作者「さっさと退場させたいわコイツ」
実験を終え、4人で実験室出る。
「あ、いつの間にか夕華から連絡が」
「ん?あ、ほんとだ。グルチャに何か連絡が」
「えっと……」
「『たすけて』と来ているが…」
4人で顔を見合わせる。
「まあ…夕華だし、大丈夫でしょ」
「まあ夕華ちゃんだしね」
「夕華だからな。そこまで面倒なことにはなってないだろう」
「皆さん落ち着きすぎじゃないですか!? 『たすけて』ですよ!?助けを求めてるんですよ!?」
「まず夕華は戦闘力高いからそこらのチンピラに絡まれたところでそれはトラブルに入らない」
「そして次に彼女は結構おっちょこちょいでドジな一面がある」
「以上のことから彼女の『たすけて』は電化製品が壊れた、洗濯物が吹っ飛んでいった、などの緊急性がないトラブルであることが考えられる」
「い、息ぴったりですね…」
「まあもしこの建物内にいるなら確認しに行ってもいいんだけど。夕華はやればできる子だから」
「そんなことより焼肉食べに行こうよ!水面ちゃんの上級魔法初成功記念に!」
「私が出すぞ。最高級コースでいいか?」
「いや、それならパーティーの皆で行きましょうよ!」
4人でそんな事を話しながら、クランメンバーや関係者の休憩スペースであるラウンジに到着した。
本来ならここを抜けて受付を通り出入り口に到着するのだが、俺達は前方の人だかりに遮られて足を止めた。
「なんだ?」
「またパーティー同士で言い合いでも怒ってるのかな」
同じクランに所属していても、それぞれのパーティーの目標やモットーは千差万別。パーティー感で対立することも多い。
「というか道のど真ん中でやらないでほしいよね」
「全くだな。周囲の迷惑を考えないのか?」
東雲さんの文句に社長が同意する。俺としてもこんなところで見にくい争いをしないでほしい。
「というか、ただの言い合いなのにこんなに人が集まってるんですね」
「確かに。本当になにやってるんだ?」
「少し、声かけてみようか。おーい!そこの人だかりー!迷惑だからやめなー!!」
「そーだそーだ!他の人の迷惑を考えろー!!」
東雲さんと俺で声を張り上げて退去を促す。
「そ、その声は!」
人混みの中心から白雷が迸る。
その瞬間隣り合う位置に居た俺と東雲さんの後ろに回り込むように紫色の髪が隠れこんだ。
「ううう〜〜…たすけてぇえええ〜……」
夕華だった。
「助けてって、これのこと?」
「なんですぐ来てくれなかったのぉ〜…!」
「いや、また洗濯機を壊したのかと」
「そんなことでいちいち連絡しないよぉ…」
「いや、学生時代はしてきただろ」
「今はちゃんと対処法学んだからぁ…」
「それで?何があった」
泣きつかれる俺達の前に出て、社長が状況を確認する。
所属クランのトップが顔を出したことで、取り囲んでいた野次馬が蜘蛛の子を散らしたように解散した。
「いや、特に何も」
夕華と一緒に円の中心に居た人物。それは騎士の鎧を身に着けた好青年だった。
後ろに数人の女性探索者を侍らせている。
「何も?ウチの夕華が怯えているみたいだが」
「いえいえ、ただパーティーの勧誘をしていただけです」
「ほう?」
この男、勧誘する時のマナーを理解していないのか?
普通、他のパーティーのメンバーを引き抜く時はそのパーティーに一報を入れることが普通だ。そしてウチの最高戦力である夕華をパーティーが手放すはずがない。
「そういうのは事前に連絡を取ってからにしてくれ。まあ、出す返事は決まりきっているが」
社長も同じ考えのようだ。
「まあまあお嬢さん。そう言わずに、話だけでも聞いてはくれませんか?」
そう言って青年は社長に近づき、肩に手を置く。
「気安く触るな。レディは繊細なんだ」
軽く肩に乗せられた手を払うと、俺達の後ろに隠れていた夕華に話しかけた。
「夕華。大丈夫か?」
「…結構しつこかった。始めは後ろに居た女の人の探索者が話しかけてきて…何だっけ、マルチ商法?みたいにどんどん人が増えていってさ」
「ほう。そうかそうか。大変だったな。これから皆で焼き肉に行こうと思っていたんだ。行くか?」
「行く」
「来栖くん。夕華は大丈夫だ。ところで彼らのことを知らないか?」
急に話を振られ、俺は目の前の青年を記憶の中から探し出す。
「…ああー、あれです。入団試験のときに1次を1番で通過した…名前は…」
「
「そうそう、えーっと、Bランクパーティー最強格って言われてた」
「光栄です」
「ああ…そんなやつも採用してたな。一応言っておくが、他のパーティーから引き抜くときはそのパーティーに連絡を取ること。強引に勧誘するなよ」
「ははは、気をつけます」
そういえば、彼に侍っていた女性は試験時に6人だった気がする。
「なあ白銀君。試験時にいた2人は?」
「ん?ああ、彼女たちは実力不足で入団できなかったよ。だから代わりを探してるんだ」
「へー、頑張ってね」
「ああ、それなら僕からも質問、いいかな?」
交代で白銀君が俺に質問を投げかける。
「なんで君が黄昏に入ったんだい?」
「え?」
「いやね、ネットでも話題になってたんだよ。無名の探索者が第一線のパーティーに加入したのはなぜかって」
「それなら初配信の時に証明したでしょ。来栖君の実力は確かだよ」
「それもどうなんだろうね?彼は今までの配信で一度もボスモンスターと戦ったことはないだろう?通路にいる雑魚モンスなんて誰だって倒せる。つまりまだ彼の実力が証明されたわけではないんだよ」
根拠があるのかないのかわからない俺の実力不明証明を話す。
「でも、凛凪はPKパーティーの襲撃を生き残ったよ?」
「社長に言うのは申し訳ないが、僕としてはあれはアクターなんじゃないかと思っている。リスナーのような素人は気づかなかったみたいだけど、プロからしたら一目瞭然さ。あれは人を殺す動きじゃないよ。無駄が多すぎる」
まああのPK探索者は相手をいたぶるのが好きだったみたいだから舐めてかかってたってのもあるんだろうけど。
「えーと、俺がこのパーティーに入ったのは夕華から推薦があったから。前衛が不足してるらしくてね」
「そうだよ!推薦した責任もあるから、君のパーティーには入れないかな」
「実力云々はまだ入って日が浅いから信頼がないかも知れないけど、社長なら実力不足と判断したらすぐにクビにするだろうから。それまで暖かく見守ってくれると助かる」
「大人だねぇ来栖くん。イラッとしないの?」
東雲さんがジト目でそう言ってきた。
「んー、思うところはあるけど、特に気にしてないかな。東雲さんはイラッとした?」
「そりゃあもちろん。夕華を勝手に引き抜こうして、来栖くんまでバカにされてるんだから」
「あ、それは私もイラッとする。ますます入りたくなくなった」
夕華までジト目で白銀を見つめる。
「僕は事実をそのまま伝えただけだよ?あれ、なにかやっちゃったかな?」
困った顔でポリポリと頬を掻く白銀君。
「まあ二人共、落ち着いて。焼き肉が不味くなりますよ」
なんとか2人を宥める。
「すみません。夕華はまだまだ精神が子供で…」
「あはは、そういうところも可愛らしいですね」
歯の浮くような台詞を平然と話すところがハーレムパーティーの主としての資質なのだろうか。
「じゃあまたいつか」
「ええ、この話はまた今度の機会に」
まだ諦めていないらしい。執着が強いな。
5人で彼の横を通り過ぎていったとき、密かにブツブツと何かを呟くのが耳に入った。
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