学生時代のトラウマ「二人組みを作ってください」
2日後。俺は予定通り入団試験が行われる『プロステリータス』の訓練用ダンジョンの入口へ続く待合室に待機していた。
既に数十人の志望者が集まっており、部屋は賑やかになっている。その中には猫水嬢の姿もあり、パーティーのメンバーと話していた。
知り合いもいないので聞き耳を立ててみる。
「あ、おい、あれ。Bランク最強格の『ハーツクルセイダーズ』じゃないか?」
「本当だ。メンバー全員で挑むのか」
視線が集まる先には、豪奢な中世の騎士の鎧を身にまとった美青年がニヒルな笑みを浮かべている。なんというか鼻持ちならないやつだぜ。かーっ、ぺっ!
しかも自分以外のメンバー全員女性だし。なんだ? ハーレムか? 潰すぞ?
ニヒルな青年がなにかに気づき視線を向け、つぶやいた。
「お、あれは学生パーティーのTGSPだな。そう言えば一昨日水面ちゃんがこの試験受けるって言ってたっけ」
そう言って笑みを崩さぬまま学生5人組の方へ近づく。
「やあ四辺形の諸君。君たちのこの試験を受けに?」
「おっ、誰かと思えば王子様じゃ〜ん。そろそろハーレムに私も加えてよ〜ぅ」
猫水嬢のパーティー。『
正直めっちゃ気持ち悪い。いちゃつくと言うよりも媚びを売るような声だ。今すぐやめてほしい。
「ふふっ、この試験に合格し、この僕が晴れてトップクランに合格したら、パーティーに誘ってあげてもいいよ?」
「きゃー!! 本当ぅ!?」
「もー、だめだよ翼ちゃん。
えっ、風貌だけじゃなくて名前が王子なの? それはなんというか…名は体を現すんだな…。
ギャルの背中を掴んで一見清楚系の女子が王子から距離を取らせた。
一見というのは明らかにその子の目にも媚びるような視線が含まれていたので、多分清楚じゃなくて白ギャル系の子なんだろう。
「いいじゃんさっちん。減るもんじゃないんだし」
「も〜、私達は作戦会議するよ? ほら。ごめんなさい急に」
「ちぇー」
翼嬢はさっちん嬢に連行されるように戻される。
「いや、僕は構わないよ。ところで、水面ちゃんは?」
「…あー、水面ちゃんは今トイレだね。緊張しちゃって色々催しちゃったらしくて」
「ほんと、ビビリだよね。私達がそんじょそこらの雑魚パに負けるはずなのにさ」
ケラケラと笑う翼嬢も、ただただ微笑んでいるさっちん嬢も、目が笑っていない。たぶん猫水嬢は王子に気に入られていて、それが気に入らないのだろう。
だとするとパーティー内で猫水場がハブられていたりするのだろうか。一昨日のマッピングも普通は速く動けるメンバーでやるものだし。
なんか可哀想だな。もし話しかけられたりしたら優しくしてあげよう。
因みに四辺形の残り二人は男子なのだが、片方の片目を髪で隠したヤツは獲物である刀の感触を確かめており、陽キャっぽい方のヤツは別の女性探索者と仲よさげに話していた。
俺もトイレ行っておこう。そう思って立ち上がりトイレに向かう。
「わわっ…ご、ゴメンナサイ!」
「ああいえ、特に怪我はしてないから」
ん? この一度したようなやり取り……
「あ、猫水嬢。こんにちは」
「あっ、一昨日の…! あなたも受けるんですね!」
丁度トイレから戻ってきた猫水嬢だった。
「うん。ソロだから知り合いいないと思ってたけど。猫水嬢がいてよかったよ」
「いえいえっ、私もホッとしてます。あ、この前はありがとうございました! お陰で怪我なくマッピングを終えれました」
「翌日の探索は? うまく行った?」
「はい! …っていうか、配信、見てたんですか?」
「うん。あの後1時間位ね」
そう言うと猫水嬢が顔を赤らめた。
「は、恥ずかしいですね…私の動きでなにかおかしいところとかありませんでした?」
「いやいや、全然。流石全国ベスト8って動きだったよ。学校の小規模ダンジョンとは言え、何回も繰り返し同じ動きをして来たのが分かる。一朝一夕でできることじゃないと思うよ」
「そ、そうですか! ありがとうございます!」
「うん、試験も頑張ってね」
そう言って俺はトイレに向かう。
「は、はい! あっ、えと、あの…」
「ん?」
猫水嬢がまたなにか言いたげだったので一度振り返って聞き返す。
「…いえっ、お互い頑張りましょうね!」
そう言って猫水嬢が笑みを浮かべた。その笑顔が少し寂しげだったのは、俺の気のせいだろうか。
「ああ」
======================================
その後、トイレから出ると試験担当のクランメンバーが説明を開始するところだった。
「これより、プロステリータスの入団試験を始める。試験概要はもうわかっているな? これから我々が所有するダンジョンを二人一組で探索し、最深部のダンジョンコアまで最速でたどり着くことを目指してもらう。上位100組を1次試験通過扱いとし、それ以外でも実力を示した者がいたらその者も合格となる」
さて、ここが重要だ。探索のペアはランダムなのかそれとも自由なのか…
もう一人、桃色の髪の女性がおっとりした声で口を開く。
「じゃあ、二人一組を作ってくださ〜い。作った方達からダンジョンにいてもらって構いません」
終 わ っ た ☆
「……」
数分後。ほとんどの志願者は探索に乗り出し、数人がここに残っていた。
ソイツらはトイレに行った相棒を待っていたり、一人で行くためなのかわざと待っている人などだ。
「…」
そして、猫水嬢もその場に残されていた。
所在なさげに視線を虚空にさまよわせている。
あぁ、良かった。
俺は彼女の肩を叩いて言った。
「俺と探索してくれない?」
「ぇ、ぁ、その」
「このまま待ってても挑戦すら出来ないよ。行くの? 行かないの?」
「っ…よ、よろしくお願いします!」
「よし、行こうか」
俺は彼女の手を引いて桃色の髪のお姉さんに言う。
「猫水水面と来栖凛凪。参加します」
「はい。ちょっと遅れてるけど、いってらっしゃーい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます