猫水嬢も、確認
俺の戦闘が終わったあと、しばらく探索して今度は討伐難度Bのサイクロプスとエンカウントした。
知能が高く、巨大な棍棒はサイクロプスが軽々振るうだけでも脅威になりうる。
『よし、じゃあ次は猫水くん。やってくれ』
「は、はい!」
紫倉社長の号令のもと、猫水嬢が魔法陣を展開する。
「
猫水嬢が魔法を発動すると前方の地面が凍りつき、サイクロプスの足を止めさせた。
「
間髪入れずに風の刃を、唯一にして最大の弱点であるサイクロプスの単眼に向かって連続で放つ。
「ギャアアアアアアアアアア!!」
足を止められ身動きが取れない上に、弱点の目を集中砲火されたサイクロプスは、耳障りな叫び声を上げた。
「
一際大きな風刃がサイクロプスの首を刎ねた。
「お、終わりました…」
「水面ちゃんは魔法式の構築が丁寧で綺麗ね」
戦闘が終わると、朝霞さんが称賛の言葉を送った。
「あ、ありがとうございます!」
「私が学生の時もあんなになめらかに魔法を出す人はいなかったかなぁ」
夕華も学生時代を振り返ってそう褒めた。
たしかに全国大会でも猫水嬢ほどの魔法職はいなかったように思う。
「東雲さん、ちょっといい?」
俺は東雲さんに声をかける。
「ん? どうしたの?」
「猫水嬢の装備の話なんですけど、魔力の出力を制限する装備作ってあげてくれませんか? 魔力量が膨大すぎて自分じゃ制御が効かないみたいなので」
「なるほど。それだったらアタシに任せて! 作っておくから」
「ありがとうございます」
「形は腕輪みたいな感じでいいかな。水面ちゃんの魔力抵抗とかを色々検査して……うん、魔力の放出出力の検査もしなきゃだ」
そう言って東雲さんも猫水嬢を囲む輪の中に入っていった。
『君は褒めに行かなくてもいいのかい?』
ドローンを経由して紫倉社長の声が頭に響く。
「はい。言ってほしいことは全部皆が言ってくれているので」
『そうか。ところで数体の魔物の群れがこちらに向かってきているんだが、対処を頼めるかい? 進行方向にいるからどうしてもエンカウントしてしまうのでね』
「分かりました」
『ああ、いや……せっかくだから猫水くんと連携して倒してもらおうかな。試験のときも一緒だったから問題ないだろう?』
「そうですね……俺は大丈夫ですけど」
『よし、全員聞いてくれ。進行方向から魔物の群れが向かってきている。猫水くんと来栖くんに対処を任せたい。頼めるかい?』
音声チャンネルを全員に変え、社長が指示を出した。
「はい! 先輩が一緒なら行けると思います!」
『他のメンバーはすぐにフォローできるように準備してくれ』
「「「了解!」」」
「よし、行こうか猫水嬢。合図でデカいのを頼む」
「任せてください!
中級魔法最上位の火属性魔法を発動し、数十の炎弾が生み出される。
「俺は……そうだな、
右手に魔力を収束させた剣を生み出し、左手で猫水嬢の頭を触る。
猫耳がビクッと跳ねるが、大人しく頭を預けてくれた。魔力剣の魔力の波長を、猫水嬢の魔力の波長と同期させる。
「…よし、うまく行った」
魔力剣には特殊な性質がある。
それは魔力の波長を調節できること。
これを行うことによって、汎用性の高い武器に変化する。
「よし、行くよ、3、2、1……撃って!」
現れた魔物の群れはサイクロプス。数は8体。おそらく猫水嬢が倒したのもあの群れのやつだろう。
「はい!」
俺の合図と同時に炎弾が群れに殺到する。俺も遅れないように駆け出し、炎弾の弾道を捉え続ける。
半分が直撃したが、もう半分は当たらずにすり抜けて飛んでいく。
通常は操作できないその魔法弾を、俺のスキル――空間を歪ませることで軌道を変えて、当てる。
「
咄嗟に攻撃を防いだサイクロプスたちの油断した背後を確実に捉え、更に数匹にダメージを与える。
体に火がつき、倒れ込んだ1つ目巨人の一人に魔力剣を突き立てる。
「悪いね。全弾当てちゃったから」
先程魔力の波長を同期させたのは、魔力剣に属性を付与するためだ。
自分の魔法を使ってやっても良いのだが、同じパーティーの魔法使いの魔法を利用することで魔力の節約をすることが出来る。
切れ味を増した炎の剣を軽く振り、襲いかかる巨人に斬りかかる。
「縮地」
痛みにもがく巨人を蹴って宙を舞い、魔力剣に更に魔力を流し込む。
思い切り振り抜くと、炎をまとった魔力の斬撃が無差別に巨人たちを襲った。
一度同期すると、魔力を流した時に自動的に波長を変えてくれるのも魔力剣の長所。
着地すると、その瞬間を狙って無事だった巨人が拳を振り下ろす。
「――
ヒュン、と。
その拳は俺に当たる前に、風の刃で斬り飛ばされた。
「猫水嬢、ナイス!」
当たることなく地面に叩きつけられた手首を駆け、魔力を込めて刀身を伸ばした剣で首を刎ねる。
「
「
猫水嬢の2度目の魔法を、今度は収束させて相手に当てる。
複数体の相手に使う魔法を一身に受けたサイクロプスは上半身が跡形もなくなっていた。
「ラスト1体!」
俺はできるだけ魔力を込め、魔力剣を投げつける。
使用者の制御下から解き放たれた魔力剣は、抑え込まれていた魔力を爆発という形で開放する。
最後の巨人に突き刺さった剣は、爆炎を撒き散らして霧散した。
「ふう…終わりました」
『ご苦労さま。他に魔物の反応はないから安心してくれ』
「了解です」
「二人共、良い連携だったわよ」
「いいデータが取れたよー」
「全然鈍ってないね」
「ありがとうございます。猫水嬢も、
「あ、ありがとうございます!」
「これなら週末の配信もなんとかなりそうだね」
その言葉にピタッと俺の表情が固まった。
「あー……そっか、そうだよな。ダンジョン配信、するんだよね」
「そう! 毎週土曜日に基本配信かな。毎回ダンジョン配信ってわけじゃなくて、たまに雑談とかキャンプとかゲームとかの配信もしたりするよ」
「今週は新メンバーのお披露目配信になりそうだね!」
「そういった経験ないんで、場を盛り上げるとか無理ですよ俺…」
「ふふん。先輩がある私が手取り足取り教えてあげよう」
俺がうなだれると、夕華が胸を張って偉そうにそう言った。
それを見て朝霞さんがクスクスと笑う。
「大丈夫よ。夕華ちゃんだって初配信のときはガチガチだったんだから」
「ちょ、悠音さん! それ言っちゃダメ!」
「あら? そうだったかしら?」
「懐かしいね! 『助けて真樹ちゃ〜ん』って言いながら私に泣きついてきたっけ」
「やめてええええええ!!」
『挙句の果てにはオペレーターの私に助言を求めてきたからな』
「いやあああああああ!!」
「……うん、なんというか、夕華よりはうまくやれそうな気がしてきた」
「私は何回か配信に出たことあるので大丈夫だと思います!」
「よし、とりあえず夕華の無様な姿を確認しよう」
「やめい! ほら! いまダンジョン攻略中! シャキシャキ歩かんかい!」
夕華に槍でどつかれながら、俺たちは探索を続けた。
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