顔合わせ
社長の着替えを待つために外に出る。特にすることもないので、スマホをいじりながら壁に寄りかかってひたすら待つ。
「凛凪? なんでそんなところで待ってるの?」
「ああ夕華か。紫倉社長が中で着替えてるんだよ」
「またか〜…この前も叱られたばっかりなのに…」
「まあ社長だし、忙しいんだろ」
「それはそうなんだけどさ」
「着替え終わったから入ってもいいぞ……お、夕華も来てるな。ちょっと待ってろ、あいつらも呼ぶから」
俺と夕華が部屋に入ると、紫倉社長は内線電話で誰かを呼び出す。
その風景を見て夕華が耳打ちをした。
「私のパーティーメンバーは全員、クランの職員としても働いているから用事があるとこうやって内線で呼び出されるんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「すまないね。そこのコーヒーでも飲んで、時間を潰してくれ」
「社長。また無理したの? ダメって
「ゔっ……た、頼む、悠音には内緒にしておいてくれ」
悠音という名前が出ると、紫倉社長の顔がさっと青ざめた。
「私はそこまで気にしないけど…根の詰めすぎは良くないって」
「つ、次からは気をつけるよ…ははは…」
頬が引きつっている。そんなに怒られたくないんだろうか。
「次からは、なにに、気をつけるの? 綾音ちゃん?」
「!?」
急に後ろから声が聞こえたので振り返ると、ボブカットのベージュ色の髪を揺らして悠然と微笑む女性が立っていた。
「ヒッ! い、いや、なんでもないぞ、悠音」
明らかに恐怖に怯えた声で紫倉社長がそう言う。
「ふ〜ん? まあいいけど。無理はしちゃダメよ?」
「あ、ああ、わかってる。……真樹は? まだ来てないのか?」
「ええ、多分まだ工房に引きこもってると思うんだけど…」
「だああああああああああ!! まにあったーーー!!」
その時、ドアの向こうからけたたましい足音とともに赤い髪の女性が突っ込んできた。
「間に合った? 間に合ったよね? ねえ夕華、まにあったよね?」
「あー、うん。間に合ったよ。うん」
「よかったぁぁ〜〜〜〜」
長く安堵のため息を吐くと、紫倉社長が仕切り直した。
「さて、第1パーティーの旧メンバーは全員揃ったな。あともう一人、新しいメンバーを呼んでいるんだが……電車が遅延しているらしい。先に自己紹介を始めておこう。まずは私だな。改めて、このクランの社長でこのパーティーのオペレーターをやらせてもらってる、紫倉綾音だ」
「第1パーティー前衛、閃道夕華だよ。知ってると思うけどバトルスタイルは
「第1パーティー後衛、
尋問官とは、回復魔法の体系を習得しつつ、毒系の魔法の体系も習得することで獲得できる職業だ。
「はーい! 第1パーティーの後衛、
「これが、我々プロステリータス第1パーティーのメンバーだ。じゃあ今度は新人くん、自己紹介を頼むよ」
紫倉社長からバトンが渡される。
「はい。この度第1パーティーに入ることになりました。来栖凛凪です。多分前衛やると思うのでよろしくお願いします」
「はーい、質問! 職業は?」
赤い髪の東雲さんが元気よく手を挙げて質問する。
「無職です」
「あ、そっちじゃなくて、探索のときの職業ね」
「無職です。基本的に前衛職は全部こなしますよ。強いて言うならバトルマスターです」
「ぜ、全部? じ、じゃあ武器とかもなんでも扱えるの?」
東雲さんが涙目になっていく。なんでだろう?
「真樹ちゃんはね……昔、武器を大事にせずに使い捨てみたいに扱う人と一緒にいたから、色んな種類の武器を使う人が苦手なんだ」
夕華が素早く耳打ちをする。
なるほど、何となく分かった。そういうこだわりがあるんだろう。
なんでも使えるって言ったから武器を大切にせず、すぐに交換するようなイメージを持ってしまったのかもしれない。
「バトルスタイルがその場の状況にすぐ対応できるようにするものなので。そうですね。基本素手です。だから……籠手とか? あったら嬉しいかな」
「! 分かった!」
俺がそう言うと、大輪の花のような笑顔を咲かせた。紫倉さんとは違ってこの子は精神的にも幼いな。
「来栖くんは私達に必要な前衛の底上げに必要な存在だ。その実力は夕華からの推薦もあり折り紙付き。皆異論はないだろう?」
「ええ、夕華ちゃんの人を見る目は確かだもの」
「悪い人じゃなさそうだし、私もないよ!」
「あと一人は……来たな」
またドタドタと足音が響く。
「すっ、すみません! メールでも送ったのですが、電車が遅れてしまって!」
「気にしなくてもいい。丁度自己紹介をしていたところだ」
「そ、そうなんですね! 初めまして! この度第1パーティーに所属することになった、猫水水面です! 後衛で魔法職をさせてもらいます!」
パーティーメンバーの最後の一人は、なんと猫水嬢だったようだ。
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