数年の空白と、再会
あの河川敷での日々が、懐かしく感じるな。
俺、
現在大学3年生(留年0)の俺は、長期休暇にダンジョン探索を行ったりすれど、完全に探索者として前線を退いている。
そう言えば元相棒の彼女は元気だろうか。無事にプロのクランへと入団したことは風の噂で聞いたが。今もダンジョンに篭って槍を振り回しながら魔物を追いかけているのかもしれない。
講義が終わり、昼休みの時間になるとそれぞれ友達同士で集まりができ、そのまま昼ごはんを食べに行ったり駄弁ったりと思い思いの時間を過ごしていた。
俺はもう今日は授業がない。2年までに卒業に必要な単位を既に取得しているので、あとはバイト漬けの日々だ。
今日はピザ屋の配達のバイト。早速俺は教室を出てバイト先へ向かう。
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「来栖! このピザ届けてくれ!」
「あいよ」
俺がバイトしているのは近所のピザ屋さん。個人でやっているので、値段はちょいと高めだが、客がリクエストした具材をそのままレギュラーの商品にしたりと、地域密着型の店として親しまれている。
この店でバイトを始めたのも、高校時代によく立ち寄っていたからだ。
「そういや来栖。お前の彼女の…」
「え? 俺に彼女いないけど?」
「……あ、ああ、そうだったな」
ピザを受け取るときに、店長から冗談を言われたので若干困惑しながら返すと呆れられた。なんでだ。
「あのたまにお前とピザ買いに来た嬢ちゃん、いたろ」
「ん…ああ、アイツね」
「最近娘がその子のいるクランのダンジョン配信を見てるんだけどよ、そこが新メンバー募集してるんだってよ」
「へー」
「……お前も応募したらどうだ?」
面白い冗談を言う。
「卒業した直後ならいざしらず、もう2年間も本格的な探索をやってないんだ。いま出ても足引っ張って迷惑になるだけだよ」
「そういうもんなのか? ちぇ、宣伝してもらおうと思ってたのによ」
「何言ってんだか。じゃあ行ってきます。3丁目のおばちゃんとこであってるよね?」
「おう」
ヘルメットを被り、俺は原付を走らせる。
「あら凛ちゃん。もう届けに来てくれたの?」
配達先のおばちゃんが人懐っこい笑みで迎えてくれた。
「ヘイ、おばちゃん。おばちゃんのためなら光の速度で駆けつけるよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。ちょっと待ってて、いまお野菜持ってくるから」
このおばちゃんは店の常連だけでなく、配達に行くたびにこうして家庭菜園で採れる野菜を分けてくれるので、本当にありがたい人だ。
「はい、じゃがいもと人参。いつもありがとうね」
「どういたしまして。こちらこそいつも野菜分けてくれてありがとう。お陰で食費が浮いて助かるよ」
袋に入った野菜を受け取り、俺は原付を走らせてまたピザ屋に戻った。
これが、俺が高校を卒業してから続けている生活。大学に行き、バイトでお金を貯め、たまに友人と飲みに行ったりする。
「死」という概念が常に隣り合わせの探索者とは逆の生活だ。
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「じゃ、俺上がります」
「おう、おつかれ」
バイトの時間が終わり、俺は帰路につく。
「アイツの配信チャンネルは……」
ちょうど高校時代の相棒の話が出たところだ。せっかくだしちょっと見てみるか。
卒業後は全然そっちの方の情報を遮断していたので彼女が入ったクランの名前すら知らないんだけど。
「まあ名前検索でてくるでしょ」
そう思って検索すると、出るわ出るわ。
『ダンジョンを駆ける雷光』『日本最速の探索者』『現代の
学生時代とはまた違った二つ名がこれでもかとでてきた。ちなみに学生時代は『
本人も二つ名については火雷を気に入っているらしく、大会や探索者名簿ではそれを使って登録してるようだった。
「うわ、やっぱ速くなってんな」
試しに何個か迷宮探索の切り抜きを見ると、学生時代よりも数段速い動きを披露していた。
昔は魔力の使用効率が悪く、常に雷の魔力が漏れ出していて長期戦は不利だったが、無駄な魔力消費が無くなり、学生時代唯一の課題だった高速戦闘の長期化を克服している。
「すごい……やっぱりアイツはプロになるべくしてなったんだなぁ」
俺がそんなことを呟きながら帰り道の河川敷を通る。家に帰ったら就活のこととか考えないとな。もう3年だし。
「…ん?」
ふと、顔を上げる。視界の端に紫色の髪が写ったからだ。
10m程先に居た彼女は、俺と目が合うと嬉しそうに破顔した。
「やほー、久しぶり」
それは、数年前に違う道を歩んだはずのダンジョンを駆ける雷光。
新進気鋭の日本最速の探索者。
学生時代と殆ど変わらず立つ俺の元相棒、
「ねえ、私…私達ともう一度探索者をやらない?」
こちらに歩きながら、彼女はそう誘いをかけてきた。
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