ある日の訓練でハプニング(猫水水面視点)

「ふぅぅー………!」


目の前で来栖先輩が真樹先輩からもらったトンファーを構える。


旋棍せんこん一式・かぜ息吹いぶき!」


スキルの発動と同時にトンファーの先端部分から魔力が霧のように放出された。


「今のうまく行ったんじゃないですか?」


「ゲホッ、うん。ただまだ魔力の拡散が広いかな。修正していかないと」


クランの実験室に敷かれた白い床に先輩が座り込む。


顔色は良いとは言えない。何度も咳き込んで、肩で息をしている。というのも、スキルメーカーで作ったスキルは、スキルポイントを使わないで習得できる代わりに、回数を重ねないと精度が上がらないのだそうだ。


「スキルメーカーって便利なスキルだと思ってたんですけど、習得するには時間がかかるんですね…」


「頭の中で作ったプログラムを、初めは無理やり体に動かさせるからね…はぁ…ごめん、水取ってくれない?」


「あ、はいっ」


来栖先輩にお水を渡す。


「まあスキルポイントを使わずにいくらでも作れるからね。そのくらいしないと釣り合いが取れないよ。少し休憩したら、今度は猫水嬢の訓練をしよう」


私達が二人で実験室にいるのは、もともと私の魔法の訓練に付き合ってもらうためだった。


先輩曰く、今回作ったのは攻防一体のなかなかすごいスキルらしい。


「…よし、行ける。いいよ!」


「はい!行きます!」


そして私の訓練の内容は、上級魔法の習得と制御。


劫火鳥ヘルフェニックス!」


私が魔法を唱えると黒紫の鳥が先輩に向かって飛翔する。


中級の火属性魔法と比べ物にならない火力と温度の集合体だ。初めて使ったときはあまりの威力に腰を抜かしてしまった。


「旋棍一式・風の息吹!」


来栖先輩が再度、あのスキルを発動する。放出された魔力が、火の鳥を飲み込むように拡散した。


「いい感じに相殺できた…猫水嬢も魔力調節が正確になってきたね」


「はい!でもそのスキルもうまく決まれば強いですね!」


「一応、放出系の魔法に対しての絶対防御を目指してるけど…まだ完成には遠そうだ。猫水嬢はあと水と風と土?」


「はい!」


今私が使った魔法は上級魔法の中でも基本となる魔法。今日はこれを系統ごとに使えるようになるのが目標だ。


「よし、どんどん行こうか。次は?」


「風で!」



==========================================



「次で最後だね。水!」


「はいっ!渦龍怒涛リヴァイアサン!」


最後の水系統の基本魔法を発動する。恐ろしい水圧の水流がうねりを描いて先輩に直撃する。


「旋棍一式・風の息吹ッ!」


先輩がスキルを発動する、が、先ほどと違い、放出される魔力に勢いがない。


このままだと、水圧を防ぎきれずに押しつぶされちゃう!


「先輩!」


「うぼォ!」


案の定先輩は吹っ飛んで壁に背中を強かに打ち付けた。


「グッ…!」


「先輩っ!大丈夫ですか!?」


慌てて床に伏した先輩のもとに駆け寄って名前を呼ぶが、反応がない。


「先輩!?せんぱいっ!」


うそ、早く助けないと、ええっと、こういうときは……


じ、人工呼吸ッ!


「ま、待っててくださいね先輩。今助けますから…!」


両手で先輩の頭を支え、顔を近づける。


今更だけど、え、人工呼吸って…私、先輩に、キスを…!?


「っ…痛ってぇ」


「せ、先輩!気がついたんですね!」


「……猫耳の…天、使?」


「ふぇ…?」


「いや…そんなわけないか……あぁ、猫水嬢、心配かけちゃったかな。ごめん」


「い、いえ!ほんとうに良かったです!」


「スキル使いすぎて流石に魔力不足だったみたい。魔力の消費量がネックだなぁ…びしゃびしゃだし、着替えてくるよ」


「は、はい」


そう言って頭を掻きながら先輩は部屋を出ていった。


「…」


私はといえば、まだドキドキとした鼓動を感じながら床に座り込んでいた。


「天使、天使かぁ…」


配信でたまに『水面ちゃんマジ天使!』とか言われることはあるけど、こうして面と向かって言われたのは初めて、かも。


「…」


「戻ったよ〜……どうしたの口元隠して」


「い、いえ、お気になさらず…」


「じゃあそろそろ帰ろうか。部屋のレンタル時間も来ちゃうし」


「そうですね」


私は立ち上がって外においてある荷物を取りに行く。


「なにかいいことでもあった?歩調が軽いけど」


「へぅ!?な、何でもありませんよ。何でも」


「…?そう、なの?」


「はい!じゃあ先輩、行きましょう!」

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元学生探索者日本一バディの片割れ、プロ入りした元相棒に誘われもう一度、今度は世界一を目指す 梢 葉月 @harubiyori

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