まず、確認
「猫水嬢、昨日振り」
「来栖先輩! 先輩もここに所属なんですね!」
俺たちがつかの間の再会を喜び合っていると、紫倉社長が話し始める。
「来栖くんは我々の課題であった前衛の火力補強。そして猫水くんは本来予定していなかったが、特級魔法を扱った実力から後方支援の要になると判断して配属を決めた。期待しているよ」
「はい」
「が、頑張ります!」
「よし、悠音。まずは二人の動きの確認をする、ダンジョンコアのモンスターの湧き設定を……そうだな、難易度Ⅳで」
「わかったわ」
紫倉社長の指示を受けて朝霞さんが腕時計型デバイスで何らかの操作を行う。
「悠音ちゃんはね〜。ダンジョンの運営を統括しているから私達がトレーニングするときとかに設定を変えてくれるんだよ」
東雲さんが金属で覆われたリュックを背負う。
「さ、新人さんの実力をこの目で見てみよう。あたしは自分の目で見たものしか信じないからね」
「……だそうだ。猫水嬢。用意は?」
「……出来てます」
「夕華、案内して」
「はいはーい」
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やってきたのは試験のときにも使った訓練用ダンジョン。今回は難易度Ⅳ相当のモンスターが湧くように設定されている。
『そこの角に魔物が一体湧いている。猫水くんか来栖くんのどちらかが対処してくれ。他の3人は手を出さないように』
オペレーターである紫倉社長は、ドローンを遠隔操作して参加している。
「どうする? 猫水嬢がやってもいいけど」
「いえ、お先にどうぞ」
「ならまあ遠慮なく」
曲がり角から現れたのは、討伐難度Cランクのサイスサーペント。
鎌のような牙が特徴の大蛇だ。毒息を吐き、頭が良く着地狩りなどを行ってくる。
「じゃあ来栖くん。何か武器使う?」
東雲さんがそう言ってリュックに手を突っ込む。
「なんでもいいですよ」
「じゃーこれー」
そう言って投げ渡してきたのは、白地に黒のラインの入った金属製のヌンチャク。
「そのヌンチャクは
「効果は?」
「それは使ってみてのお楽しみ」
発明家らしく、この武器も自作なのだろう。柄の部分にクランの紋章がデザインされている。
軽く2、3回振って感触を確かめる。問題ない。
「じゃ、行ってきます」
サーペントは既に俺の存在に気づき、戦闘態勢に入っている。
鎌首をもたげ、その大牙をいつでも突き刺せるようにしている。
「来いよ」
サーペントは攻撃が速く、むやみに攻撃するとカウンターを喰らう。
なので正攻法は待ち。
ヌンチャクを構えながらカウンターを狙う。
「シャアアア!!」
サーペントの噛みつき攻撃。
「ひゃー、速い速い」
それを躱してカウンターでヌンチャクを叩きつける。
硬質な音が響き、大したダメージを叩き出せないことが伝わった。
一度距離を取る。近くにいると足元に連続で噛みついてくるからな。
「うーん。やっぱり試作品だから威力は控えめかぁ…もう少し重い金属を使っても良いかも」
後ろで東雲さんがそう呟くのが聞こえる。
新人の力試しでも武器のデータを取るとは……根っからの研究者気質らしいな。
「……よし、ねえ! よかったら能力使ってみて! そっちの確認もしたいから!」
その声を聞いて、試しに魔力を流し込んでみる。
すると、握っていない方の棒が、空中で固定された。かなり強い力で、全力で引っ張っても動かない。
「面白い」
空間固定の能力を持ったヌンチャクか…
「使ってみるか」
俺はサーペントとの距離を詰めると、下顎にヌンチャクを振り上げ攻撃。
遠心力の乗った打撃がサーペントを仰け反らせるが、すぐに反撃に転じてきた。
大口を開け、噛み付くために突っ込んでくる。
本来なら横に跳んで回避。しかしここはアクロバットに。
振り上げたヌンチャクに魔力を流し込み、位置を固定。
それを支点に上に跳びつつ体を引き寄せ、空中で1回転して回避する。
「おお〜っ、早速使いこなしてる」
こんなふうに使えば空中で回避行動を取ることもできるな。結構応用の幅があるのかもしれない。
あ、こういうのも出来るか?
俺は距離を詰めると、サーペントに対してわかりやすい攻撃を加える。
「シャアアア!」
当たるわけないだろうとサーペントは攻撃を躱し、得意のカウンターをかましてきた。
そこで、俺はヌンチャクを前に突き出し、魔力を流し込んで位置を固定する。
ガキッ! と牙とヌンチャクがぶつかる音が響き、サーペントの勢いが泊まった。
「セイッ!」
動きが止まった一瞬の隙を突き、正拳突き。
防御にも使えるな。片手で相手の攻撃を防げるから、もう片手が空くし。
「シャアアア!!」
今のは結構効いたらしい、サーペントがのたうち回り苦痛に悶えている。
そろそろ終わりにしよう。
『あ、あー。ちょっと良いかい来栖くん』
通信魔法で俺の脳内に直接紫倉社長の声が響いた。
「はい? なんです?」
『探索者協会と、ネットの掲示板からの情報だ。君はスキルを持っているそうだけど、ぜひ使ってみてくれ』
「えぇ、急ですね」
『そもそも君、手を抜いているだろう? 軽い準備運動のつもりかい? 日本一になった探索者が、討伐難度Cくらいでこんなに手間取るはずがない』
「まあ、良いですけど」
『じゃあよろしく。《流転》の実力を見せてくれ』
俺の登録時の二つ名、そんなのだったっけな。
「悪い、お遊びはここまで。上司に叱られちゃったから」
サーペントにそう言うと、挑発と受け取った相手が足元に連続で攻撃を仕掛けてきた。
それを全て躱すと、相手の射程10mの外に出る。
「うまく使えるかな」
ヌンチャクを振り回し、目測で距離を測る。
ヌンチャクを振りかぶり、一歩目を踏み出した瞬間にスキルを発動する。
「ふぅ……
10m以上離れていたサーペントが、一瞬で眼の前に現れる。
「喰らっとけ!」
フルパワーでヌンチャクによる攻撃を何度も繰り返す。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
硬い鱗も、何度も攻撃を加えることでボロボロになっていく。
「オラァ!」
最後はヌンチャクによる突きでとどめを刺した。
「ふう…終わりです。東雲さん。武器貸してくれてありがとうございました」
「うん。こっちもいいデータが取れたよ。ありがとう」
ヌンチャクを返すと、俺はドローンに言う。
「これで満足ですか? 俺のスキル、
『ああ、ああ。満足だとも。まだ力の一端しか見せていないようだが、これだけでも十分に強い。なあ夕華』
「うん。空間を歪ませて一気に距離を詰める技は脅威だから」
「じゃあ次は水面ちゃんね。期待してるわよ」
「ひゃ、ひゃい! 頑張ります!」
朝霞さんのプレッシャーに、肩を震わせて猫水嬢が答えた。
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