新しいパーティー
「起きろボケ」
「だぁうっ!」
翌日、いつもよりも少し遅く置きた俺は、気持ちよさそうに俺のベッドを占領する夕華を叩き起こした。
「え……? なんで凛凪が…」
「ふざけんなよ、お前が酔いつぶれて寝たんだよ。何もしてないから。後退りするな。おい」
「それはそれで男としてどうなの? 据え膳ってやつだと思うんだけど」
「いや、お前に関し据え膳ではない」
「えっ」
夕華がショックを受けたように絶句するが、無視である。このおふざけに付き合うだけ無駄だ。
「さっき、クランの社長の……紫倉さんからメールが来た。パーティーの顔合わせするから二人で来いってさ。さっさと飯食って行くぞ」
「…はーい」
不機嫌そうにベッドから這い出てきた夕華と朝食を食べる。
「一回家帰るのか? 着替えたりしたほうが良いと思うし」
「うん、そうするつもり」
「というか第1パーティー所属になるんだな俺」
「まあ元々私がパーティーの新しいメンバーに君を推薦してたからね」
「そういやそうだった」
二人で朝食を食べ終えると、夕華は一旦自分の家に帰ってそこからクランの本部に行くことになった。
「ネットのニュースにもなってるのか」
紫倉社長の入団会見から一夜明け、新しい入団者などの情報を纏めたネットの記事が色々なところから出されていた。
「え、あのオッサン元Aランクパーティーだったのかよ…」
ほとんどがパーティーで試験を受けて合格しているため、パーティーの情報が書かれているが、俺とオッサンと猫水嬢は個人で合格したためそれぞれの経歴が軽くまとめられていた。
それによると、オッサンは有名なパーティーの一員だったらしい。リーダーが事情により引退したことをきっかけにパーティーも解散となったそうだが……日本一の忍者になるという彼の夢の実現性が更に増したな。もうなってるんじゃないだろうか。
「やっぱり俺に対する情報はなし、か」
俺の名前の下の欄には「情報求ム!」と一言書かれているだけ。
探索者協会に登録してある顔写真と二つ名が表示されているが、今までほとんど表舞台に立って活動することがなかったので完全ダークホース扱いだ。
記事のコメント欄でも俺の正体について議論が重ねられているが、どうやらどこかの掲示板サイトで俺の学生時代を知るニキがなけなしの情報を絞り出していた。
それによるとバトルスタイルとスキルはもう割れているらしい。確かに合っているが、そのニキも全国大会の様子しか知らず、近年の俺のことは知らないようだった。
猫耳嬢のいた四辺形のパーティーメンバーは、俺が殴ったガキ以外2次試験を通ったのだが、ガキがみっともなく泣き喚いて泣く泣くパーティーで合格を辞退していた。
「失礼します」
本部に着いて用件を言うと、すぐに社長室に通された。
「おお……すげ」
壁には達筆な文字で『栄光』と書かれていた。そういえばクランの名前である『プロステリータス』もラテン語かなんかで栄光って意味じゃなかったっけ。
さて……呼ばれたから来てみたものの、肝心の社長が……
「これだからなぁ…」
俺は眼の前にある社長席を見下ろす。
「…」
紫倉社長が机に突っ伏してすやすやと寝息を立てていた。
昨日から家に帰っていないのか、昨日あったときと同じ服装かつ、やりかけの書類の上に突っ伏して寝ていた。
「社長業って結構忙しいものなのか?」
プロステリータスは比較的若い会社だから、まだまだ忙しいのかもしれない。
社長業をしながら現役で
「社長。紫倉社長」
呼ばれているのが俺だけであれば満足するまで寝させるが、この後夕華も来るし、できるだけ不機嫌にならないように起こしてあげよう。
「…ん〜…」
「紫倉社長。起きてください」
軽く肩を揺すってみるが、起きる気配がない。
どうすれば起きるだろうか。
そう言えば夕華はご飯だよと言えばすぐに起きるが、社長も起きるかな?
「……社長。ご飯できましたよ」
「…んぅ…いらない…」
どうやら社長は朝ごはんを食べないタイプのようだ。…ならば…
俺は一歩下がって少し切羽詰まった声で言った。
「社長! 国税局が!」
「なにっ!? 国税!? なんで!?」
俺が叫ぶと、紫倉社長がバネ仕掛けの玩具のように飛び上がった。
「おはようございます紫倉社長。コーヒーでも飲みますか?」
「あ、ああ……国税は…?」
「国税なんて来ませんよ? どんな夢を見てたんですか」
「そうか、夢か……よかった」
ほっと胸をなでおろす。後ろめたいことなんて無いよね?
「…って、なんで秘書でもないのに君が…?」
「用件伝えたら通してくれましたよ。もう少ししたら夕華も来ると思うのでその間に身だしなみを整えておいてください」
そう言ってコーヒーカップを机の上に置いた。
「あ、ああ、すまん――あつっ、にがっ」
「あ、すみません。猫舌なんですね」
舌は見た目と同じで子供舌なんだ。とは口に出さないでおいた。多分見た目のこととか気にしてる気がするし。
「……いま、子供っぽいって思っただろう」
「イエ、ナンノコトダカワカラナイデス」
「…君、嘘つくの下手だな――確かに私の体は子供だ、なぜか味覚とかも。だが年齢的には君の年上ということを忘れないでくれ。子供扱いはやめてほしい」
「はい。しませんよそんなこと」
一応上司だし。
「うむ。じゃあ私は一度着替えるので部屋から出ていってくれ。着替えたら呼ぶ」
「は? ここで着替えるんですか?」
突然の発言に俺が驚いて聞くと、紫倉社長は平然と答えた。
「ああ、最近は会社で寝泊まりすることも多いからな。着替えは常備してるし、なんだったらその気になれば暮らせるぞ。ほら」
そう言って壁の一部に取り付けられたウォークインクローゼットを開くと、中には様々な服が揃えられていた。
「……健康には気をつけてくださいね」
「ああ、それはもちろんだ。良い経営者の鉄則は自分が健康であることだからな」
「じゃあ、一旦外に出ますね」
「ああ」
社長の着替えを待つため、俺は一度部屋の外に出た。
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