影に潜む刃、無事粉砕

(任せろ、とは言ったものの、まずは相手の攻撃を謎を解かないとな)


相手が先程から放つ背後からの攻撃。攻撃直前まで気配が全く無く、探知が難しい。


「やっぱスキルの線が高いか」


自信の存在を隠蔽する魔法は無くはないが、高レベルの探知スキルを発動させてもなんの反応もない。


「ははッ! これは避けれるかなぁ!?」


背後から攻撃。攻撃速度自体は気づけばギリギリで躱せる。


「思ったより耐えるねぇ!」


振り向いても姿はない。攻撃した瞬間に隠れてるのか。


「逃げ足だけは早いんだな…!」


感覚は掴んだ。次で捉える。


「……そこっ!」


また背後から攻撃。ギアを一段上げて反撃する。


「危なっ! お前マトモに反撃してんじゃねぇよ!」


初めて敵の姿を捉えた。刃がコートの袖を掠めると、相手が声を荒げる。


「雑魚は雑魚らしく、俺の『影縫かげぬい』の餌食になっておけ!」


あ、馬鹿だコイツ、スキル名っぽいの言ったぞ今。


俺なんかもスキルの発動時にはスキル名を口に出すが、これは名前を呼ぶことでスキル発動の意思を明瞭にし、スキルが不発になることを防ぐための方法だ。やろうと思えば無発声でスキルを使うことが出来る。


そして、名は体を表すというように、スキル名はその能力と大きく関係する事が多い。


『影縫』はおそらく影に関するスキルだ。そこから急に姿が消えたことを考えると…


「『空間歪曲』…」


スキルの発動と同時に背後から殺気。


振り向くと3度目の凶刃が迫る。


「死ねぇぇ!!!」


俺はそれを、避けない。


的確に急所を狙った一突きが俺に到達――


「は?」


しなかった。


男が突き出した腕は、俺に到達する寸前でぐにゃりと歪み、横に逸れている。


相手が驚愕した隙をつき、その腕を斬り飛ばす。


「っぎゃああああああああ!!腕が!俺の腕がああああああああああ!!!!」


「お前のスキルは『影に潜む』能力だな?不意打ち特化の危険な能力だ」


「ぐうううう!!クソがああ!!」


男が再度影に潜る。


「利き腕が使えない状況で無理に不意を突きに行っても無駄になるだけだよ」


背後からダダ漏れの殺気を感じ取る。振り返ると、利き腕を潰されて速度の落ちた攻撃をしてくる男。


「お遊びは終わりだ」


左腕、右足、左足と一気に斬り裂く。


「あああああああああああああああ!!!!!」


「うるさ……プロなんだったらもう少し痛みに慣れておけよ…」


首を引っ掴んで宙に掲げる。


「クソっ!離せクソが!」


「お前のスキル、地面に触れてないと発動できないみたいだな」


男はバタバタと欠損した四肢をバタつかせ罵倒するだけで何もしてこない。


「クソっ、おい!『ミラージュ』! 早く助けろ!」


男が向いた先は夕華たちがもう一人の男と対峙しているの場所だった。


「凛凪…さっきの敵、いなくなっちゃった」


「ごめんね来栖くん。その子が右腕を斬り落とされたときに『旗色が悪そうですね……やはり新人には荷が重すぎましたか』って言って消えちゃったのよ」


少し前からこちらを見ていたのだろうか、全員が俺の方を向いていた。


「そうですか……朝霞さん、たしか尋問官インデロケイターの魔法に拘束系の魔法がありましたよね。それでコイツを宙にぶら下げておいてください。地面に接触してると逃げられるかも知れないので」


「わかったわ…光縛の十字架レストレイントクロス!」


朝霞さんが長杖を振りかざし、男は俺の手を離れ、光を放つ十字架に鎖を縛り付けられて拘束された。


「その十字架に触れている限り、スキルはおろか魔法を使うことはできないわよ。大人しくしなさい」


「クソっ!くそおおおおおおおおお!!」


「猫水嬢、張られた結界はどうなった?」


「もう一人の男の人が消えたときに一緒に解除されました…すみません、お力になれず…」


「いや、猫水嬢たちが睨みを効かせてくれたおかげで相手に集中できた。ありがとう。東雲さんも、ドローン化してくれてありがとございます。戦闘の映像とかも残してくれてるんですよね?」


「うん。証拠はバッチリだよ」


「紫倉社長。PK対策部隊はもう来ますか?」


『ああ、ああ、もうすぐ来ると思うよ。身柄を引き渡して、配信は終わらせよう』


「リスナーの皆さんは?気分悪くなった人とかいませんでした?」


[大丈夫っていうか]

[ワイらは相応の耐性あるから大丈夫よ]

[心配ありがとう]


パーティー全員に労いの言葉をかけてから、対策部隊の到着を待つ。


「到着が遅くなってしまい申し訳ありません。犯人の身柄は本官が引き受けさせていただきます」


数分後、対策部隊の人たちが10人程でやってきた。


新参の俺よりも顔がきく朝霞さんが対応する。


「彼は地面に触れているときに、影に潜むことが出来るスキルを持っています。探索者名簿の照会をお願いします」


「ありがとうございます朝霞さん。さすが、トップクランのパーティーはPvPもお手の物ですね」


「私達は逃げてしまったもう一人と対峙していただけですけどね…彼を拘束したのは新しくパーティーに入ったこの子なんです」


そう言って朝霞さんが俺の方を向く。


「ややっ、そうでしたか。命をかけ犯罪者と渡り合ったその度胸。本官も見習いたいものですな」


「いえ、どうやら彼らの目的は俺だったようなので。自分の身は自分で守るのが探索者の常識ですから」


そう言ってお互い顔を見合わせると、顔を凍りつかせ合った。


「あ、あなたは……」


「……うそやん」


「あら?二人共知り合いだった?」


「…いえ?初対面です。ねえ部隊長殿」


「え、ええ、そうですな。本官は彼のような方を見たことはありません」


「?そう?」


朝霞さんが不思議そうにするが、無視だ無視。


「そういえば先程、『彼らの目的は俺だった』とおっしゃっていましたが、詳しい話をお聞きしてもよろしいですか?」


「後ででいいのなら。今は配信中なので」


「分かりました。では、ダンジョンの待合室にてお待ちしております」


「部隊長!犯人の拘束が完了いたしました!」


「よし!では、我々は先に戻らせてもらいます。帰り道もお気をつけて」


そう言って部隊長は部下と男を引き連れ戻っていった。


「えーっと、じゃあ配信はここまで。みんな見てくれてありがとー」


[乙]

[気をつけてね]

[帰りも気ぃ抜くなよ]


東雲さんがそう言って締めると、ドローンが配信を終了した。


『初配信からすまないね…この後来栖くんは事情聴取か。であるなら終わったあとに本部に来てくれ、情報を共有しておきたい』


「分かりました」

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