猫水嬢魔力抑制訓練! その2

「じゃあ上級魔法でも規模が小さい収斂光線コンヴァーグレイを、装置無しでやってみますね」


[おk]

[wktk]

[光を収束させてレーザーを複数展開する魔法。並列処理と並列構築が難所で、術式の複雑さは上級魔法の入門みたいなものやな]


「行きます――」


猫水嬢の突き出した両手に1枚の大きな魔法陣が浮き上がる。それと並列して周囲に小さな魔法陣が展開された。


収斂光コンヴァーグ――!?」


宣言とともに魔法が発動しようとした瞬間、瞬く間に魔法陣から眩い光が放たれ、全ての陣が澄んだ音を立てて割れた。


注入されていた魔力が流れ出て霧散していく。


「魔力の過剰注入で術式が壊れちゃうとこうなる。膨大な魔力は制御できないと意味ないことがよく分かるね」


[身の丈に合ったってやつ?]

[使いこなせないと意味がないんやな]

[水面ちゃは使いこなせるようになるんか?]


「完全制御は難しいと思います。でも自力で数割の制御はできると思うので…残りは真樹さんに頼りっきりになっちゃいますけど、それで頑張っていこうと思ってます」


[諦めないの偉い]

[水面ちゃああああああああああああああああああああああ]

[ワイも就活諦めないわ]

[水面ちゃああああああああああ]


「じゃあ次はブレスレット起動した状態でお願い」


「はい…!使うのは同じ収斂光線でいいですよね?」


「うん。お願い」


「じゃあ、行きます…!」


先ほどと同じように、突き出した両手から大きな魔法陣。そして周囲に小さな魔法陣が構築される。


腕輪の機能も正常に作動し、球状に障壁も発生した。


「――収斂光線コンヴァーグレイ!」


魔法陣は正常に作動し、敵を焼き殺すレーザーが乱舞した。


「……」


「……」


「……や、やった…!」


初めに歓声を上げたのは発動者の猫水嬢。


「……ああ、やった」


そしてそれに俺が続く。


「やっっっっっったあああああーーー!!!!」


そして一番の歓声を上げたのは東雲さんだった。


「すごいすごいすごい!!まさか本当にできるなんて!!」


「ありがとうございます!初めて上級魔法が使えた…!」


[水面ちゃああああああああああ]

[水面ちゃああああああああああああああ]

[水面ちゃああ!!!]


「俺特に何もしてないからリスナー目線だわ。おめでとう猫水嬢」


「ありがとうございます先輩!嬉しいです!」


「リスナーにも言ってあげて」


[よせやい照れるべ]

[水面ちゃああああああああ]

[俺らこそなんもしてないから]


「いや、これで水面ちゃんが上位職の魔導士ウィザードになる日も近いね!」


「本当、日本一の魔導士、なれるかもな」


「が、頑張ります!」


[なろう小説かな?]

[身の丈に合わない魔力を持った私、3割の力で最強魔導士目指します!書こうかな]

[書かんでええ]


「さてさてさーて、実はもう一つ、来栖くんから武器の制作を頼まれてたんだ。そのお披露目といこう!」


「猫水嬢のに加えて俺の武器まで短期間で作ってくれるなんて…本当に頭が上がらない」


「水面ちゃんのは既存の魔力抑制技術を利用しただけだからあんまり時間はかからなかったよ。むしろこっちのほうが大変だった」


[はよ見せて]

[おいおい、楽しみじゃねぇか]

[武器増やしすぎると真樹ちゃんに嫌われるよ]


「というわけでお披露目ー!東雲謹製、『旋風棍』!」


そう言って某青狸のように掲げたのは一対のトンファーだ。


「トンファー、ですか?」


「刀は近接用なんだけど、手数増やしたくて。トンファーなら徒手空拳と合わせられるから強いかなと」


「はいっ!持ってみて!」


白を基調として透明なクォーツがラインとして埋め込まれている。


「透明なのは魔力を溜め込む魔石。注文通り、チャージ式で色々機能が使えるようになってるよ」


「ありがとうございます東雲さん」


[はよ試して!]

[みたいみたい]

[ビームとか出るんだろうか…?]


「というわけで用意しましたのは仮想エネミー。来栖くんには五体の仮想エネミーと戦ってもらって感触を確かめてもらいます」


そう言って東雲さんが実験室に備え付けられたデバイスをポチポチといじる。


「準備オッケーです」


「じゃあ始めるよー。開始!」


ディスプレイを押下すると、実験室にダンジョンでポップする魔物のホログラムが生まれる。


規模の大きいプロクランが設備として搭載している仮想エネミーは、ホログラムでありながら実体を伴うという不思議な代物である。


つまりなにが言いたいのかというと…


「じゃあ防御面から」


ホログラム――フォレストコングが腕を振り払う。それをトンファーを添えた片腕で受けめると、しっかりとした衝撃が体を抜けていった。


「いいね!」


ダンジョンに行かなくても魔物との戦闘訓練を積めるという便利装置だ。


もう片方の手で握ったトンファーをホログラムの鳩尾に突き込む。筋肉質な感触がトンファーを通じて伝わった。


「よっ」


崩折れたコングの顔面にトンファーを叩きつけ、呆気なく一体がダウン。


「失礼するぞ――お、やってるな」


「社長。仕事はもう良いの?」


「ああ、早めに終わったんだ」


紫倉社長が実験室に入ってきて観戦に参加した。


「お疲れ様です!社長!」


森ゴリラ共の猛攻を躱しながら挨拶をする。


[社長まで来た]

[いえーい、社長見てるー?]


「見てるぞー。真樹、他に機能とかつけてないのか?」


「あ、来栖くん!魔力を込めた状態で持ち手のトリガーを握ればトンファーに風魔法が付与されるよ!」


「良いこと聞いた」


早速魔力を込める。トンファーの持ち手は握らないといけない関係上、魔力を込めれば風魔法は常に発動し続けるみたいだ。


「中級魔法の竜巻トルネードかな?なんにせよ裂傷作れそうで強いな」


棒の部分を中心に風が渦巻く。


そのまま棒を回転させた勢いとともに適当なホログラムに叩きつけた。


「えぐ」


殴打になるはずだった攻撃が、チェーンソーのようにホロウラムの肉体を引き裂き、体の半ばで停止する。


残りの三体も同じように倒した。


[わーつおい]

[Bランクのフォレストコング4体を単独撃破、流石っす]

[凛ちゃああああああ]


「使ってみた感じは?」


「すぐに実践で使えると思う。ありがとう東雲さん。こんなにいい武器を作ってくれて」


「まだまだ改良の余地ありだから、物足りなくなったら何でも言ってね」


「真樹、前々から思っていたんだが、仕様書を作ってみたらどうだ?毎回口頭で説明するのは面倒だろう」


「んー、でも今の所このパーティー以外で装備を作る気はないんだよね。それに口で説明したほうが齟齬なく伝わるし」


「そうなのか?もったいないな…」


「あ、社長用に強化スーツでも作ってあげようか?前に一緒に探索してみたいとか言ってたし」


[実装されたら嬉しいけど]

[やめとけ、強化スーツ使ってもなにもないところで転ぶ]

[まず壊滅的な運動神経をなんとかしてからで]


「コメントが辛辣だぁ…そこまで酷いんですか社長の運動神経」


「社長はねー、前転ができないから」


「もう無理だ諦めてください社長」


「そこまでですか!?」


「前転ができないなら受け身も取れない。つまり死にます」


「ぐっ…経営の才能とかいらなかった…運動神経がほしい…」


「ま、まあ、AIの姿勢制御させることができたらで多少は改善すると思う…馬鹿にならないお金がかかるけど」


「10億までなら出す」


[金持ちめ]

[開発されたら世紀の大発明では?]


「えーこほん。今日の配信はここまで。次はまたダンジョン攻略かな。面白かったら高評価チャンネル登録よろしく!」


[おつかれ〜]

[社長の運動神経は救えるのか]


東雲さんがそう締めて配信を終了した。


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