をしているのかというと、2年間で鈍ってしまった探索の勘をできるだけ取り戻すためだ。


難易度の低いダンジョンを何度も周回して体にダンジョンを思い出させている。


「魔力操作も、そんなに鈍ってなかったかな」


俺は右手に握った模造刀をタオルで拭く。そのままでは斬れないので魔力を纏わせ刃を作り攻撃すれば、魔力操作の練習になる。


そんなことをここ数日、大学の授業もバイトも休んで続けていた。


「…明後日、か」


俺は来た道を戻りながらスマホを取り出す。


夕華が送ってきた明後日開催のプロダンジョン配信者のクラン『プロステリータス』の入団試験の概要を再確認する。



募集要項:新人でもベテランでも探索者ランクは問わない。「面白い」よりも「強い」人材を私達は募集している。


試験内容

1次:応募者は二人一組でプロステリータスが所有する訓練用のダンジョンを攻略する。最も早く最下層のダンジョンコアに到達したペア上位100組を合格とする

また、101番以下のペアでも攻略時に実力を示した者が合格になる可能性も十分ある。


2次:試験内容は、クランメンバーとの模擬戦。メンバーから一本でも取れば即合格。一本を取らなくても入団するに足る実力があれば合格とする。


「ダンジョン攻略のTAタイムアタックとプロとの模擬戦か」


一次がンジョン攻略なのはまず基礎的な実力を図るためか。


「この二人一組っていうのはランダムなのか? それとも自由に組んでいいのかな?」


後者ならペアを組むのに時間がかかりそうだ。


「まあ今更一緒に組む友達もいないし、知り合いもいないだろうしな」


頑張ってペアを組むことにしよう。


「おっと」


眼の前にゴブリンが4匹。金が余っている探索者なんかは帰還用の魔道具を使って即時帰還をすることができるが、使うほど苦戦するようなダンジョンじゃない。


「サクッとね」


一瞬で4匹をなで斬りにし、結晶を取ることもなく足早に帰る。


ダンジョンの入口に続く扉を開けると、ちょうど眼の前に小型のドローンを飛ばしている猫耳の少女とぶつかった。


「わわっ…ご、ゴメンナサイ!」


ピャーっという擬音が似合うくらい素早く後退りした少女はペコペコと頭を下げる。


「ああいえ、特に怪我はしてないから」


水色の髪に桃色の瞳、獣人の特徴である尻尾がシュンと垂れ下がっている。


「す、すみません私本当にどんくさくて…! 公共のダンジョンは初挑戦なんです…すみません、すみません…」


公共のダンジョン初挑戦というのは、まだ学生だろうか。一部の学校では敷地内に小規模のダンジョンを持っている学校もあるし。


「その装備は…配信者?」


「は、はいぃ! い、一応ダンジョン配信者として活動させていただいております、猫水ねこみず水面みなもです! 普段は学校のダンジョンで配信するんですけど、パーティーの皆がここに挑戦したいって言うので、マッピングをしに来ましたぁ!」


ダンジョンでの生存率、利益率を上げるものとして必須なのがマッピングだ。


探索魔法が使える探索者が、攻略に乗り出す前に事前にマッピングをすることで、どのフロアのどこに確定で宝箱があるか、どこにフロアボスがいるかをある程度知ることができる。


「あー、じゃ配信中か」


「は、はい。初めての単独配信なので、緊張してます…」


「単独でマッピングと配信?」


「は、はい…!」


「それは忙しそうだね……数年ぶりに初心者ダンジョンに篭っているヤツが言うのも何だけど、気をつけてね、危なかったらすぐ逃げて」


「あ、ありがとうございます!」


そう言って猫水嬢は駆け出していった。


「…とりあえず換金するか」


それを見送った後、俺は換金用窓口に寄って往路で手に入れた結晶を換金し証明書をスマホのアプリにダウンロード。


ひとまず椅子に座って休憩。特にすることもないからせっかくだし猫水嬢の配信でも見てみるか。


スマホを取り出し、配信プラットフォームで『猫水水面』と検索。


「お、これだこれだ」


どうやら5人組の学生パーティーで活動しているらしい。


ライブ配信中の枠を見つけ、それを開く。


『よ、よし、優しい先輩にも応援してもらったし、頑張るぞ…!』


[頑張れ水面ちゃん!]

[さっきの人も言ってたけど、気をつけて。水面ちゃんの安全が第一]

[全国大会ベスト8の水面ちゃんなら行けるって!]


なんと、どうやら猫水嬢は全国大会でベスト8のパーティーに入っているらしい。これは心配は杞憂だったかな?


そんなことを思っていると、1つのコメントが目に留まった。



[正直水面ちゃんが男と話してるの気に入らないからそういうのやめてほしい]



「…あー、しくった」


ダンジョン配信者に限らず、女性の配信者や芸能人には一定数男性との絡みを妬んだり嫌ったりする人がいる。


流石にちょっと言葉を交わしただけでこうも反応するのは敏感すぎる気がするが、配信者と会う以上、最低限の会話にとどめておくべきだったかな。


これからダンジョン配信者となる前にちょっとだけ反省。


『あ、えっと、明日、18時からパーティーの皆でこのダンジョンを攻略します! 明後日のプロステリータスの入団試験の最終調整です! 皆見に来てね!』


[見る!]

[ついに水面ちゃんもプロ入りか…!]

[まだ決まってるわけじゃないぞ。まあ合格できると思うが]


「えっ、猫水嬢あの試験受けるんだ」


これは明後日が楽しみだ。見かけたら声をかけよう。


もちろんトラブルが起きないように言葉には気をつけるが。


その後の配信も終始安定していてマッピングも丁寧に行っていた。


「よし、あと2周、行くかー」


椅子から立ち上がり伸びをしてリュックを背負う。


その後は猫水嬢とバッティングすることなく、周回したあと家に帰った。



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次回! 入団試験開始!

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