はぐれ星 その4《猫水水面視点》 ※少量のざまぁ要素アリ
冬休み最終日に風邪を引いてしまい、昨日一昨日の投稿はできませんでした。更新を楽しみにしてくれていた人には誠に申し訳ない。風邪なんてここ数年ひいたことなかったのに…もう年かな。
まだ咳と頭痛と目眩と熱が治まってないけど、書けそうな時間でなんとか書けました。3日間も空けてたからちょっと長くなっちゃった。許せサスケ。
ちょっと物足りないかもしれないけど、ざまぁ要素あります。
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翼ちゃんが額に青筋を浮かべながら震えた声で聞き返す。
「ご、ごめーん。聞き間違いかな? おにーさんなんて言ったの?」
「お前みたいなイケメンか強い男には誰にでも媚びを売る三下には動物園の猿がお似合いだって言ったんだよ。もしかして反射的に男に媚びるから脳が萎縮して日本語が理解できてないのか?」
翼ちゃんの青筋がよりくっきりと浮かんだ。握りこぶしがプルプルと震えている。
「とりあえずその汚い視線を引っ込めてくれないかな? 不快なんだ」
先輩は対照的に無表情で翼ちゃんを見下ろす。
「は…? キッショ、おにーさん童貞? 普段女の子に話しかけられないからそうやって冷たく接すればモテるとか考えてるイタい人?」
「冷たい以前に拒絶されてることもわからないのか? そんなに言語能力が低いと彼氏に愛想尽かされるぞ? あ、もしくは体だけの関係で彼氏が何人も居るとか?」
「…勇次! こいつ全国ベスト8の私にすごい失礼なんだけど!?」
いつまでも失礼な態度を取り続ける先輩に翼ちゃんの堪忍袋がとうとう切れて、同じパーティーの
「……すみません。あんまりアイツを怒らせないでください。宥めるのが面倒なので」
「彼氏に慰めてもらえよ。俺と違って人生リア充なんだろ?」
「アンタほんとに……舐めた口聞いてるとぶっ殺すよ?」
「ちょ、だめだよ翼ちゃん。まだ試験中だよ!?」
今にも飛びかからんとする翼ちゃんを、幸ちゃんが後ろから羽交い締めにして押さえる。
「放して!」
「まーまー、落ち着けって、幸。翼も舐められたまんまじゃ終われないんだってよ」
さっきまで別の女性探索者と話をしていたパーティーのリーダー、馬場くんも騒ぎを聞きつけてこちらにやってきてしまった。
「なあ、アンタ、アンタが翼のことをどう言おうが俺の知ったこっちゃないんだが、アイツにもプライドってもんがあるんだ。謝ってくれないか?」
「謝って欲しいのはこっちなんだが? 初対面で馴れ馴れしく纏わりついてきて気持ち悪かったんだけど」
「はあ? 私みたいな美少女に話しかけてもらえるだけでもありがたいと思えよ!」
「おーおー怖い怖い。顔面美人の内面ゴリラはすぐ腕力に物を言わすからね。
「っ、殺す!」
翼ちゃんが幸ちゃんの拘束を振りほどいて先輩に襲いかかる。拘束を振りほどいたと言うよりも、幸ちゃんが拘束を解いたという方が正しいのかもしれない。一度痛い目を見ておいたほうが良いだろう。面白いものが見られそうだ。そんな感情が瞳に込められていた気がする。
「
さらに射程の広い魔法2つを展開し逃げ道を塞ぎ、付与魔法を自分にかけて近接戦に持ち込む。
翼ちゃんの
翼ちゃんが血走った目で先輩を睨みつける。
「死ね!」
こうなった翼ちゃんはもう加減ができない。本当に先輩を殺してしまうかもしれない。
「っ――先輩!」
私は恐怖から思わず叫んでしまうが、先輩は至って冷静だった。
「……はあ――」
まず魔物と戦ったときのように刀を取り出し、
「おらあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「五月蝿い」
「おごぉ…っ!」
周囲に展開された魔法には目もくれず、突進し、殴りかかろうとした翼ちゃんの鳩尾に、鞘を突きこんだ。
「お前、突っ込むことしか頭にないのか? 内面ゴリラじゃなくてイノシシだったのか?」
「が、あぁ……」
悶絶し地面に膝をついた翼ちゃんの髪を掴み、顔を合わせる。
「大体さ、お前みたいが2流が、前衛も後衛も同時にこなさなくちゃいけない近接魔法職を務められるわけ無いだろ? 先に前衛職と魔法職のどっちかを極めてからするもんなんだから」
「は、なせ…っ!!」
「あーはいはい。返すよ」
「は…? ピギャ――」
そう言って先輩は掴んでいた髪を放し、回し蹴りを翼ちゃんの顔面に着弾させた。
5mほど吹き飛び、翼ちゃんは幸ちゃんに受け止められる。
「だ、大丈夫翼――きゃあああああああああああああああああ!!!!!」
「おい翼! 大丈――ヒッ…!!」
受け止めた幸ちゃんはツバサちゃんの顔を確認するなり悲鳴を上げた。
駆け寄った馬場くんも、すぐに顔に恐怖を滲ませた。
私でもそうなっていたと思う。だって、翼ちゃんの誇りだった自分の顔が、無惨にも潰れているのだから。
でも、今私の胸の中にあるのは、パーティメンバーがやられてしまった恐怖やそれを心配する気持ちではなく、先輩が翼ちゃんをぶっ飛ばしてくれた爽快感だった。
「おーおー、思ったより荒れてるね」
突然の揉め事にざわつく他の合格者をかき分けて、一人の女性がこちらにやってくる。
紫の髪を邪魔にならないようにシュシュでポニーテールに纏め、金色の瞳を輝かせながら、その女性は先輩に近づいていく。
「何があったの?」
「ん? んーー……動物園から多少器用なゴリラかイノシシが脱走した」
あ、あの人……知ってる…。
「
幸ちゃんに支えられて立ち上がった翼ちゃんが呂律の回らない口調で叫ぶ。
「ん? ごめん。何言ってるかわからないけど、ダンジョン内での揉め事は基本的に当事者で解決するのが普通だから。話し合いでも、たとえそれが暴力により実力行使でも、ね。だから
その女性……いや、プロステリータス最速の
「そ、そんな…ひどいですよ! だって…翼ちゃんの顔がひどいことに…」
「嘘だろ…? 俺たちのパーティーメンバーなんだぞ!?」
「……」
私を覗いたパーティーメンバーはそれぞれ表現は違えど、一様に絶望を覚えていた。
学校の秩序立ったダンジョンで過ごしぬるま湯に浸かって調子に乗っていただけのダンジョン
その虚栄に塗りたくられた
私も、公共のダンジョンがここまで無慈悲なものだとは思わなかった。確かに全国の精鋭が集まるプロクランだが、どこかで『試験だから大丈夫』という甘えがあったかもしれない。
今回の試験ではダンジョンコアの設定で、致命傷を受けても即時回復して転移する設定になっていた。
しかし、未攻略のダンジョンではそんな事出来るはずがない。魔物に致命傷を貰えば死んでしまうし、二度と生き返ることもない。
だから私は、幸運だった。
一緒にいた先輩も大鷹さんも、気を抜くことのない集中力でダンジョンを進んでいった。
最後に私が特級魔法を使えたのだって、その緊張感に当てられて極限の集中状態に入ることが出来たからだろう。
「せ、先輩! 怪我とかしてないですか?」
私はいらぬ心配だとわかっていながらも声をかける。
「ああ、大丈夫だよ」
「すみません。翼ちゃんが…」
「いいよ。一回くらい殴りたかったし」
「……ねえ凛凪。この子、誰?」
先輩と二言三言言葉を交わしていると、ピリッとした視線を閃道さんに向けられる。
えっ、私なにか気に障るようなことしちゃった…?
「猫水水面嬢。俺がペアを組んだ子だよ。魔力量がハンパじゃない。将来は日本一の魔法使いになりたいらしいけど……あながち、荒唐無稽な夢じゃないと思うよ」
「ね、猫水水面です…! 一応、翼ちゃんたちと同じパーティーに所属してます…!」
「ふーん…」
感情のない瞳でこちらを見つめた後、先輩をジト目で睨みつける。
「……また女の子引っ掛けてる…」
「え?」
「はい?」
小声で閃道さんがなにか言ったが、聞き取れなかった。
「ううん! なんでも無いよ! 水面ちゃん、だね? 1次試験突破おめでとう!」
「あ、ありがとう、ございます…!」
全国的に有名な探索者に褒められると、改めて自分が突破した試験の凄さを実感する。
「よし、じゃあ合格した人も間に合わなかった人も、一度待合室に戻りますよ! ダンジョンコアの設定で魔物の湧きをオフにするので、戻ってください! あと、けが人とかはこちらで運ぶので言ってください!」
閃道さんが1次試験の終了のために、一度待合室に戻るように伝える。
「――ちょっと待ってください!」
そのとき、弛緩した空気に水を差すような声が響いた。
「…なにかな?」
声の主は幸ちゃん。パーティーのメンバーと集まりながら声を上げた。
「戻る前に、合格を辞退する人がいます!」
「ふむ、誰かな?」
「同じパーティーの、猫水水面です!」
「ふーん?」
「はあ…」
幸ちゃんのその言葉に、閃道さんは若干瞳から感情を失くし、先輩は額に手を当ててため息をつく。
「前に翼ちゃんと約束しましたよね!? もし試験に合格しても辞退するって! 翼ちゃんがこんなになって! あなただけペアの人にキャリーしてもらって合格するなんて、許される訳無いでしょう!?」
もはや半狂乱だ。普段から仲のいい翼ちゃんが無惨な姿になってしまってヒステリックになってしまっている。普段の清楚な感じはどこにも見当たらなかった。
「はあ……あのさ、キャリーしたとか言ってるけど、俺だって猫水嬢がいなかったらこの試験に受かってなかったんだ。最後に特級魔法を放って階層をぶち抜いたのは紛れもなく彼女の才能だし、合格する資格は十分にある――」
「先輩。大丈夫です」
呆れながら私のことを褒めてくれる先輩に、断りを入れる。
ここは、私が言わなくちゃならない。
「そうだね、幸ちゃん。たしかに翼ちゃんとはそういう約束をしてた。私には合格する資格がないから。そう思ってたよ」
上級以上の魔法が使えないから。結局は宝の持ち腐れで天才の成り損ないだから。
「でもね、すごく短い時間だったけど、一緒に探索をした大鷹さんは、もう50代くらいのオジサンなのに、日本一の忍者になるって大言壮語を本気で言ってた。」
「だから何!? それはあなたに関係ないでしょ!」
「ううん。だからね、私も1つ、そういう無理難題を言ってみようって思ったんだ」
私は一度言葉を切り、深呼吸をする。
そして、人生で最も大きな声で思いの丈を叫んだ。
「私! 学生探索者猫水水面は! 学生パーティー『ペガススの大四辺形』を抜けて! 別のパーティーに入ります! それでっ、今はまだ未熟だけど、絶対に!! 日本一の魔法使いになります!!!」
私の宣言に、シンと場が静まる。
「…やればやっぱり出来るじゃん」
パチパチと、先輩が拍手をする。それを皮切りに、
「いいぞーっ!!!」
「じゃあ俺は世界一の剣豪にーっ!!」
「水面ちゃんかっこいいぜーーー!!!!」
波のように拍手と歓声が広がっていった。
パーティーメンバー……元パーティーメンバーの心境はどうかわからないが、唖然と口を開けているのが少し面白かった。
「……なんなのよ、あんた、本当に…!」
呆然としながら幸ちゃんがつぶやいたが、すぐに喧騒に呑まれていく。
「先輩! 行きましょう!」
「了解。じゃあ夕華、次は合格したあとに」
「おっけ〜。は〜い! けが人がいるところは呼んで〜!!」
私の足取りは軽い。この魔力を完全に制御するのは、私が考えているよりもずっと難しいだろうし、一生制御できないかもしれない。
でももう諦めない。『日本一の魔法使い』という大言壮語が、探索者猫水水面の新しい羅針盤だ。
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一口解説。
まずこの世界の探索者は自分の得意分野を活かすために職業を決めて、経験を積んでいきます。(異世界ファンタジーなどでよくある、教会で自分の役職を伝えられる、とかではなく、サッカーや野球のポジションのように、基本的に誰でも出来る感じ)
で、その職業の分類で一番初めに来るのが、前衛職、後衛職、魔法職、神聖職、支援職の5つです。
魔法職の内の1つが翼の職業
魔導士はこの世界の日本だと全魔法職の0.001%しかいないので、水面の歩む道は相当険しそうですね。
因みに水面の役職は魔法士。ちゃっかり翼よりも階級上なんです。
で、なんで凛凪が近接魔法職と言ったのかといえば、魔法職であるのは魔法を連発して来たので分かる。でも翼がどの階級なのか知らないため近接で闘う魔法職、近接魔法職と呼んだわけですね。
近接魔法職のイメージは『走りながらチェスをする』感じです。翼はジョギングくらいの速さでやっているイメージ。
時々、こういった解説を挟んでいこうと思います。なにか気になることや矛盾を感じたらコメントで教えてください。割と勢いで書いているからそういう事多発すると思うので。
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