2次試験? ああ、ちょちょいのちょいよ
「んーっ!」
二次試験の会場であるプロステリータスの本部の中に作られた庭園で、俺は寝転びながら伸びをする。
試験? ああ、1対1の対人戦なんてちょちょいのちょいですよ。あまりにも相手の攻撃が遅かったものだから姿勢矯正もしてあげちゃった。
最後は泣きながら「もういいです。ありがとうございます。もういいです」って言ってたな。よっぽど変な癖がついていたみたいだ。
試験をパスした志願者は最後の一人が終わるまで待機ということで、施設内を自由に歩き回っていいと言われたのでこうして俺は寝転がっている。
「オッサンは軽くパスできそうだし、猫水嬢も行けるだろ。四辺形の白ギャルは戦闘できるのかわからないから受かれるかな。…でもあのガキは多分無理だろうな。顔面骨折は魔法で治せるとしても脳震盪は治せない。まず一人で立てるのかどうかすら怪しいし」
頭の中で他の人の試験結果を予想しながら、時間を潰す。
あっさりと終わってしまったので不完全燃焼だ。きっとクランの中でも実力が下の方のメンバーだったのだろう。
「……結局戻ってきてしまった」
数分後、俺は先程まで試験をしていた会場にまた足を運んでしまっていた。暇だったんだもん。仕方ないね。
会場ではまだ多くの舞台で模擬戦が行われていた。
「夕華はいないし、猫水嬢もオッサンももう終わっちゃってていないっぽいな…」
見たいと思った人はもういなかったが、流石プロクランの入団試験。
多くの猛者が揃っている。これから伸びそうな人、もう既に実力が完成している人。
逆に、たまたま1次試験を突破しただけの人、自分の強みを活かす工夫をしてない
人。
「君はあの子をどう見る? あのやけに時代錯誤な白い鎧を着た金髪の子だ」
不意に横から女性が声をかけてきた。その人が示すのは、ハーレム野郎の
今まさに試験官との打ち合いに臨もうとしていた。
「武器は大盾と長剣。身長が高いので武器と一緒にリーチを生かした戦いをするのが定石ですかね? シールドバッシュとかで相手の間合いへの侵入を防ぎつつ」
「ほう。では見てみよう」
試合が始まると、王子が盾を構えながら間合いを詰め、攻撃を仕掛けていく。
いけ好かないやつだが、その動きは基本に忠実でそれなりに基礎が確立されている動きだ。大きな武器に振り回されているということもない。むしろその筋肉で予測不能な連撃を繰り出している。
試験官が大振りな横薙ぎを伏せて躱すが、それを見越して逆の盾で殴りつける。
吹き飛ばされ体勢を崩した試験官にトドメ――
「盾を投げつけて視界を遮って急所を突く」
「…ほう!」
少女の様な声が感心したように声を漏らした。
しかし、俺の予想とは裏腹に、王子は盾を置き距離を詰めると、両手で剣を振り下ろし、試験官の首元で止める。
周囲の取り巻きと思われる女性たちから黄色い歓声が上がり、王子はそれに髪をかき上げ手を振って返した。
「うげ…」
「…彼の人間性はともかくとして、実力は対価なようだ」
そこで俺は初めて声の主の方を振り返る。
「誰もいない…?」
「おちょくっているのかい? 下だよ、下」
声の指示通りに視線を下げると、身長が140行かないくらいの少女が不満気に佇んでいた。
「やっと目が合ったな」
見た目は小学生でも通ってしまそうなくらい可憐。亜麻色の髪を後ろの方で2つにまとめ、肩にかけている。
「…小学生?」
「ほんっとうに失礼だな!?」
いや、その紫の双眸には、見た目年齢と釣り合わないほどの深みが備わっている、気がする。
「私は
「来栖凛凪…です」
なぜか見た目は全く年下なのに年上の雰囲気を醸し出してきたため、あとから取ってつけたような敬語で話す。
「ほうほう、やはり君が来栖くんか。ついさっきの戦闘IQ、そして二次試験を一瞬で終わらせた実力。やはり噂は違わなかったようだね」
「…噂?」
「いや、なに、期待の志望者を試験毎にリストアップしていてね。その中に君も入っていたってだけさ」
思考を読み取らせないアメジストの瞳が俺を射抜く。
「君も精進してくれ、いずれまた会うことになるだろう」
そう言って踵を返していった。
「な、なんだったんだ…?」
結局何が言いたいのかわからず、俺は困惑しながら会場の取り残された。
「先輩っ!」
そのとき、後ろからまた別の声が。
「猫水嬢。その様子だと受かったみたいだね」
「はいっ!」
満面の笑みで猫水嬢が俺のもとにやってくる。
「大鷹さんは、いないんですか?」
「見かけてないね」
猫水嬢がキョロキョロとあたりを見回すが、オッサンの姿は見えない。
「おいおいひでぇぜ二人共。俺はここにいるよ〜」
「えっ?」
「オッサン?」
急におっさんの声が聞こえ、慌てて見回すと、俺たちの背後。壁に背中を預けてオッサンが忍び笑いを漏らしていた。
全く気が付かなかったぞ…
「いつからそこに?」
「お前がここに戻ってきたときくらいからだ。正確には俺がここで時間潰してたらお前が目の前に来たんだがな」
「声くらいかけてよ」
「全然気が付きませんでした……大鷹さんはどうでしたか?」
「もちろん合格。簡単だったぜ」
「まあやっぱりって感じだな」
「ところでお前、ちっちゃい女の子みたいな女性に話しかけられてたろ」
オッサンが俺を見る。
「ん、ああ。何が言いたいのかわからなかったけど。知り合い?」
「知り合いも何も、プロで探索者やるならあの人を知らない人はいないだろ」
「えー…紫倉綾音とか聞いたこと無いんだけど」
記憶の中を探ってみても、似たような名前の声優さんが居るくらいしか思い浮かばない。
「えっ、紫倉綾音って…」
「ん? 猫水嬢は知ってるの?」
猫水嬢の反応を見て、オッサンが口角を上げる。
「当たり前ですよ! 紫倉綾音さんって言ったらプロステリータスのクランマスター。クランの精鋭中の精鋭、第1パーティーの
「…え? あの人が?」
予想外のビックネームに俺は目を丸くした。
「はっはっは! 兄ちゃんもそんな顔できるんだな!」
「そりゃ驚くだろ、つまり、日本で一番強いパーティーのメンバーの一人ってことだよね?」
「そうですそうです!」
「ありゃ別格だぜ。見かけに騙されちゃいけねぇ。俺の隠密にも気づいてたみたいだしな」
俺が気付けなかったオッサンの隠密を…?
失礼なことしてないよな。今になって不安になってきたぞ。
「合格者は一同に会してあの人の話を聞くことになるからな。その後でまた会おうとしてるのかもしれないぜ」
「そういえば話聞いてたんだっけ」
「先輩そんな人と話したんですね! すごいです!」
「ぅぁー……胃が痛い」
その後は3人で雑談しながら時間を潰していった。
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